再エネ最優先こそが脱炭素の邪魔をする

Tula Kumkrong/iStock
日本政府は第7次エネルギー基本計画の改定作業に着手した。
2050年のCO2ゼロを目指し、2040年のCO2目標や電源構成などを議論するという。
いま日本政府は再エネ最優先を掲げているが、このまま2040年に向けて太陽光・風力発電を増やし続けるとどうなるか。
じつは、2050年のCO2ゼロがますます不可能になる。
理由は大きく分けて2つある。
第1に、電気料金が高騰するため、電化が進まない。日本のCO2排出のうち、発電由来は4割程度にすぎず、残り6割は発電所以外での化石燃料の燃焼によるものだ。これを減らすためには、CO2の少ない電気で代替することが、もっとも有望な方法である。しかし、再エネによって電気料金が高くなってしまっては、電気による代替など進むはずがない。
第2に、太陽・風力は、必然的に、火力発電を必要とする。
太陽・風力は、自然任せの電源である。太陽光は、年間の設備利用率(おおむね稼働率のこと)は17%しかない。ところが電力需要は年間を通じて存在するので、残り83%の時間は火力発電など、他の発電に補ってもらうことになる。
風力発電も同様だ。洋上風力発電は、最も条件のよいところであれば設備利用率は35%と見積もられているが、それでも残り65%の時間は火力発電などに補ってもらうことになる。
よく「再エネは火力のバックアップが必要だ」という言い方がされるが、これは「エコひいき」が過ぎる。設備利用率が17%しかなく83%を火力が賄うということは、火力こそが主であって、太陽は気まぐれに発電するに過ぎない。83%を賄うものを「バックアップ」とは普通の感覚では呼ばない。
火力発電以外の手段は、実力不足である。揚水発電はダムを建設しなければならないので立地が容易ではない。蓄電池は性能が不足しコストは高い。送電線で他地域から運ぶといっても、そう都合よく他地域と補完できる訳では無い。
ドイツの電源構成は、再エネが火力を必要とする実態をよく表している。
ドイツは風力・太陽の普及を強力に進めたため、その発電量は増えてきた。2023年は発電電力量(508.1TWh)のうち再エネ由来の電力が53%になった。その一方で化石燃料と原子力由来の電力も多くてまだ47%あり、うち褐炭が17%、天然ガスが16%、石炭が9%などだった。このうち原子力は全て廃止することになっている。
となると、太陽・風力をいくら増やしても、やはり電力供給の半分(47%)は火力発電頼みということになる。このため、ドイツの発電部門のCO2はあまり減っていない。
ドイツでは再エネ、特に風力発電を多く建設したため、風況の良いときは余剰が生じて外国にタダ同然で売っている。むしろタダでも電気を引き取ってもらえず、マイナス価格がつくことも頻繁におきている。逆に、風況の悪いときには電気を高い値段で輸入する。フランスの原子力やポーランドの石炭火力がこれに含まれている。
つまりこれ以上風力発電を導入すると、ますます状況が悪化するのだが、それで脱炭素が完成かというとそれには程遠い。風況の悪いときには火力に頼ることになる。それで火力がまだ電気の半分を供給している。
ドイツは周辺国と電力が取引できるから、日本に比べると条件は遥かによい。それでも、太陽・風力を進めるほどに、安定供給のために、火力発電が手放せなくなるのだ。
日本では、原子力発電の稼働状況がよい関西地域において、太陽光発電の出力抑制が頻繁に行われるようになってきた。
これを指して、原子力が再エネ普及を妨げているという記事があったが、本末顛倒だ。
再エネが普及するほどに、火力発電が必要になり、原子力発電の増加を妨げているのだ。今後、2030年、2040年と太陽・風力の発電量を増やせば増やすほど、火力発電設備は必要なままとなり、それに加えて原子力発電を建設することに経済的なメリットが無くなってしまう。
本気でCO2ゼロを目指すのであれば、原子力普及を徹底して進め、太陽・風力のような変動性が無い、火力などの他の発電方式を補完的に使うほかない。これはフランスが実現していることだ。
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