2023年に起きた地球規模の温暖化は原因不明

2024年11月13日 06:40
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員

leolintang/iStock

2023年は、気候学にとって特別な年であった。世界各地の地上気象観測地点で、過去に比べて年平均気温が大幅に上昇したからである。

ところが残念なことに、科学者はこの異常昇温を事前に予測することができなかった。

CO2などによる温室効果(地球温暖化)はもちろんのこと、2020年以降の世界的な船舶由来の二酸化硫黄排出規制に伴うエアロゾル排出量の低減を含めた様々な物理・化学的要因を考慮したとしても、同年の地球の平均気温の観測値は気候シミュレーションの予測結果を0.2℃も上回ってしまうという(Schmidt, 2024)。

地球温暖化の速度が100年間で1℃に満たないことを考えると、予測誤差は大きいといわざるを得ない。

地球温暖化が主要因ではないとすると、この異常高温をもたらした自然変動(地球の気候がもともと持つ変動する性質)の正体とは、一体何であろうか。

この疑問に対して、既に多くの仮説が提示されており、いずれも部分的には影響していると思われる。しかし、いずれが主要因なのかはわからない:

いずれの現象も全貌は不明であり、シミュレーションで正確に評価することは難しい。このことは、数年先の気候ですら予測することは容易ではないことを意味している。

あまり知られていないが、実のところ20世紀前半に北極域を中心に発生した世界的な温暖化の原因についても、いまだに結論が出ていない。

このような現状を踏まえると、現在起きている気温上昇のほとんどの部分が、CO2などによる温室効果で説明できるとは言い切れないかもしれない。

したがって、仮に世界のCO2排出量を大幅に削減したにもかかわらず、気温が十分低下しなかったという場合も想定し、「自然変動由来の異常気象」への対応策を進めることが肝要である。

拙著「データで読み解く地球温暖化の科学」では、多様な分野の最新の科学的知見や過去100年近く続いている観測データの丹念な分析によって、地球温暖化問題を巡る疑問や温暖化が進んだ未来について包括的に考察している。

データで読み解く地球温暖化の科学

【目次】

はじめに
第1章 地球温暖化とヒートアイランド
第2章 自然変動と20世紀の温暖期
第3章 地球温暖化とエアロゾル
第4章 異常気象と極値統計
第5章 温暖化が進んだ世界
第6章 化石燃料技術とCO2施肥効果
第7章 過去の気候変動と都市農業
第8章 海面上昇と地盤沈下
第9章 科学技術で環境問題は解決するのか
おわりに

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員

関連記事

  • 例年開催されるCOPのような印象を感じさせたG7が終わった。新聞には個別声明要旨が載っていた。気候変動対策については、対策の趣旨を述べた前文に以下のようなことが書かれていた。 【前文】 遅くとも2050年までにCO2の排
  • 「手取りを増やす」という分かりすいメッセージで躍進した国民民主党が自公与党と政策協議をしている。最大の焦点は「103万円の壁」と報道されている。 その一方で、エネルギーに関しては、国民民主党は原子力発電の推進、ガソリン税
  • 国会の事故調査委員会の報告書について、黒川委員長が外国特派員協会で会見した中で、日本語版と英語版の違いが問題になった。委員長の序文には、こう書かれている
  • 本年1月に発表された「2030年に向けたエネルギー気候変動政策パッケージ案パッケージ案」について考えるには、昨年3月に発表された「2030年のエネルギー・気候変動政策に関するグリーンペーパー」まで遡る必要がある。これは2030年に向けたパッケージの方向性を決めるためのコンサルテーションペーパーであるが、そこで提起された問題に欧州の抱えるジレンマがすでに反映されているからである。
  • 先日、東京大学公共政策大学院主催の国際シンポジウムで「1.5℃目標の実現可能性」をテーマとするセッションのモデレーターを務めた。パネルディスカッションには公共政策大学院の本部客員研究員、コロラド大学のロジャー・ピルキーJ
  • 原子力規制委員会により昨年7月に制定された「新規制基準」に対する適合性審査が、先行する4社6原発についてようやく大詰めを迎えている。残されている大きな問題は地震と津波への適合性審査であり、夏までに原子力規制庁での審査が終わる見通しが出てきた。報道によれば、九州電力川内原発(鹿児島県)が優先審査の対象となっている。
  • その1」「その2」に続いて、経済産業省・総合エネルギー調査会総合部会「電力システム改革専門委員会」の報告書を委員長としてとりまとめた伊藤元重・東京大学大学院経済学研究科教授が本年4月に公開した論考“日本の電力システムを創造的に破壊すべき3つの理由()について、私見を述べていきたい。
  • GPIFがサステナ投資方針を月末公表へ、ESGの姿勢明確化―関係者 ブルームバーグ 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、サステナビリティー(持続可能性)投資に関する方針を初めて策定し、次期基本ポートフォリオ(資

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