柏崎・刈羽原子力発電所の再稼働:日暮れて途遠し

2023年12月30日 06:50
アバター画像
東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

CampPhoto/iStock

運転禁止命令解除

原子力規制委員会は27日午前の定例会合において、東京電力ホールディングスが新潟県に立地する柏崎刈羽原子力発電所に出していた運転禁止命令を解除すると決定した。その根拠は原子力規制委員会が「テロリズム対策の不備が改善したと判断した」ことにある。

21年4月に事実上の運転禁止命令が原子力規制委員会から出されてから2年8カ月が経過している。東京電力がすでに適合性審査に合格している柏崎刈羽6、7号機を再稼働するには地元の同意を取り付けなければならない。

事実上の運転禁止命令解除を発表する山中規制委員長

2つの原子力発電所と2人の首長

柏崎刈羽原子力発電所は柏崎・刈羽原子力発電所、つまり柏崎原子力発電所&刈羽原子力発電所なのである。7基の原子炉のうち、1から4号機が柏崎市にあり、残りの5、6、7号機が刈羽村に設置されている。

すなわち柏崎刈羽(KK)とひとまとめにされているが、二つの原子力発電所があると言った方が適切である。運営しているのが東京電力なので、東電側の都合で一括りにされているだけだ。

柏崎市と刈羽村は別々の行政区であるので、一括りの扱いは違和感もあろう。私は、柏崎市も刈羽村も度々訪れてきたが、その風土・文化・人には共通点もあれば異なる趣もかなりある。

一言でいえば、刈羽村は純朴であり、柏崎市はやや複雑である—遠慮なくいわせていただければいささか〝偏屈〟と言ってもいい側面がある。柏崎市の旧知は、「愛はいつでも憎悪に衣替えする」と言った。そのことを東電はもっと真摯に捉えたほうが良いという文脈だと私は思った。

地元の民意は首長が受け止める。

刈羽村の品田村長は一貫して原子力推進、日本のため再稼働は不可欠の信念の人である。

柏崎市の桜井市長は、若い頃から原発推進を信条とすることが知られた人物だった。しかし、市長に当選した頃から少し旗色が変わってきた・・・かなり慎重な発言が目立ち始め、やがて集中立地の危険性に言及したり、再稼働の条件として廃炉にする号機を明確にすることを論ったりしていた。

柏崎から出雲崎をへて刈羽に至る地域は江戸時代は幕府直轄の天領地として栄えた土地柄である。その歴史や自負は今も地域に根付いていると私は感じている。

テロ対策の不備が改善したのか

テロ対策の不備に関する事案は2つある。

A. 2020年9月下旬、社員Bが入室IDカードを紛失し、当日未出勤の社員Aの入室IDカードを無断で使用し、中央制御監視室に出入りしていたことが発覚、原子力規制委員会も報告が遅れたことが発覚した。

B. 2021年3月16日、テロリズム対策に関わる侵入検知装置が、長期間機能喪失に陥っていたことが発覚し、原子力規制委員会が、問題の重要度を「最悪」と評価したことに対して、東京電力HD社長小早川智明が謝罪した。2021年4月14日、原子力規制委員会は東京電力HDに対し、状況の改善が追加検査で確認されるまで、柏崎刈羽原発内で核燃料の移動を禁じる是正措置命令(命令は原子炉内への核燃料装填も禁じるため、命令が解除されるまで発電できず、再稼働は不可能になる)の行政処分を下した。

(Wikipediaより)

ケースAについては、偶発的な出来事のようにも見えるが、同様のケースは2015年(平成27年)8月にも起こっていたことが後に明らかになっている。そしてこのケースはシステムの問題というよりは、ヒトと運用の問題とみなすこともできる。

ケースBは、ヒトと運用の問題に加えて、侵入検査装置というシステム自体が壊れていたことに気が付いていなかった。しかもそれが長期間に及んでいたということでより深刻と捉えられよう。壊れていたのに気づかなかったのか、気がついていても長期間対処しなかったのか——いずれにしてもそれに関わるヒトと組織の問題である。

