米トヨタなど米国企業がDEIから撤退を始めている
1月12日の産経新聞は、「米マクドナルドも『多様性目標』を廃止 トランプ次期政権発足で見直し加速の可能性」というヘッドラインで、米国の職場における女性やLGBT(性的少数者)への配慮、『ポリティカルコレクトネス(政治的公正)』の行き過ぎによりさまざまな弊害が出ており、これに反対する動きが始まっていると報じた。
米国企業が進めるDEIからの撤退
米国のマクドナルドは、米国内の法的環境の変化を理由に、以下の変更を発表している。
- 米国内のリーダーシップ層における「過小評価されているグループ」の比率を2025年末までに35%にするという目標を撤回
- サプライヤーに対するDEI(Diversity, Equity and Inclusion; 多様性、公平性、包摂性)要件の廃止
- 「多様性チーム」を「グローバル・インクルージョン・チーム」に改称し、外部の多様性調査への参加を一時停止
マクドナルドは、これらの変更後も包摂性へのコミットメントは揺るぎないと強調したが、米国内では同様の動きが見られ、DEI施策の見直しが進行している。
Epoch Timesなどによれば、米国での同様の動きは、キャタピラー、フォード、ハーレーダビッドソン、ディア・アンド・カンパニー、モルソン・クアーズ、トラクター・サプライ、ジョン・ディア、ロウズ、ブラウン・フォーマン、スタンレー・ブラック・アンド・デッカー、トヨタ、ボーイング、ウォルマート、メタなどでも見られており、DEIからの撤退や取り組みの縮小が進んでいるということだ。
これらの企業の幹部は、DEIというイデオロギーに現を抜かすのではなく、顧客に目を向け、優れた商品やサービスを提供することこそが、株主の価値を創造することであるという本来の姿に戻ろうとしている。
ESGの推進者だった米大手投資企業ブラックロックのフィンクCEOでさえ、「政治的」になりすぎたとしてDEIを見捨てた。他の大企業は、DEIへの取り組みを完全には覆していないにもかかわらず、それを軽視している。
つまり、DEIやその他のソーシャル・イニシアチブは「徒花」であり、企業の収益にプラスになることもなければ、効率性を向上させることもない。実際、DEIイニシアチブは時間、資金、その他のリソースを浪費する。
企業が優れた人材を採用・維持し、従業員を公平に扱うためには、企業は多様性に係る責任者を置いたり、感受性トレーニングを行ったり、ノルマを課すなど行っているが、そんなものは必要としないということだ。
この動きは、消費者にとっても、ますます「政治家」する職場で働かなければならなかった100万人の労働者にとっても朗報だという。
米トヨタ、昨年10月、DEIに関する方針の見直しを発表
米国全土で企業が社会的活動から核心ビジネス目標へと焦点を移す動きがある中、米トヨタは、昨年10月にDEI活動の一部を縮小し、LGBTイベントへのスポンサーシップを停止し、外部ランキングから撤退すると発表した。
それまでの米トヨタは、DEIへの強いコミットメントを反映しており、昨年6月に更新された最新のサステナビリティ計画には、人種、性別、性的指向に基づき労働力の構成を変えることを目的とした多様性の取り組みが含まれていた。
この計画には、2014年と比較して2030年までに管理職の女性の数を5倍に増やすなどの女性スタッフの採用目標が含まれている。また、「無意識の偏見」トレーニングや、管理職の進捗を追跡するためのDEIスコアカードなどの取り組みが強調されており、反DEI活動家から、「ウォーク(WOKE=社会問題などへの意識高い)系」ポリシーに焦点を当てている企業として批判されていた。
しかし、現在の米トヨタは、STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)教育や労働力に特化した活動に絞り、プライドパレード(LGBT文化を称えるパレード)などの文化イベント支援を終了すると従業員に通知した。また、トヨタ・ビジネスパートナリンググループを再編成し、専門能力開発やビジネス推進を重視する方針を打ち出した。
さらに、米トヨタはHRCの企業平等指数において完璧なスコアを獲得していたが、こうした平等指数など、第三者ランキングへの参加を終了することも決定した。
