ドイツの風力発電偏重で全欧州の電力価格が高騰(尾瀬原 清冽)
ドイツの風力発電偏重で電力の価格が急上昇
アメリカ・テキサス州の記者、ロバート・ブライス氏のブログによると、2024年12月11日と12日の2日間、風力発電の大幅な低下および気温の低下による需要増によって、電力市場のスポット価格が高騰しました。
この価格の高騰は、ドイツだけにとどまらず、水力発電の比率が高く、本来発電変動電源の影響を受けにくい、ノルウェーや原子力発電の比率の高いフランスのスポット価格も大幅に上昇しました。
図1にドイツの電力市場価格と再生可能エネルギーによる発電量、非再生可能エネルギーによる発電量のグラフを示します。
まず緑色の再生可能発電の発電量を見ると、12月11日~13日にかけて、急激に落ち込んでいます。また黄色の折れ線グラフで示した電力市場の日中連続市場価格は、それまで200EUR/MWh以下で推移してたものが、一気に1,000EUR/MWhを超えています。風不足と日照不足が原因です。
発電が落ち込んだ分は、石炭やLNGなどの非再生可能エネルギーによる発電(グラフでは灰色の部分)を増加させて補っていますが、風力、太陽光の落ち込みをカバーすることはできなくて、全体の発電量としては不足しています。
この不足分は、外国からの電力の輸入で補っています。ブライス氏によると、ロシア産ガスの供給をめぐる懸念から、ヨーロッパがエネルギー危機になった2022年末以来の高値ということです。
図2は同じ期間の、ノルウェーの発電量と電力市場価格のグラフです。ノルウェーは水力発電の発電量が90%以上占めており、緑色で示した水力発電の発電量は12月11日~13日の間も減少していません。安定して発電しています。なので本来、ドイツの風力、太陽光の出力が落ち込んでも電力の価格は影響を受けないはずです。
しかし、電力の市場価格はドイツの価格に引っ張られるように、高騰しています。これは、ヨーロッパ各国は送電線で連系しており、ドイツの小売会社がヨーロッパ中の電力を買いに走ったためです。ノルウェーの、翌日電力オークションNo.2市場では、900EUR/MWhまで上昇しています。
ドイツの電力業界を襲う「暗い凪」
ドイツの電力業界には、「ドゥンケルフラウテ(暗い凪)」という言葉が存在します。北海方面に発生する高気圧によってもたらされる現象で、「暗い」という言葉が示すとおり、厚い低層の雲により日光がさえぎられ、同時に「凪」となって風がほとんど吹かない状態を示す言葉です。
当然、太陽光発電や風力発電はほとんど稼動できなくなり使い物になりません。さらに都合の悪いことにこの現象のほとんどは10月~2月の寒い時期、すなわち電力需要の高くなる時期に発生します。今回の電力価格の高騰もこの「暗い凪」によってもたらされたものです。
図3は「地球の風」というサイトの画面キャプチャーで、地表面の風の向きや強さがわかるサイトです。線の本数が密になるほど、また地面の色が緑色になるほど強い風を示しています。
12月12日のキャプチャーです。ドイツ国内は風の強さを表す線はほとんど見えません。地図の色も真っ青になっています。気象現象には国境は関係ないなずですが、ドイツの国土を選んだかのように風が全く吹いていません。ドイツでは1年に2回~10回程度、この暗い凪現象が発生しています。
国家間連系送電線がドイツの電力価格高騰を周辺地域に拡散
ヨーロッパは電源の周波数が50Hzで統一されていること、多くの国が地続きであることから古くから国と国の送電系統を連系して運用していました。
さらにソ連崩壊以降は、東ヨーロッパ諸国にも連系が進み、さらに大きな系統となって運用されています。ノルウェーからは対岸のオランダ、デンマークなどへ連系している送電線があります。これによりヨーロッパは1つの市場となって取引を行っています。
このため、ドイツの小売会社はヨーロッパ中の電気を買いあさることができ、ドイツは大停電を避けることができたわけです。しかし、本来、ドイツの需給逼迫とは関係のない、国内の需給バランスはしっかりとれていたノルウェーが電力価格の高騰という被害をこうむることになりました。
自然エネルギーを推進する人々の中には、
- 国際的な送電網を拡大することで、太陽光や風力発電の出力が変動しても、余剰電力を他国に売ったり、不足時には他国から購入したりできる
- 日本もヨーロッパを参考に、ロシア、韓国、中国などの近隣諸国と送電網を連携することで、再生可能エネルギーの導入量を増やせる
- 将来的には、日本がエネルギー輸出国になる可能性もある
などという意見があります。
しかし、こうした国際送電網には、電力需給の不均衡が周辺国に悪影響を与えるという負の側面もあります。今回の事例は、その影響がむしろ大きいことを示しています。
ノルウェーと欧州を結ぶ連系送電線はすでに老朽化
ノルウェーのニュースメディア「ヴィシェグラード24」のXアカウントによると、ノルウェーとヨーロッパを結ぶ2本の送電線があり、それらは900万KWの送電容量がありますが、2026年と2027年に技術寿命を迎えます。
これらの各国を結ぶ送電線には、重要な役割がいくつかあります。たとえば、「系統の容量を増やして周波数を安定させる」「緊急時に電力が不足した際、相互に融通する」などです。ただし、これらの仕組みが有効に機能するのは、各国が自国の電力供給に最大限努力し、それでもなお需給バランスが崩れた場合に限られます。そのような場合であれば、応援する側も最大限の協力を惜しまないでしょう。
しかし現状は異なります。ドイツは独自の判断で原子力発電所の閉鎖を決定し、大量の再生可能エネルギーを導入した結果、突然の電力不足や電力価格の高騰を引き起こしています。その負担を周辺国に押し付ける形で、この送電網が利用されているのが実態です。
ノルウェーのエネルギー大臣テリエ・オースランド氏は「ひどい状況だ」と発言し、スウェーデンの副首相兼エネルギー大臣であるエバ・ブッシュ氏が「ドイツ人に激怒している」と報じています。最後に記事はさらに、ドイツが原子力発電所を閉鎖する決定をしたため、「スウェーデン南部とノルウェー南部の人々は、10分間のシャワーに750円支払わなければならない」と説明しています。
ノルウェーとヨーロッパを連系する老朽化した送電線を更新していくためには、ノルウェーの人たちは電気代か税金でで費用を負担することになります。現状では、ドイツを一方的に助けるため、自分たちの電気代を高騰させるための設備になってしまっている送電線の更新コストを負担する気になるでしょうか?
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尾瀬原 清冽
1966年生まれ。1990年電力会社に入社。給電部門、情報通信部門で勤務。電力の需給運用業務や自動給電システムの設計、新規発電事業者の出力抑制システムの設計などに従事。
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