北朝鮮の核武装は完成の域へ:プーチン・習近平・金正恩の脅威

2025年04月01日 06:40
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東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

ByoungJoo/iStock

北朝鮮の野望

北朝鮮はいよいよ核武装の完成に向けて最終段階に達しようとしている。

最終段階とは何か——

それは、原子力潜水艦の開発である。

北朝鮮は2006年の核実験からすでに足掛け20年になろうとしている。この間に、核弾頭搭載が可能な大陸間弾道ミサイルもほぼ完成させたとみる。当時は野望と見られていたが、北朝鮮の核武装は強固で揺るぎない現実となりつつある。

その最終目標は、核弾頭搭載ミサイルを運搬する〝弾道ミサイル原子力潜水艦〟を開発し、配備することである。

北朝鮮はすでに通常の潜水艦(ディーゼルエンジン駆動)を保持しており、その潜水艦からのミサイル発射実験も成功裡に終えている。

原子力潜水艦のなにがいいのか

原子力潜水艦のメリットは非常に大きい。そのメリットは、海上に浮上することなく長期間潜り続けて任務を遂行できることにある。通常動力型(ディーゼルエンジン駆動)では連続潜行期間はせいぜい数週間とされている。その最も大きな要因はエンジンの燃焼のための酸素補給である。酸素補給のためにはどうしても一定期間後に浮上せざるを得ない。

一方、原子力潜水艦はこの酸素補給の問題がないので、原理的にはいつまでも潜り続けることができる。いつまでもといっても、いずれ原子炉の燃料交換が必要になるので、まあ、数年程度と考えて良い。

ただし、現実的には機器のメインテナンスや乗組員の健康・生命維持のために数カ月に1度程度は浮上しているようである。

北朝鮮の原潜が完成すれば、日本列島を何ヶ月もぐるぐると潜行することなど、いとも容易い。

そればかりか敵対国であるアメリカ合衆国の喉元つまりメキシコ湾(アメリカ湾)の公海上をうろついた後にそのまま潜行して北朝鮮に帰港することができてしまう。そうすれば最大射程5000キロメートルの中距離弾道ミサイルさえ搭載していれば、十二分に米国のワシントンDCやニューヨークのみならず、主な都市や枢要施設が容易に攻撃目標に入ってくる。

つまり大陸間弾道ミサイルは必要がなくなるのである。

北朝鮮の原潜の実態と課題

北朝鮮の国営メディアは、金正恩総書記が、原子力潜水艦の建造を視察したと伝えた。北朝鮮の「国防5か年計画」の最終年が今年であり、原子力潜水艦開発の進捗を世界に発信する狙いがあったと見られている。

韓国メディアのKOREA WAVEによれば、公表された原子力潜水艦は排水量6000~7000トン級と見られる。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と潜水艦発射巡航ミサイル(SLCM)を同時に各々最大10発程度搭載できると目されている。これは相当な脅威といって良い。

ソ連(現ロシア)が開発した舶用小型加圧型軽水炉OK-150のレイアウト
1:原子炉圧力容器(直径約1.5m、高さ約3m)、2:蒸気発生器
Nuclear Naval Propulsion

ただし、乗り越えなければならない開発課題はいくつかあり、それぞれ相当に壁が高い。それは例えば次の2点である。

  1. 小型の加圧型軽水炉の開発
  2. 高濃縮ウラン(20%)燃料の開発

小型加圧式軽水炉——この小型炉の心臓部である炉心(上図の1)の大きさは縦横高さが2m以内に収まる、まさにテーブルトップといってもよいコンパクトなものである。その周辺の蒸気発生器をなど様々な複雑な機器を含めても3方各10m以内に納めなければならない。これは普通の発電用の原子炉に比べればとてつもなくコンパクトで精緻な構造になっている。

