都民の税金を使うのに予算とCO2削減効果を示さない東京都

2025年01月29日 06:40

axlemasa/iStock

東京都、中小の脱炭素で排出枠購入支援 取引しやすく

東京都が中小企業の脱炭素化支援を強化する。削減努力を超える温暖化ガスをカーボンクレジット(排出枠)購入により相殺できるように、3月にも中小企業が使いやすい取引システムを構築する。

(中略)

都は中小企業向けに温暖化ガスの一定程度削減を条件にクレジット購入費用を90万円を上限に補助する。

(中略)

都は30年までに都内温暖化ガス排出量を2000年比で半減させる目標を掲げるが、22年度の排出量(速報値)は5945万トンと同4.4%減にとどまった。クレジット購入は設備投資と比べ削減効果が早く表れる。

何度でも繰り返しますが、炭素クレジット=グリーンウォッシュです。以前も指摘した通り、東京都は本事業に参加するすべての中小企業へ「もっと(実態以上に)排出削減した“ことにしたい”者」と呼ばれてもよいかを確認し、納得していただく必要があります。

東京都カーボンクレジット取引システム事業に物申す

日経の記事に「クレジット購入は設備投資と比べ削減効果が早く表れる。」とありますが、これもおかしな日本語です。CO2の削減は「量」なので本来は大小または多いか少ないかで語るべきところを、効果が早く表れるなどと歪な表現をしなければならない時点で、クレジット購入がCO2を削減しないことは明らかです。

ところで、この炭素クレジット取引事業に関して、2024年12月11日の東京都議会で上田令子都議が質問されていました(5:18:03〜5:33:28)。

令和6年第4回定例会 録画映像(一般質問)

上田議員:炭素クレジットはCO2を減らさないとの指摘がある。中小企業の負担を増やし都民の税金を浪費するだけでは。この事業に必要な予算とCO2削減量をどの程度見込んでいるのか。

東京都:予算は2.5億円。炭素クレジット活用によってより多くのCO2を削減する環境を整える。

都がCO2削減効果について答えないので、代わりに計算してみます。

仮にJ-クレジットの平均単価を1,500円/トンとした場合、2.5億円分のクレジット購入によるCO2削減(した“ことにしたい”)見込み量は16.7万トンです。東京都の2022年度CO2排出量は5,945万トン、このうち産業・業務部門は2,541万トン。都民の税金2.5億円を投じて16.7万トンをカーボン・オフセットした場合、それぞれ0.28%、0.67%の削減効果、ということになります。

2000年比で4.4%減にとどまったため都はこの事業を立ち上げるようですが、削減効果としては4.4%減が4.7%減くらいにしかなりません。効果が早く表れてこの程度。もちろん、実態はまったく大気中のCO2を削減しません。

筆者はこの予算額のほとんどがクレジット購入を補助する費用だと勝手に思い込んでいたのですが、上田都議のX(旧ツイッター)に以下の動画があがっていました。

2.5億円がシステムだけ? よくわからなかったので上田都議に尋ねたところ、「2.5億円はシステム開発費であって、中小企業のクレジット購入費用に充てるものではない、と聞いています」とのことでした。

そんなバカな。予算がシステム開発費のみということは、都が売買を仲介するシステムを提供するだけで、参加する中小企業はクレジット購入費用を自ら負担することになってしまいます。

しかし冒頭の日経記事には「90万円を上限に補助する」とあります。そこで検索してみたところ、なんと2024年5月16日に都が公表していました。

排出量取引創出のためのモデル事業者を募集|東京都 (tokyo.lg.jp)

東京都では、中小企業等の脱炭素化と排出量取引の活性化を促進するため、中小企業等に対してJ-クレジットの創出及びJ-クレジットを活用した脱炭素化の促進を支援する「中小企業等における排出量取引創出のためのモデル事業」を実施しています。

5月に助成限度額90万円を示したうえで募集をかけているのですから、当然システム開発費とは別にクレジット購入費助成の予算額もあるはずです。ところが、12月の都議会で「予算とCO2削減量の見込みは?」との質問に対して、都は間接的なシステム開発費のみを答えて直接CO2削減に資する予算額と削減効果を答えなかった、ということになります。

クレジット購入費助成の予算額が分かれば、前述の通りCO2削減(した“ことにしたい”)見込み量は誰でも簡単に計算することができます。ぜひとも東京都はこの炭素クレジット購入促進事業に投じる総予算(=都民の血税)と、CO2削減効果を都民に示していただきたいものです。

This page as PDF

関連記事

  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 「地球温暖化が想定を上回るスピードで進んでいる。」と言った前振りが、何の断りもなく書かれることが多くなった。筆者などの感覚では、一体何を見てそんなことが言えるのだろうと不思議に
  • 政府の原子力政策をめぐる公職を務め、各国の原子力法制に詳しい石橋忠雄弁護士に、原子力規制委の行政活動について、法律論からの問題点の寄稿をいただいた。
  • 鹿児島県知事選で当選し、今年7月28日に就任する三反園訓(みたぞの・さとし)氏が、稼動中の九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)について、メディア各社に8月下旬に停止を要請する方針を明らかにした。そして安全性、さらに周辺住民の避難計画について、有識者らによる委員会を設置して検討するとした。この行動が実現可能なのか、妥当なのか事実を整理してみる。
  • (前回:温暖化問題に関するG7、G20、BRICSのメッセージ①) 新興国・途上国の本音が盛り込まれたBRICS共同声明 新興国の本音がはっきりわかるのは10月23日にロシア・カザンで開催されたBRICS首脳声明である。
  • スマートジャパン
    スマートジャパン 3月3日記事。原子力発電によって生まれる高レベルの放射性廃棄物は数万年かけてリスクを低減させなくてならない。現在のところ地下300メートルよりも深い地層の中に閉じ込める方法が有力で、日本でも候補地の選定に向けた作業が進んでいる。要件と基準は固まってきたが、最終決定は20年以上も先になる。
  • 原発事故から3年半以上がたった今、福島には現在、不思議な「定常状態」が生じています。「もう全く気にしない、っていう方と、今さら『怖い』『わからない』と言い出せない、という方に2分されている印象ですね」。福島市の除染情報プラザで住民への情報発信に尽力されるスタッフからお聞きした話です。
  • 世界のマーケットでは、こういう情報が飛び交っているようだ。ロイター(−7.1%)や日経(−8%)も含めて、日本の4~6月期の実質GDPはリーマンショック以来の落ち込みというのがコンセンサスだろう。これは単なる駆け込み需要の反動ではなく、本来はもっと早く来るはずだった供給ショックがアベノミクスの偽薬効果で先送りされた結果である。その意味で、これは1970年代の2度の石油危機に続く第3のエネルギー危機とも呼べる。
  • 翻って、話を原子力平和利用に限ってみれば、当面の韓米の再処理問題の帰趨が日本の原子力政策、とりわけ核燃料サイクル政策にどのような影響を及ぼすだろうか。逆に、日本の核燃料サイクル政策の変化が韓国の再処理問題にどう影響するか。日本ではこのような視点で考える人はあまりいないようだが、実は、この問題はかなり微妙な問題である。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