気候危機を煽る為の非現実的排出シナリオ
![](https://agora-web.jp/cms/wp-content/uploads/2024/07/2024-07-iStock-651750882_120727-660x349.jpg)
alexis84/iStock
「気候危機説」を煽り立てるために、現実的に起きそうな範囲を大きく上回るCO2排出シナリオが用いられ続けてきた。IPCCが用いるSSP5-8.5排出シナリオだ。
気候危機論者は、「いまのままだとこのシナリオに沿って排出が激増し、それで気候危機がもたらされる」というストーリーをしきりに広めてきた。
だがその排出シナリオとは一体どのようなものか。
図は、ロイ・スペンサーが作成したものだ。
縦軸は世界全体の化石燃料起源のCO2排出量。緑は、過去については実績値。2050年までの未来については、米国エネルギー省のエネルギー情報局(Department Of Energy, Energy Information Administration)の推計値。
このEIAは、政府の政策に忖度せず、客観的な推計をすることを法律で定められていて、手堅い推計をする。欧州や日本、それに国連の機関は、政治に忖度してCO2ゼロやらグリーン成長やらのシナリオを流布する様になってしまったが、この米国EIAはそれとは一線を画している。
図を見ると、世界のCO2排出量は、人々を脅すために使われているIPCCのSSP5-8.5シナリオを大きく下回っていることが分かる。将来について大きく下回るのみならず、すでにかなり乖離が始まっていることが読み取れる。2050年を見ると、排出量は倍ほども違う。
ロジャー・ピルケJr.が何年も前から指摘してきたように、IPCCはこのような誇張されたシナリオを「なりゆき」ないし「ベースライン」としており、脱炭素をしなければこのような世界になる、と人々を脅し続けてきた。
IPCCのSSP5-8.5シナリオは、高い経済成長と、石炭への高い依存を前提としたものだ。だがいまの世界はそのようにはなっていない。とくに、シェール技術などで天然ガスが安価かつ大量に供給されたことで、石炭への依存の増大は起きなかったことは、このシナリオの作成時点では全く予想が出来ていなかった。
という訳で、「このままでは、気候危機が訪れます」という人が居たら、こう聞こう。「このままとは、どういう意味ですか?」。
それは現実には有り得ない、とんでもなく排出量の多いシナリオに基づいた計算だ。
■
![This page as PDF](https://www.gepr.org/wp-content/plugins/wp-mpdf/pdf.png)
関連記事
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。 1)ウランは充分あるか? エネルギー・コンサルタントの小野章昌氏の論考です。現在、ウランの可能利用量について、さまざまな議論が出て
-
グレートバリアリーフのサンゴ被覆面積が増えつつあることは以前書いたが、最新のデータでは、更にサンゴの被覆は拡大して観測史上最大を更新した(報告書、紹介記事): 観測方法については野北教授の分かり易い説明がある。 「この素
-
NHKスペシャル「2030 未来への分岐点 暴走する温暖化 “脱炭素”への挑戦(1月9日放映)」を見た。一部は5分のミニ動画として3本がYouTubeで公開されている:温暖化は新フェーズへ 、2100年に“待っている未
-
エネルギー戦略研究会会長、EEE会議代表 金子 熊夫 GEPRフェロー 元東京大学特任教授 諸葛 宗男 周知の通り米国は世界最大の核兵器保有国です。640兆円もの予算を使って6500発もの核兵器を持っていると言われてい
-
情報の量がここまで増え、その伝達スピードも早まっているはずなのに、なぜか日本は周回遅れというか、情報が不足しているのではないかと思うことが時々ある。 たとえば、先日、リュッツェラートという村で褐炭の採掘に反対するためのデ
-
はじめに インターネットでウランを売買していた高校生が摘発された。普通、試験管に入った量程度のウランを売買するのに国への報告が必要になるとは気が付かないが、実はウランは少量でも国に報告しなければならないことになっている。
-
広島高裁の伊方3号機運転差止判決に対する違和感 去る12月13日、広島高等裁判所が愛媛県にある伊方原子力発電所3号機について「阿蘇山が噴火した場合の火砕流が原発に到達する可能性が小さいとは言えない」と指摘し、運転の停止を
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク、GEPRはサイトを更新を更新しました。 1)トランプ政権誕生に備えた思考実験 東京大学教授で日本の気候変動の担当交渉官だった有馬純氏の寄稿です。前回の総括に加えて
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間