北朝鮮の保有する原子炉は黒鉛減速型のいわばゆるい構造のものであり、加圧型軽水炉のような各部がタイトな原子炉を保有していないし、もちろん建造したこともない。

高濃縮ウラン——濃縮度20%程度のウラン燃料を製造しなければならないが、核弾頭用の90%を超える高濃縮ウランの製造技術は手にしているので、濃縮度そのものはさして問題ではないかもしれない。問題はそのような原子炉用燃料を製造して実際に期待された燃焼性能を発揮するかどうかを確認する必要がある。

つまり、1.と2.を合わせて考えると、いきなり潜水艦搭載の小型原子炉を建造するのはどだい無理であって、実験用の原子炉を造らないわけにはいかない。

北朝鮮がそのような実験炉の建造に着手しているのかどうかについては、今のところ情報がない。仮にこれからやるとすれば、ゆうに5年以上の歳月はかかるであろう。

日米への脅威——どうするアメリカ、どうする日本!?

第二次トランプ政権の鍵は経済方面では異様に高い関税の乱発、戦争ではロシアーウクライナそしてガザ地区での停戦から平和の実現である。

トランプ政権の経済政策にはすでにスタグフレーション(高インフレと高失業率が併存する状態)の兆候が見られるといわれている。これはまずい。つまり米国の力を削ぐことになるし、それは当然同盟国の日本にも大きな影響が出てくる。

トランプ大統領は、第一次政権の時から日米安保条約が非対称であり、米国に一方的に過度な負担を強いているという見方をしている。当時の安倍晋三総理はトランプ大統領との外交的〝対話〟を通じて、日本の立場を丁寧に説明してトランプ氏を納得させていた。

2024年6月19日、平壌での首脳会談での条約締結後の握手の模様(ロイター)
読売新聞オンラインより

今後同様のことが石破茂現総理にできるのであろうか。石破氏が臨んだ初のトランプ氏との日米首脳会談の様子を見ていると、実に心許ない。微笑み外交ならぬ、あれは〝つくり笑い外交〟ではないか。上っ面の笑いは対話とは程遠く、今後いつどこで日米安全保障関係が窮地に追い込まれるか知れない極めて深刻な危機的状況である。

一方の露朝関係はどうか。

ロシアと北朝鮮は昨年6月にプーチン大統領が平壌を訪れ金正恩朝鮮労働党総書記との間で「露朝包括的パートナーシップ条約」を締結した。これは確固たる軍事同盟である。

総書記は、両国関係が「自主と正義の実現を共通の理念とする不敗の同盟関係、百年大計の戦略的関係」に格上げされたと喜色満面の様だ。プーチン大統領は「北朝鮮は国家の安全と主権を守るため、防衛力を強化する権利がある」と持ち上げた。

金正恩氏とプーチン氏は今や最高レベルの〝同志〟の間柄である。そして北朝鮮は、ロシアに北朝鮮軍兵士を1万人を超える規模で派遣し、武器弾薬も大量に提供している。このようにロシアーウクライナ戦争に北朝鮮が果たす役割は拡大し重要性を増していっている。

今年5月9日にモスクワで盛大に執り行われる「対ナチス・ドイツ戦勝80周年記念パレード」には北朝鮮軍も参加する。当然軍のトップである金正恩総書記も招待され、10年来の悲願であるプーチン大統領の隣の席に座するのであろう。そして、もう一方の隣には習近平主席が鎮座する。さらに、クレムリンにおいて「プーチン・習近平・金正恩」三者会談が実現することも——ここにスターリン・毛沢東・金日成以来の3国蜜月関係がよみがえる。

本論で分析した北朝鮮の原潜に関しても、すでにロシアから何らかの技術協力・供与が行われていると考えられる。

この北東アジアにおいて、アンチ日本の核脅威は緊密さと勢いを増している。そして日米安保同盟は非常に不透明な先行きのなかに放り込まれつつある。

日米安保の成り行き次第では、これまで国会の場であれこれ論議だけされてきた核シェアリングがまたぶり返すのか。今国会は核論議どころではないのだが・・・

やがて米国に見放される日本。

いよいよ核シェアリングの先の独自核武装という選択肢が強いられる日がくるのかもしれない。

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東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

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