スーパースウォームの脅威:軍事戦略を塗り替える技術革新
スウォーム(swarm)とはウジャウジャと群れる・・・というイメージである。
スウォームについては、本稿「AIナノボットが核兵器を葬り去る」にて論じたことがある。
今回はスウォームのその後の開発展開とその軍事的意味合いについて論じる。

※画像はイメージ(編集部)
georgeclerk/iStock
気の毒な北朝鮮軍
北朝鮮軍がロシア軍に編入され、ロシア西部クルスク州の国境地帯などの前線に押し出されているが、苦戦は免れずすでに多くの戦死者が生まれている。
現地では、もともと一般用に開発され販売されているクアッドコプターのような小型ドローンが、偵察、砲撃誘導、戦車の破壊などで活躍しその有用性を明らかにした。
ドローン技術に優れたほうが戦況を優位に導けるのである。
ただし、北朝鮮軍のドローン対応はきわめて稚拙なもののようである。例えば、北朝鮮軍人3人が1チームを組んで、1人が囮になる。囮を中心に残りの2人は距離を置いて左右の側面に配する。
皆さんの多くもTVなどで見たと思うが、ドローンは標的に向けて連射する直前にホバリング(空中での停止飛行)する。その一瞬に左右の北朝鮮兵がドローンに向けて銃を放ち駆除する。しかし、これではどう見ても勝ち目がない。運が良ければたまたま撃ち落とせるくらいだ。
スーパースウォーム(超群れ)
そもそも大量のドローンが、場合によっては数千機の小型ドローンが、単なる多数の飛行隊ではなく〝群れ〟を成してつまり編隊を組んで、襲いかかった場合、上記のような北朝鮮の人海戦術ではとても間に合わない。
この場合は、数千機が戦術的に意味のある編隊を組んでいるので実に厄介である。
皆さんは、数千機のドローンが夜空で光のパフォーマンスを行なっている報道を目にしたことがあるかもしれないが、あれは一機一機がそれぞれにプログラムされた軌道を飛んでいるだけなので、相互連携のある編隊ではない。
このような数千機のドローン編隊をスーパースーパースウォーム(超群れ)という。こういった研究はもうずいぶん以前から行われており、遅くとも数年前には一般人の目につくところにレポートが晒されている。
このスーパースウォームの研究は、米国、中国、ロシア、イスラエル、英国などが先導している。
ごく最近、韓国の漢陽大学校のチームがまるで蟻のような超小型ロボットのスウォームを開発したと発表した。
このスウォームは集団で協力して水に浮かぶ筏になったり、自重の数百倍もの物体を運んだり、障壁を乗り越えて行ったりすることが可能。スウォームを構成するそれぞれのマイクロロボットは砂つぶほどに小さく、サイズは0.3mm×0.3mm×0.6mmと実際の蟻よりも小さい。
このようにスウォームそしてスーパースウォームの広がりは、単に小型ドローンに止まらず陸海空への展開を見せている。
もちろんこのようなスウォームの広がりと適用は軍事だけではなく、医療やその他の民生領域にも大きな革新をもたらしつつある。
しかし、軍事的な意味合いは常に最優先かもしれない。
中国による台湾の「隔離」とスーパースーパースウォームの出番
中国による台湾侵攻はわが国にとって最大の懸案事項のひとつである。
最近議論されているのは、中国が台湾に対してあからさまな侵攻を行う可能性は低いという点だ。これは、直接的な侵攻が国際社会の激しい反発を招くためである。その代わりに、中国は時間をかけて台湾を「隔離」し、徐々に締め上げていく戦略を取るのではないかと考えられている。
隔離とは海上封鎖に準ずるようなものである。台湾を仮に巨牛に例えるなら、それはまるでアナコンダが巨牛を取り巻いてじわじわと締め上げて、やがてはてる(降伏する)のを時間をかけて待つ戦略だとされる。
このアナコンダ作戦(隔離)とはどのようなものなのか・・・
封鎖は、中国人民軍がミサイル攻撃を始めとする武力行使によって海峡封鎖などによって台湾を包囲し兵糧攻めにすることが主要な要素になる。それに対して〝隔離〟の場合は軍ではなく中国の海警局が臨検などの法的行為によって台湾と諸外国の関係を離隔することが主要になる。このことによって武力衝突は避けられ、まさに曖昧なグレーな状態が続くことになる。
〝平和国家〟を標榜する中国にとっては時間をかけることさえ厭わなければ実に理にかなった兵法というほかない。
このような隔離にあっては、スーパースウォームが活躍する場面が様々に出てくるのではないかというのが私の予測である。
中国が台湾の隔離にもし踏み出せば、次に狙いを定めてくるのは、わが国の南方海域となる可能性が高い。スーパースウォームへの対策は極めて重要性を帯びてくるはずである。

関連記事
-
エネルギー基本計画の主要な目的はエネルギーの安定供給のはずだが、3.11以降は脱炭素化が最優先の目的になったようだ。第7次エネ基の事務局資料にもそういうバイアスがあるので、脱炭素化の費用対効果を明確にしておこう。 「20
-
中国の台山原子力発電所の燃料棒一部損傷を中国政府が公表したことについて、懸念を示す報道が広がっている。 中国広東省の台山原子力発電所では、ヨーロッパ型の最新鋭の大型加圧型軽水炉(European Pressurized
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 前回書ききれなかった論点を補足したい。現在の日本政府による水素政策の概要は、今年3月に資源エネルギー庁が発表した「今後の水素政策の課題と対応の方向性 中間整理(案)」という資料
-
この連載でもたびたび引用してきたが、米国共和党は、気候危機など存在しないことを知っている。 共和党支持者が信頼しているメディアはウオールストリートジャーナルWSJ、ブライトバートBreitbart、フォックスニュースFo
-
政府の審議会で発電コスト試算が示された。しかしとても分かりずらく、報道もトンチンカンだ。 以下、政府資料を読みといて再構成した結論を簡潔にお示ししよう。 2040年に電力を提供するための発電コストをまとめたのが図1だ。
-
早野睦彦 (GEPR編集部より)GEPRはさまざまな立場の意見を集めています。もんじゅを肯定的に見る意見ですが、参考として掲載します。 高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市) (本文) もんじゅの存在意義の問いかけ 「政府
-
「脱炭素社会の未来像 カギを握る”水素エネルギー”」と題されたシンポジウムが開かれた。この様子をNHKが放送したので、議論の様子の概略をつかむことができた。実際は2時間以上開かれたようだが、放送で
-
GEPRを運営するアゴラ研究所は映像コンテンツ「アゴラチャンネル」を放送しています。5月17日には国際エネルギー機関(IEA)の前事務局長であった田中伸男氏を招き、池田信夫所長と「エネルギー政策、転換を今こそ--シェール革命が日本を救う?」をテーマにした対談を放送しました。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間