米トヨタの方針変更の発表を受け、「企業の中立性が確保されれば、消費者の核心的な信念を侵害しないため、ビジネスは成功するだろう」という歓迎の声も聞かれる。
米トヨタも反DEI活動家からの批判をかわそうとして、発表した方針転換ではないのだろうが、企業サイトには、いまでもDEIの大切さが記載されている。
Toyota USA | Diversity and Inclusion
今後、米トヨタがどのように多様性とビジネス目標のバランスを取っていくのかが注目される。
トヨタ自動車の公式見解
トヨタ自動車の公式企業サイトには、ESG:社会のひとつとして、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)について、以下が記載されている。
【ありたい姿】
・自動車会社からモビリティカンパニーへの転換に向けた従来領域のたゆまぬ変革と新領域へのチャレンジに取り組み、多様な才能や価値観を持つ人材が最大限能力を発揮
【取り組み事項】
・多様な生き方・働き方を尊重し、一人ひとりの意欲・能力に応じた活躍機会を提供
・性別、年齢、国籍、人種、民族、信条、宗教、性的指向、性自認、障がい、配偶者や子の有無などを含むいかなる理由であれ差別を認めない
・ハラスメントのない、風通しの良い職場づくり
我が国の政府や財界、マスコミなどは、今でもDE&Iを強化しようとしている。そうした国内の空気を読んだうえで、この公式企業サイトは書かれているのであろう。奥歯に物が挟まったような微妙な言い回しになっており、具体的なことは何も語っていない。
米国と同じく、我が国でもDEIやその他のソーシャル・イニシアチブがビジネスを進めていくうえでの「徒花」だとしたら、菅首相の「ネットゼロ、カーボンニュートラル」宣言に反対した豊田氏のように、DEIというイデオロギーに対してもトヨタ独自の撤退宣言を行うという気骨を示して欲しいものである。
関連記事
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 ドイツの屋台骨でありEUの中心人物でもあったメルケル首相が引退することになり、今ドイツではその後任選びを行っている。選挙の結果、どの党も過半数を取れず、連立交渉が長引いてクリス
-
自動車メーカーのボルボが電気自動車C40のライフサイクルCO2排出量を報告した。(ニュース記事) ライフサイクルCO2排出量とは、自動車の製造時から運転・廃棄時までを含めて計算したCO2の量のこと。 図1がその結果で、縦
-
以前書いたように、再生可能エネルギー賦課金の実績を見ると、1%のCO2削減に1兆円かかっていた。 菅政権が26%から46%に数値目標を20%深堀りしたので、これは年間20兆円の追加負担を意味する。 20兆円の追加負担は現
-
真夏の電力ピークが近づき、原発の再稼働問題が緊迫してきた。運転を決めてから実際に発電するまでに1ヶ月以上かかるため、今月いっぱいが野田首相の政治判断のタイムリミット・・・といった解説が多いが、これは間違いである。電気事業法では定期検査の結果、発電所が経産省令で定める技術基準に適合していない場合には経産相が技術基準適合命令を出すことができると定めている。
-
下記のグラフは、BDEW(ドイツ連邦エネルギー・水道連合会)(参考1)のまとめる家庭用電気料金(年間の電気使用量が3500kWhの1世帯(3人家族)の平均的な電気料金と、産業用電気料金(産業用の平均電気料金)の推移である。
-
少し前の話になりますが、2016年12月20日に経済産業省に設置されていた「東京電力改革・1F問題委員会」において、「東京電力改革提言」なる報告書がまとめられました。この提言では福島における原発事故の対策費用の全体像が初
-
以前、2021年の3月に世界の気温が劇的に低下したことを書いたが、4月は更に低下した。 データは前回同様、人工衛星からの観測。報告したのは、アラバマ大学ハンツビル校(UAH)のグループ。元NASAで、人工衛星による気温観
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 アフリカのサヘル地域では1980年代に旱魃が起きて大きな
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間