蓄電池政策の大失敗:蓄電池の増強なんていつまで続けるの?

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1. 太陽光発電・風力発電の導入拡大には系統用の蓄電池が必要
アメリカのGWPF(地球温暖化政策財団)アメリカン・フレンズの会長である、フランシス・マントン氏が「エネルギー貯蔵の難問」および「エネルギー貯蔵の大失敗-いつ廃止されるのか?」と題した電気エネルギー貯蔵の困難さ(ナンセンスさ)に関する論文がし掲載されていましたので、日本での太陽光発電導入量の多い九州電力の実データを使って検証してみます。
最近の、再生可能エネルギーに関する記事は、系統用蓄電池を新設するという話題にあふれています。春先の日中などで太陽光発電の余った電力を蓄電池で蓄電しておいて、夜間など発電しない時間帯に放電することで、太陽光発電を有効に活用できる。というものです。
- 中国電力 下松発電所の跡地に系統用蓄電システムの導入2024/12/27(出力1万kW以上、蓄電容量3万kWh以上)
- 四国電力 蓄電池事業会社を設立 2023/6/14(出力1万2,000KW/蓄電容量3万5,800KWh)
- NTTアノードエナジー 福岡県香春町に「田川蓄電所」の運用を開始 2023/7/19(出力1,400KW、容量4,200KWh)
- 関西電力 紀の川蓄電所の運転を開始 2024/11/29(出力4万8,000KW、容量11万3,000KWh)
- 東北電力/みずほリース 2025年度に系統用蓄電池事業を開始2024/2/26(出力5,880KW/容量2万2260KWh)
各社ともに、再エネ導入拡大のためとか持続可能な社会実現のため、など美辞麗句が並んでいますが、これは2021年度から資源エネルギー庁の補助金が始まり、2023年度から東京都まで「東京都地球温暖化防止活動推進センター」なんていう組織を作って、系統用大規模蓄電池導入促進(導入費用の2/3を東京都民の税金で補助)の助成金を出しています。これらの補助金が目的だったんですね。
マントン氏の論文では、再エネで100%系統に電力を供給するためには、どの程度の容量の蓄電池が必要か、シミュレーションしています。「再エネ100%は可能!」とか何の根拠もなしに書かれている論文がたくさん存在します。その無謀さを説明してみたいと思います。
2. 3日間曇りの日が続いても供給できる蓄電池容量
図1は2022年9月18日台風14号が九州地方を縦断した日の九州電力管内電源別発電実績です。水力を含む再エネの出力のみに着色してあります。日射量が少ないですから太陽光発電は少なくなっています。風は強いですが、風力発電は風車を保護するために止めなければならず、少なくなっています。水力発電も河川流量が多すぎると運転できませんから、こちらも出力が下がっています。

図1 九州電力エリア電源別発電量および需要実績(2022年9月18日)
エリア需要と再エネの発電量との差は蓄電池から供給しなければなりません。マントン氏の論文では、このような日が5日間続くと想定しています。私は遠慮して3日間続くとします。
・9/18に必要な蓄電池供給日量 16,409万KWh × 3日 = 49,229万KWh・・・①
次に上記の電力量を、2日間で充電するために必要な太陽光パネルの量を計算します。当然、当日の電力を供給しながら充電しなければなりません。図2は同じ九州電力管内で太陽光発電がフル稼働したと思われる、2024年7月9日の電源別発電実績です。
・7/9の太陽光発電日量 5,682万KWh
・7/9を全量太陽光発電で供給するのに必要な太陽光発電日量 19,738万KWh
ちょっと、乱暴な計算にはなりますが、2022/9/18のような状態の日が2日間続いたとします。その供給に必要な電気を前の2日間で蓄えるとして必要な太陽光発電日量を計算します。太陽光以外の発電は2024/7/9の実績を用います。
・49,229/2 + 5,682 + 19,738 = 50,034万KWh・・・②の太陽光発電量が必要となります。
・50,034万KWh ÷ 5,682万KWh = 8.8倍
2024/7/9の太陽光発電日量が、5,682万KWhですから、2024年時点の約10倍の太陽電池パネルが必要という計算になります。2024年時点でも、阿蘇の山々は太陽電池パネルで覆い尽くされているのに、さらに10倍のパネルをどこに敷きつめるのでしょうか?

図2 中国電力エリア電源別発電量および需要実績(2022年9月18日)
次に、必要な蓄電池の容量を見てみましょう。①に2024/9/18のような状態を3日間電力を供給するためには、49,229万KWhの蓄電池容量が必要と計算しました。関西電力が紀の川蓄電所に設置した蓄電池の容量が日本最大規模だそうですが、11.3万KWhで敷地面積は約8,000㎡です。単純計算ですが
・49,229万KWh ÷ 11.3万KWh = 4,356倍
図3に関西電力管内に設置された紀の川蓄電所の写真を示します。九州エリアだけで、この施設を4,356個所建設しなければ、100%再エネで電力を供給することができない計算です。

