大林ミカさんと私
ちょっとした不注意・・・なのか
大林ミカさん(自然エネルギー財団事務局長)が一躍時の人となっている。中国企業の透かしロゴ入り資料が問題化されて深刻度を増しているという。
大林さんは再生可能エネルギーの普及拡大を目指して規制の見直しなどを審議する内閣府のタスクフォース(TF)の委員だったが、この透かしロゴ問題の責任を取る形で委員を辞任した。問題の本質は、中国国有企業の透かしロゴ資料が〝中国が日本のエネルギー政策に影響を及ぼし果ては安全保障上の脅威〟となっていることの証左だとされている。
私はこの社会問題化された事態を見て、何を今更言っているのだと正直思った。
そもそも大林さんと河野太郎氏は、大林さんがIRENAの事務局に入る以前から懇意であったし、2011年に孫正義氏が『アジアスーパーグリッド(ASG)構想』を高らかに謳いあげた時にこの稀代の政商は日本の電力インフラを汎アジア主義のもと、中国支配下に置くつもりだなと感じた。
要するに、とうの昔に孫―大林―河野トライアングルは大林さんを軸に出来上がっていたわけだし、孫氏がそもそも自然エネルギー財団を立ち上げたのはASGのためであったし、大林さんはその政策的側面を、また河野氏はこの構想の政治的受け皿を担うことが運命付けられていた訳である。
このロゴ透かし問題は、社会問題化し国会で河野太郎規制改革担当大臣の責が問われる形となった。大臣は「チェック体制の不備」つまりちょっとした不注意だったと強調した。
大林ミカさんと私
大林さんと最初に出会ったのは、私が東工大時代に主宰した『学術フォーラム・多価値化の世紀と原子力』の公開講演会に、大林さんが何度か聴講しに来ていた2003、4年頃だったと記憶する。
最初の印象は、「笑顔に好感のもてるちょっとコケティッシュなひとだなあ」というものであった。原子力資料情報室の頃から存在は知っていたので、高木仁三郎仕込みの理論家かと勝手に思っていたがそんな感じは全くなく、どこかホンワカしていて、ややおっちょこちょい的なとこも垣間見えていた。
(大林ミカさんが世に出る前に何をしていたかやその頃の心情や様子は、原子力産業新聞の2007年11月8日第2403号に詳しい——大林さんの過去は謎でもなんでもない)
そんなことであるから、今回の事態にもあまり驚かなかったし、ミカさんらしいなあとも思った次第である。
こんな感じのする大林さんは2000年に副所長として、飯田哲也さんと環境エネルギー研究所を立ち上げた頃から、才能が一気に花咲いていった。2008年から2009年まで駐日英国大使館で気候変動政策アドバイザー、2010年から2011年まで国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のアジア太平洋地域の政策・プロジェクトマネージャーと駆け上がっていった。
今次、大林さんはTF委員として河野規制改革担当相の知恵袋であり実働隊であったから、世間はこの期に一気にこの失態につけ込む形になった。
なお、河野太郎氏は外務大臣だった2018年にIRENAの年次総会にわざわざ出向いていって外務大臣としては異例の演説を行っている。外務大臣の所掌ではないという批判もあったがものともしなかった。大臣は演説のなかで日本の再エネ普及のレベルの低さを大いに批判し、世界に嘆いて見せたのである。
大林さんと河野大臣は、遅くとも2004年頃までには環境エネルギー政策研究所(ISEP)をベースにして繋がっていたと見る。2004年にはISEP所長の飯田さんらが中心となって、原子力政策の抜本的見直しを迫る『19兆円の請求書』を世に問うた。ここに、飯田さんや吉岡斉さんや鈴木達治郎さんらとともに名を連ねている。
また、このことを河野大臣は、2011年の3.11後に自身のブログ「ごまめの歯ぎしり」において、原子力政策の分かれ道と題してレビューするなかで原子力政策の見直しを強く主張している(2011.03.27)。
原子力政策の抜本的見直しと再エネの革新的推進は表裏一体なのである。
反原発思想?戸籍まで?
大林ミカさんと私は、ともに酒好き蕎麦好きで、大岡山の蕎麦屋やもつ焼き屋で仲間を交えて痛飲談笑することしばしばであった。それを聞き及んだ飯田さんが自分も呼ぶべしと言っていたことが思い出される。
最近大鶴義丹までが大林さんをネタにしているのを見て、私は思わずニンマリしてしまった。
世間はすぐに学歴や職歴を問いたがるが、フザケルナ——と言いたい。高木仁三郎の魂が入っているから反原発は当たり前だろう。しかし戸籍まで問われるとは尋常ではない。
私は大林さんのような〝謎めいた過去をもつ〟女性がもっとこの国に出てきて活躍すればこの日本も少しは変わって行くように思う。特に残念なのは原子力の世界にはそういうような市民目線の女性のリーダーが見当たらないということである。
大林さんならこの〝難局〟をも飄々として乗り切って行くのではないだろうか・・・
いや、そもそも難局とも思ってないかもしれない。ASGがそもそも尊師の提唱であり、その底流には中国の一帯一路構想が頑としてあるからである。彼女にとっては世の必然の流れを示しただけかもしれない。
そのことに世間が覚醒するべく絶好の材料を与えてくれたのではないかと私は思っている。
関連記事
-
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 ■ 今回は2章「陸域・水域の生態系」。 要約と同様、ナマの観測の統計がとにかく示されていない。 川や湖の水温が上がった、といった図2.2はある(
-
(前回:温室効果ガス排出量の目標達成は困難④) 田中 雄三 発展途上国での風力・太陽光の導入 発展途上国での電力需要の増加 季節変動と予測が難しい短期変動がある風力や太陽光発電(VRE)に全面的に依存するには、出力変動対
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク「グローバルエナジー・ポリシーリサーチ(GEPR)」は、12年1月1日の開設から1周年を経過しました。読者の皆さまのご支援、ご支持のおかげです。誠にありがとうございます。
-
ドイツ政府は社民党、緑の党、自民党の3党連立だが、現在、政府内の亀裂が深刻だ。内輪揉めが激しいため、野党の発する批判など完全に霞んでしまっている。閣僚は目の前の瓦礫の片付けに追われ、長期戦略などまるでなし。それどころか中
-
小泉元首相を見学後に脱原発に踏み切らせたことで注目されているフィンランドの高レベル核廃棄物の最終処分地であるONKALO(オンカロ)。
-
9月末に国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書が発表されることをきっかけに、9月3日に池田信夫さんの「言論アリーナ」に呼んで頂き、澤昭裕さんも交えて地球温暖化の話をさせて頂く機会を得た。(YouTube『地球は本当に温暖化しているのか?』)その内容は別ページでも報告されるが、当日の説明では言い足りなかったり、正確に伝わるか不安であったりする部分もあるため、お伝えしたかった内容の一部を改めて書き下ろしておきたい。
-
電力中央研究所の朝野賢司主任研究員の寄稿です。福島原発事故後の再生可能エネルギーの支援の追加費用総額は、年2800億円の巨額になりました。再エネの支援対策である固定価格買取制度(FIT)が始まったためです。この補助総額は10年の5倍ですが、再エネの導入量は倍増しただけです。この負担が正当なものか、検証が必要です。
-
世界最大のLNG輸出国になった米国 米国のエネルギー情報局(EIA)によると、2023年に米国のLNG輸出は年間平均で22年比12%増の、日量119億立方フィート(11.9Bcf/d)に上り、カタール、豪州を抜いて世界一
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間