「バックアップ電源」という誤解が生む「再エネの主力電源化」

2025年04月04日 06:40
アバター画像
技術士事務所代表

oliver de la haye/iStock

近年、再生可能エネルギー(再エネ)の主力電源化が推進される中で、太陽光や風力の出力変動に対応するために「火力や原子力をバックアップ電源として使えばいい」という言説が頻繁に見られるようになった。

この「バックアップ」という言葉を用いつつ行う議論には、重大な誤解が含まれていると感ずることが多い。以下に、その技術的実態と誤認識を整理する。

「バックアップ電源」という言葉の誤用

本来「バックアップ電源」とは、停電や故障などの非常時に一時的に代替する電源を指す。しかし再エネ文脈では、「再エネの変動を日常的に補完する主力電源」という意味で使われており、本来の意味とは大きくかけ離れている。

この言葉の誤用によって、火力や原子力がまるで「コンセントのスイッチかのように」、簡単にオン・オフできるものと誤認されている御仁も見受けられる。

プロセス設備における運転の基本原則

火力発電(特にIGCCなどの複雑なプロセス系)や原子力発電は、いずれも「定常運転を基本」として設計されている。一例として、

  • 運転は年間1サイクル(スタートアップとシャットダウンは1回ずつ)、そして定期メンテナンス
  • スタートアップ/シャットダウンには数時間〜数日を要する
  • 頻繁な起動・停止は熱応力や摩耗を引き起こし、設備寿命を縮める
  • ターンダウン(出力低下)にも限界があり、効率が著しく低下する

通常、ガス化炉などの機器の塔径を決めるのはガスなどの流体の線速度で、機器の容積(径が決まっているから、塔や機器の長さ)を決定するのが処理量である。

たとえば50%出力で運転する場合、設備に供給されるガス量が定格の設計条件からかなり逸脱するため、線速度などが小さくなり、塔内の流体の流れが不安定になるなどして、エネルギー効率や反応特性が大きく悪化する。

原子力発電の特性と限界

原子力発電は、特に長期間の安定出力が求められるベースロード電源である。

  • 出力変動や日替わり運転に適していない
  • 臨界管理、崩壊熱の除去、安全措置など、起動停止には高度な作業が必要
  • 欧州の一部ではロードフォロー運転がなされているが、これは例外的な設計と運用体制の成果であり、一般化できるものではない

誤解されるシナリオ:「昼はゼロ運転、夕方から発電」?

多くの人が次のように考えている可能性がある:

  • 昼間:太陽光だけでまかなえる➡火力・原子力は停止またはゼロ運転
  • 夕方以降、雨天・曇天・降雪時:再エネ設備が止まってしまう ➡ 火力や原子力をすぐに起動して発電
  • このサイクルを毎日繰り返す

これは、現実の設備運用から見て極めて非現実的であり、技術的にも設備寿命的にも無理がある。仮にゼロ運転ではなくターンダウン運転を採るとしても、その効率低下や負荷変動による影響は計り知れない。まったく実効性はない。

代替案とその課題

ターンダウンせずに出力を余剰として活用するアイデアとして、水素製造、メタノール合成、揚水発電、蓄電池などが挙げられるが、以下の課題がある:

  • 高コスト
  • システムが複雑化
  • エネルギー変換効率が低い(効率が50%以下など)
  • インフラ整備・制度設計の課題

電源ごとの役割と特性の整理

ここで、電源ごとの安定性と運転面での柔軟性をまとめてみた。

※詳細は文末参照

これから必要な視点

これまでの議論を踏まえ、安全で経済的にも手頃な発電システム実現のために必要な視点を列挙してみた。

議論の再構築が必要

現代のエネルギー政策議論において、「再エネを主力にし、火力・原子力を柔軟なバックアップに」という構想は、設備の技術的実態と乖離している。

今後は以下の視点が必要である:

  • 電源ごとの設計思想と運用制約を前提とした議論
  • 「定常性と柔軟性」のバランスを考慮したエネルギーミックス設計
  • エネルギー供給の技術的現実への理解と普及

これを怠れば、現場を知らぬ理想論によって、将来的なエネルギー供給の不安定化と設備トラブルを招く危険がある。

最後に

最後に添付した一覧表は、電源別の設備利用率、LCOE、FCOE、安全性・リスク、立地制約、導入の柔軟性を比較したものである。その中でも注目すべき項目は、LCOEと(均等化発電原価)とFCOE(総合発電コスト)である。LCOEは、経済産業省などの資料でも見られるが、発電時のコストのみを抽出した発電コストである。

一方、FCOEは、運用変更や発電効率の低下に伴うコスト(プロファイルコスト)+石炭火力などの調整や系統安定化のためのコスト(バランシングコスト)+送電網への接続コスト(系統・接続コスト)を加算した総合的な発電コストであり、最終的に電気代として、家庭や産業界に対して請求される。

政府は、再生可能エネルギーの主力電源化を発表しているが、現在の技術レベル、そして自然任せであるという厳然とした事実から判断すれば、主力電源には到底なり得ないと言わざるを得ない。

電源別・特徴・運転性・長所・短所一覧表

電源別の設備利用率、LCOE、FCOE、安全性・リスク、立地制約、導入の柔軟性一覧表
※LCOE(Levelized Cost of Electricity):均等化発電原価
※FCOE(Full Cost of Electricity):総合発電コスト

This page as PDF

関連記事

  • 私は友人と設計事務所を経営しつつ、山形にある東北芸術工科大学で建築を教えている。自然豊かな山形の地だからできることは何かを考え始め、自然の力を利用し、環境に負荷をかけないカーボンニュートラルハウスの研究に行き着いた。
  • 日本の2020年以降の削減目標の「基準年」はいつになるのか。一般の方にはそれほど関心のない地味な事柄だが、しかし、基準年をいつにするかで目標の見え方は全く異なる。
  • 原発のテロ対策などを定める特重(特定重大事故等対処施設)をめぐる混乱が続いている。九州電力の川内原発1号機は、今のままでは2020年3月17日に運転停止となる見通しだ。 原子力規制委員会の更田委員長は「特重の完成が期限内
  • アメリカでは地球温暖化も党派問題になっている。民主党系は「温暖化は深刻な脅威で、2050年CO2ゼロといった極端な温暖化対策が必要だ」とする。対して共和党系は「それほど深刻な問題ではなく、極端な対策は必要ない」とする。
  • 【要旨】日本で7月から始まる再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の太陽光発電の買取価格の1kWh=42円は国際価格に比べて割高で、バブルを誘発する可能性がある。安価な中国製品が流入して産業振興にも役立たず、制度そのものが疑問。実施する場合でも、1・内外価格差を是正する買取価格まで頻繁な切り下げの実施、2・太陽光パネル価格と発電の価格データの蓄積、3・費用負担見直しの透明性向上という制度上の工夫でバブルを避ける必要がある。
  • 世耕経産相は「EV(電気自動車)の潮流は拡大してきているが、いきなりEVにいけるわけでもない」と述べ、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)などいろいろな次世代自動車がある中で「戦略的によく考えて中長期
  • 電力需給が逼迫している。各地の電力使用率は95%~99%という綱渡りになり、大手電力会社が新電力に卸し売りする日本卸電力取引所(JEPX)のシステム価格は、11日には200円/kWhを超えた。小売料金は20円/kWh前後
  • 原子力をめぐる論点で、専門家の意見が分かれているのが核燃料サイクルについての議論です。GEPRは多様な観点から問題を分析します。再処理は進めるにしても、やめるにしても多くの問題を抱えます。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