図3 関西電力 ORIX共同設置 紀の川蓄電所 全景と蓄電池コンテナ
リチウムイオン電池を使用している。
3. 1年間を通して供給するための蓄電池容量
ここまでの計算は、3日間曇りの日が続いた場合でも、再エネのみで電気を供給するために必要な蓄電池容量の計算ですが、それだけでは不足です。今度は年間で、再エネのみで電気を供給する場合の必要な蓄電池の量をマントン氏の論文と2023年度の九州電力の実績データをもとに計算してみます。
日量だけで計算していますが、太陽光発電で余剰が出た電力量を蓄電、不足した分を放電させます。図4の上が日々の蓄電量と放電量を棒グラフで表しました。
下は上の充放電のグラフの積算データです。もちろん今の太陽光発電では、全然足りません。太陽光発電の量を、N倍して、下の積算グラフがマイナスにならないように調整します。N=5でギリギリマイナスになりませんでした。これで、1年間不足なく供給できる。という計算になります(もちろん今は抑制してる発電量も全部、蓄電する条件で計算しています)。
図4下のグラフを見ていただくと、春先から10月くらいまで、蓄電する必要があります。蓄電量が最大になったのは、2023年11月5日、7,683,587MWhです。
その後は冬場の高需要期にはいります。九州といえども太陽光の仰角が低くなるからでしょう、太陽光の発電量はどんどん下がってしまい、蓄電していた分を一気に吐き出して供給することになります。2024年3月6日には蓄電量はほとんどゼロになり、その後はまた蓄電が始まるというサイクルになります。

図4 九州電力で全量再エネで供給する場合の年間蓄電量の推移
2023年度の実績データをもとに、太陽光発電のみ5倍に拡大してシミュレーション
ところで、この7,683,587MWhの蓄電池はどれくらいになるか?先ほどの紀の川蓄電所のデータをもう1度使って計算します。
・768,358万KWh ÷ 11.3万KWh = 67,996 倍
必要な敷地面積は、
・8,000㎡ × 67,996= 544 km2
福岡市の面積(340km2)の約1.5倍の敷地を必要とします。福岡市に全部蓄電池を敷き詰めてもまだ足りないのです。
関西電力は九州電力の約2.5倍、東京電力は約5倍の需要規模があります。再エネだけで電気の供給はできる。といっている人は、どこにこんな太陽光パネルと蓄電所を作るつもりなのでしょうか?
4. コストのシミュレーション
リチウムイオン電池の価格は、原材料の価格に左右されるため、条件によって変わってきます。いくつかのデータを見てみます。わかりやすいように$1=150円で換算して単位は、円/kWhで表します。

表1 最近の日・米系統用蓄電池工事実績から算出した単位容量(1KWh)ごとの費用
※アメリカ 国立再生可能エネルギー研究所報告の各年の実績。
同報告では時間の経過とともに減少すると予測しているが、材料価格の高騰で至近年の実績は上昇している。
日本の工事実績から、70,000円/KWhで計算します。
・3日間曇りに供給するためのコスト 49,229万KWh × 70,000 = 34兆4600億円
・1年間供給するためのコスト 768,358万KWh × 70,000 = 537兆8506億円
日本のGDPが、2024年第2四半期が、607兆5064億円ですから、1年間供給するために必要な蓄電池容量は、768,358万KWh。そのためのコストは、ほぼ日本のGDPに相当する、537兆8506億円になります。繰り返しになりますが、九州電力管内だけでですよ。
5. リチウムイオン電池は危険すぎる
蓄電池を2階建て3階建てにして高密度に実装すれば1/3になるのでは?という意見があるかもしれません。しかし、蓄電所はリチウムイオン電池でできています。リチウムイオン電池は非常に効率よく電気を蓄えることができますが、引火、爆発しやすい材質です。またコバルトやニッケル、マンガンなど、土壌や水を汚染する材料が多く使われているため、自然界に流れ出てしまうと、環境汚染に直結します。
実際、北カリフォルニアのモスランディングにあるバッテリー貯蔵施設で、2025年1月16日に蓄電池施設で火災が発生し、施設の周辺3,000万㎡の範囲で避難が行われました。日本では蓄電池施設の火災はまだ発生していませんが、それはまだ施設ができてから時間が経ってないからであって、太陽光発電の施設で爆発火災が発生することは、時々あります。
この火災については、「太陽光パネルは光があたっている間は、発電を止めることができなくて、消火活動ができなかった」という点がクローズアップされてますが、私はリチウムイオン電池を設置していたことも、大きな問題だと思います。
大手電力の発変電所やDocomoなどの携帯電話の基地局にもバックアップ用の蓄電池が設置してありますが、これらはリチウムイオンは使いません。昔ながらの鉛蓄電池(MSE型)を使っています。これはリチウムイオンに比べて場所はとるし、容量あたりの価格も高いです。しかし、安全性には変えられません。太陽光発電の会社は、そんな余裕はありません、価格最優先の結果です。
そもそも蓄電所に大量のリチウムイオン電池を設置するなんて、日本の場合は危険物に関する規制が厳しいのが普通ですが、再エネのためであれば、何でもありの日本です。
6. まとめ
今回は、いろいろと計算したので、最後に計算結果を表にまとめてみます。

表2 九州エリア管内で100%再エネ供給に必要な太陽電池、蓄電池諸元
※福岡市の面積(340km2)の約1.5倍、日本のGDPとほぼ同じ金額。

図5 北カリフォルニアのモスランディングにあるバッテリー貯蔵施設爆発火災
KSBW ニュース画面

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