ついに日本企業からも炭素クレジット利用中止の声が上がった
武田薬品工業は毎年の温暖化ガス(GHG)排出量をボランタリー(民間)カーボンクレジットで相殺するのを中止する。信頼性や透明性を高めるため、高品質クレジットの購入は続けるものの直接的な排出削減にシフトする。
武田薬品工業さん、素晴らいし経営判断だと思います!高品質クレジットとされていても中身は詐欺まがいの炭素クレジットも多いのでいずれはすべての炭素クレジット利用を中止すべきですが、まずは勇気ある第一歩を踏み出してくださいました。
なお、同社はすでに2019年実績としてサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを達成したとリリースされていました。2021年1月28日付ニュースリリースはこちら。
当社は、このたび、2019年度の当社のバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを達成しましたのでお知らせします。この成果は、当社内の省エネルギー対策、グリーンエネルギーの調達、ならびに再生可能エネルギー証書(REC)および高品質の検証済みカーボンオフセットへの投資に継続的かつ重点的に取り組んできたことが実を結んだものです。
(中略)
当社が支援するプロジェクトは以下の通りです。
- マラウイにおける飲料水の浄化:新たな深井戸を掘削すると同時に、破損した深井戸を修復し、安全な飲料水を提供します。その結果、水の煮沸や浄化を目的とした燃料用木材の使用量が減少しました。
- ワーキング・ウッドランズ・プログラム:米国テネシー州北東部に広がる8,600エーカー(34.8平方キロメートル)を上回る面積の民間所有の公園を保全し、米国の低所得地域においてレクリエーションを中心とした観光の振興を進めています。
- 日本での森林管理:日本国内における持続可能な森林管理の実践を通じて、自然の二酸化炭素吸収を促進し、地域の大気の質向上を図ります。
- 中国での太陽熱調理器導入:中国の辺境の地に居住する農家において、石炭に代えて太陽熱による調理器具を導入できるように投資を行いました。これにより、調理やお湯のニーズに応えるとともに、屋内の空気清浄化に寄与しています。
- インドでの太陽光エネルギー活用:太陽光エネルギーによる照明や温水暖房の開発を支援し、インド国内の複数の州において化石燃料使用量を削減します。
筆者は当時このリリースを見て「こんなこと言って大丈夫かなぁ…」と懸念していました。具体的なプロジェクトが列挙されていますが、内容を見て怪しいクレジットが紛れ込んでいなければよいなと感じていました。
あれから3年が経ち、筆者の心配は間接的に的中しました。リリースに記載されていたプロジェクトとは異なる事例だと思いますが、ワシントンポスト紙が2024年7月に公表したブラジルのアマゾンにおける森林保護クレジットに関する調査報告書において、炭素クレジットの実態とともに利用企業として同社名が記されており、クレジットの利用を一時停止したとの同社コメントが載っていたのです。
How ‘carbon cowboys’ are cashing in on protected Amazon forest
ワシントンポスト紙は、ブラジルのアマゾンにおける炭素クレジット森林保護プロジェクトの半数以上が公有地と重なっていることを突き止めた。これらの民間企業が所有する公有地の面積は7万8000平方マイル以上で、メリーランド州の6倍の広さだ。排出量を相殺するために民間の土地事業から炭素クレジットを購入した企業には、Netflix、エールフランス、デルタ航空、セールスフォース、プライスウォーターハウスクーパース、Airbnb、武田薬品工業、ボストンコンサルティンググループ、Spotify、ボーイングといった大手国際企業が含まれていた。
(中略)
本稿執筆にあたり、ブラジルのアマゾンの炭素クレジットを直接またはブローカー経由で購入した企業に回答を求めた。武田薬品工業は「当社が支援するプロジェクトの有効性や完全性に関する懸念を深刻に受け止めており、同地域の一部のプロジェクトに関する懸念を考慮し、これらのプロジェクトへの投資を一時停止した」と述べた。
おそらく、この一件も今回の判断に影響したのだろうと思います。
そもそも、今年春にドイツで大騒ぎになったように、高品質だと思われていた炭素クレジットが実は詐欺だったということが後から発覚することは日常茶飯事です。
中国のウイグル自治区での気候保護プロジェクトとされるものに8,000万ユーロを支払った。調査の結果、指定された場所には放棄された鶏小屋しかないことが判明した。
国際的に信頼性が高いとされ日本政府も二国間クレジットで進めてきたREDD+(レッドプラス)でも過大なクレジット発行の疑いが指摘されています。
Betrug im Handel mit Kohlenstoff-Zertifikaten? – Forschung enthüllt massive Lücken im Waldschutz
アムステルダム大学のタレス・ウェストと彼のグループは、世界中の26のプロジェクトを調査した。その結果、「ほとんどのプロジェクトが森林破壊を有意には削減していないことがわかった。残りのプロジェクトについても、削減量は報告されているよりもはるかに少なかった。
興味深いことに、十分なデータがあった18のプロジェクトのうち、多くは2020年に約8900万トンのCO₂を削減したと主張していた。しかし、そのうちの6000万トン以上は、森林破壊の実質的な削減が見られなかったプロジェクトによるものだ。研究者たちは、報告された削減量のうち、実際に削減できたのはわずか6%だと考えている。
国連自身のカーボンニュートラルについてもクレジット購入による欺瞞が指摘されています。
Report: U.N. Using Climate ‘Credit’ Scheme to Hide Massive Carbon Emissions
国連の排出量を 「相殺」しているとされるプロジェクトの中には、実際に環境を破壊し、あるいは人間の健康を害しているものもある。炭素クレジットは基本的に、炭素排出者が「許可証」を購入して、大気中の炭素量を削減しているはずの産業からより多くの二酸化炭素を排出するという、見せかけのゲームだ。環境規制により、炭素クレジット市場は、実際には何も生み出さない何十億ドルもの「産業」と化した。それは、政府機関や企業が依然として膨大な排出量を抱えているにもかかわらず、「カーボンニュートラル」であると主張するために、書類を整理するだけのものだ。
(中略)
国連は、カーボンクレジットの巧妙な手法を使って2018年以降ほぼカーボンニュートラルであると主張しているが、実際には国連機関は「ガソリン車150万台の年間排出量とほぼ同等」の二酸化炭素を排出している。
(中略)
国連世界食糧計画(WFP)は、森林を破壊し生物多様性を損なうと非難されたブラジルの水力発電所から数千の炭素クレジットを購入した。実際、ある調査によると、この水力発電所による森林破壊は、炭素クレジットの販売を可能にするとされていた環境上の利益を帳消しにしてしまうほどであった。
あらゆる炭素クレジットは本質的にグリーンウォッシュです。日本政府や国連が認めているから大丈夫だなどと考えずに、日本企業は自らの企業倫理に照らして判断すべきです。
ぜひ武田薬品工業さんの後に続く日本企業が現れてほしいものです。
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