こういったケースの原因をたどっていけば、結局「〝ヒトと組織の劣化〟につながる問題はそう簡単に改善解消できるのだろうか?」という疑問にたどり着く。

地元からすれば東電はかつては優良エリート企業であり、地域の若者の就職先としては東電以上のものはなかった。しかし、私がその筋から仄聞したところ、もう何年も前からそのような地位は消え失せ、地元の有能な若者の採用に苦心していたとのこと。

ヒトの劣化の問題は地元の問題ではない。それは企業ガバナンスの問題であるから、東電そのもののガバナンスが劣化していることの現れとみるべきだろう。

テロリズム対策の不備が改善したと判断したというが、根底の問題はヒトの問題であり組織ガバナンスの問題である。そうそう容易に改善されるのであろうか——というのが私が抱く深い悩みである。

再稼働の条件—地元のパワーバランス・県民意思

刈羽原子力発電所6、7号機を再稼働するには地元の同意が得られないといけない。地元とは、刈羽村、柏崎市、そして新潟県である。

柏崎市の桜井市長は近頃は再稼働容認に前向きだと聞く。

よく分からないのは、新潟県知事の花角氏である。花角知事は27日、再稼働の是非に関しては最終的には県民の意思を確認するために「信を問う」としている。

知事は「『信を問う』とは自身の存在をかける意味合いが強いと思う。いま決めているものはないが、方法としては選挙ももちろんある」と述べて、県知事選を県民意思の確認の選択肢の一つと考えているようだ。

前知事の米山隆一氏は「やり残した仕事がある」と仮に県知事選があれば、代議士職を辞して出馬する意向をほのめかしている。

前知事の米山隆一氏
Wikipediaより

政府は「再稼働への関係者の総力の結集」を謳い再稼働を加速する意向である。再稼働はもちろん東電の悲願である。

しかし、柏崎・刈羽原子力発電所の再稼働は日暮れて途遠しの感が否めない——という他ないと私は思う。

This page as PDF
アバター画像
東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

関連記事

  • 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から5年が経過した。震災と事故の復旧は着々と進み、日本の底力、そして日本の人々の健全さ、優秀さを示した。同時にたくさんの問題も見えた。その一つがデマの拡散だ。
  • 世界は激変している。だが日本のエネルギー政策は変わることが出来ていない。本当にこれで大丈夫なのか? 脱炭素の前に脱ロシア? ウクライナでの戦争を受け、日本も「脱ロシア」をすることになったが、「脱炭素の前に脱ロシア」という
  • 大竹まことの注文 1月18日の文化放送「大竹まことのゴールデンタイム」で、能登半島地震で影響を受けた志賀原発について、いろいろとどうなっているのかよくわからないと不安をぶちまけ、内部をちゃんと映させよと注文をつけた。新聞
  • 気候変動開示規則「アメリカ企業・市場に利益」 ゲンスラーSEC委員長 米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長は26日、米国商工会議所が主催するイベントで講演し、企業の気候変動リスク開示案について、最終規則を制定でき
  • 日本政府は昨年4月にエネルギー基本計画を策定し、今年の7月に長期エネルギー需給見通しが策定された。原子力は重要なベースロード電源との位置付けであるが、原発依存度は可能な限り削減するとし、20%~22%とされている。核燃料サイクルについては、これまで通り核燃料サイクル政策の推進が挙げられており、六ケ所再処理工場の竣工、MOX燃料加工工場の建設、アメリカおよびフランス等との国際協力を進めながら高速炉等の研究開発に取り組むことが記載されている。
  • ようやく舵が切られたトリチウム処理水問題 福島第一原子力発電所(1F)のトリチウム処理水の海洋放出に政府がようやく踏み出す。 その背景には国際原子力機関(IAEA)の後押しがある。しかし、ここにきて隣国から物申す声が喧し
  • 先日、NHKが「脱炭素社会実現の道筋は」と題する番組を放映していた。これは討論形式で、脱炭素化積極派が4人、慎重派1名で構成されており、番組の意図が読み取れるものだった。積極派の意見は定性的で観念的なものが多く、慎重派が
  • きのうの日本記者クラブの討論会は、意外に話が噛み合っていた。議論の焦点は本命とされる河野太郎氏の政策だった。 第一は彼の提案した最低保障年金が民主党政権の時代に葬られたものだという点だが、これについての岸田氏の突っ込みは

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