日本企業はドイツの炭素クレジット詐欺被害に学ぶべき
15日の報道、既視感があります。
エムケイ、EVハイヤー「CO2ゼロ」に 100円追加で排出枠
タクシー大手のエムケイ(京都市)は12月から、電気自動車(EV)を使い、温暖化ガス排出が実質ゼロのハイヤーの運行を始める。利用料金に100円上乗せし、カーボンクレジット(排出枠)を購入する。エムケイによると、走行に使う電力の発電時に発生した温暖化ガスの排出を相殺できるという。
ハイヤーや貸し切りタクシーの利用料金に一律100円を上乗せする。高級EVの利用料は3時間で4万6000円だが、新サービスでは4万6100円になる。
上乗せした料金を元に市場から排出枠を購入する。まず、20トン分を購入した。個々のハイヤーの排出量は走行距離などからエムケイが独自に算出する。
今年の春から夏にかけて、ドイツで炭素クレジット詐欺被害が発覚し大騒動になったのですが、日本語メディアが報じないので日本企業にほとんど知られていません。たったの4か月前です。
ドイツ人ドライバーは支払う!中国における偽の気候変動プロジェクトに数十億ドル(2024年6月11日付独ビルト紙)
ドイツ人ドライバーに数十億ドルの損害を与える巨大なエコフェイク!中国の二酸化炭素を削減するためにドイツから資金提供された数十件のプロジェクトは明らかに偽物だった。
中国のウイグル自治区での気候保護プロジェクトとされるものに8,000万ユーロを支払った。調査の結果、指定された場所には放棄された鶏小屋しかないことが判明した。
ドイツの運輸部門におけるエネルギー転換への損害は総額45億ユーロを超えるという。ドイツ人ドライバーがガソリンスタンドで支払ったお金だ!
これ、冒頭のCO2ゼロハイヤーと全く同じ構図です。どんなクレジットを購入するのか分かりませんが、ドイツの炭素クレジット詐欺被害の後追いにならないことを切に願います。
本件に限らず、もしも日本企業が怪しげなクレジットではなく日本政府が行うJ-クレジットやGXリーグ等なら大丈夫、という考えだとしたら大きな勘違いです。現実のCO2は減らないのに「実質ゼロ」などと称する炭素クレジット利用は本質的にグリーンウォッシュです。
日本国内ではカーボン・クレジット市場開設、GXリーグ創設などが相次いでおり、国が事業者に対して炭素クレジット利用を推奨していますが、世界では炭素クレジット=グリーンウォッシュという認識が急速に広まっています。
2022年11月にエジプトで開催された国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)において、国連専門家グループから炭素クレジット利用に対する厳しい指摘がなされました。
炭素クレジットの基準や定義が未整備。現在多くの企業が低価格の任意市場に参加している
信頼性の高い基準設定団体に関連するクレジットを使用しなければならない
低価格のボランタリー市場の例は森林クレジットです。将来の乱開発予定を過大に評価するなど算出根拠が不明瞭だったりCO2削減効果を超えて大量のクレジットが発行される事例も存在するなど、詐欺まがいの行為が横行しています。
国連の指摘は、怪しげなクレジットではなく信頼性の高いクレジットを利用するように、ということなのだと思われます。ところが、国際的に信頼性が高いとされるREDD+(レッドプラス)でも過大なクレジット発行が疑われています。
ほとんどのプロジェクトが森林破壊を有意には削減していないことがわかった。残りのプロジェクトについても、削減量は報告されているよりもはるかに少なかった。
とんでもないことに、国連自身のカーボンニュートラルについてもクレジット購入による欺瞞が指摘されています。
国連の排出量を “相殺 “しているとされるプロジェクトの中には、実際に環境を破壊し、あるいは人間の健康を害しているものもある。
(中略)
国連は、2018年以来、ほぼカーボンニュートラルであると主張するために、炭素クレジットを巧みに利用している。国連が実際に排出している二酸化炭素は、「150万台のガソリン車の年間排出量にほぼ等しい」にもかかわらず。
多くの日本企業が参加しているSBTiでは、2024年4月に理事会声明でスコープ3ガイダンスにおいてカーボンオフセットを認めると公表しましたが、即日SBTi内の現場スタッフから理事会声明の撤回とCEOの辞任要求が出るなど迷走した挙句、同7月に炭素クレジットを認めないと結論づけました。
さまざまな種類の炭素クレジットは、意図した緩和結果を実現するのに効果的ではない。
炭素クレジットを他の排出源、吸収源、または排出削減量と同列に扱うことは望ましくなく、非論理的であり、世界的な緩和目標に損害を与える。
SBTi に提出された証拠は、企業がオフセット目的で炭素クレジットを使用することには明らかなリスクがあることを示唆しており、ネットゼロへの転換を妨げる影響が含まれる。
なお、このゴタゴタの最中にSBTi技術委員会を辞任したメンバーが、辞表の中で「炭素クレジットは科学的、社会的、気候の観点から見てでっちあげ」と述べたそうです。
ボランタリー、または国が認めている云々にかかわらず、あらゆる炭素クレジットは非倫理的だと筆者は考えます。仮に産廃クレジットやNOxクレジット、水銀クレジット、カドミウムクレジットなどが蔓延したら公害だらけの国土に逆戻りします。炭素だけはクレジットを利用してビジネスを行ってもよいなどと子供の目を見て説明できる企業担当者がいるのでしょうか。
産廃クレジットやNOxクレジットはないのに炭素だけクレジット
しかも、日本政府はJ-クレジット利用者を【もっと(実態以上に)排出削減した“ことにしたい”者】と表現しています。
J-クレジットを利用している企業の皆さんはご認識されているのでしょうか。自社のCO2を削減するため、世界の脱炭素に貢献するため、サステナビリティ推進のため等、よかれと思って取り組んでいるはずですが、国からこんなことを言われているのですよ。筆者が担当者だったら即刻やめます。
2026年以降、EUではカーボンオフセットが含まれる場合「カーボンニュートラル」という主張が禁止されます。グッチやネスレなど一部の企業はすでにクレジット利用によるカーボンオフセットを中止しました。日本企業も炭素クレジット=グリーンウォッシュとの認識を持つべきです。
省エネと再エネだけでは2030年半減が間に合わないのであれば、そもそも脱炭素の時間軸が間違っています。グリーンウォッシュに手を染めなければ達成できない経営計画などすぐに取り下げて、現実的な目標を再設定すべきです。
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