CO2濃度はかつての1.5倍だが元に戻すべきか?

MR1805/iStock
CO2濃度が過去最高の420ppmに達し産業革命前(1850年ごろ)の280ppmの1.5倍に達した、というニュースが流れた:
世界のCO2濃度、産業革命前の1.5倍で過去最高に…世界気象機関「我々はいまだに間違った方向へ」(読売新聞)
それにしてもこういった報道のトーンは、いつものことながら、いただけない。まず、CO2濃度は毎年コンスタントに上昇してきたから、こうなることは分かりきっていたことで、たいして新鮮味はない(図)。

図 大気中のCO2濃度。過去40年で年間約2ppmの上昇をしてきた。
気象庁HPより
そして、この「1.5倍になった」ことが、とても悪いことのような報道ぶりだ。
だがそれでは、元の280ppmに戻すべきなのだろうか?
もちろん現実には戻せないが、思考実験として考えてみよう。
いまと1850年を比べてみると、地球の平均気温は約1℃上昇したと言われる。しかし、この連載で縷々述べてきたように、悪いことなど一切起きておらず、良いことばかりだった。
自然災害の激甚化など一切起きていないことは統計を見れば分かる。むしろ、化石燃料が原動力となった技術進歩と経済成長のおかげで、防災能力は向上して自然災害による死者は激減した。肥料や農薬などの農業技術のお陰で食料生産は増え、人々は健康で長生きするようになった。
この程度の緩やかな地球温暖化であれば、良い事の方が圧倒的に多かったのだ。ちなみに、食料増産にはCO2濃度上昇による好影響じつは結構あった。CO2は植物の光合成に必須の栄養素だからだ。
仮に1850年の280ppmを維持するために、化石燃料の使用を禁止したらどうだったか。今日のような繁栄はなく、人々は、相変わらず貧しく、飢え、短命に終わったことだろう。
今後についても、緩やかなCO2濃度上昇と温暖化であれば、良い事の方が悪い事を圧倒的に上回るだろう。
よく用いられるRCP8.5シナリオはCO2排出量が多すぎて現実には有り得ないと言われるようになった。
それではありそうな範囲の上限と見られるRCP6.0シナリオではどうかというと、あと1.5倍の630ppmになるのは2090年ごろだ。
CO2による地球温暖化への影響は飽和するので対数関数になる。だから今からあともう1度気温が上がるのは、420ppmの1.5倍の630ppmの時であり、420ppmに280ppmを足した560ppmの時ではない。この点よく誤解されているが、CO2濃度による気温への影響は指数関数的に増すどころか、線形関数ですらなく、対数関数的に飽和するのである。
すると、仮に過去150年の1℃の地球温暖化が全てCO2に起因するものだったとしても、2090年までの気温上昇はあと1℃となる。今から70年以上かけて1℃程度のゆっくりした地球温暖化であれば、これまで同様、良い事の方が多いと見通す方が理に適っているのではないか?
■

関連記事
-
東京で7月9日に、新規感染者が224人確認された。まだPCR検査は増えているので、しばらくこれぐらいのペースが続くだろうが、この程度の感染者数の増減は大した問題ではない。100人が200人になっても、次の図のようにアメリ
-
現在ある技術レベルでは限りなく不可能に近いだろう。「タイムマシン」があれば別だが、夏の気温の推移、工場の稼動などで決まる未来の電力の需要が正確に分からないためだ。暑く、湿度が高い日本の夏を、大半の人はエアコンなく過ごせないだろう。そのために夏にピークがくる。特に、8月中旬の夏の高校野球のシーズンは暑く、人々がテレビを見て、冷房をつけるために、ピークになりやすい。
-
米国のマイケル・シェレンバーガーが、「国連こそは気候に関する “偽情報発信の脅威がある行為者”である――国連や米国政府が偽情報の検閲に熱心なら、なぜ彼ら自身が偽情報を拡散しているのだろうか?」と題
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 前稿で、現代の諸問題について現役の学者・研究者からの発言が少ないことに触れた。その理由の一つに「同調圧力」の存在を指摘したが、大学が抱えている問題はそれだけではない。エネルギー
-
脱炭素社会の実現に向けた新法、GX推進法注1)が5月12日に成立した。そこでは脱炭素に向けて今後10年間で20兆円に上るGX移行債を発行し、それを原資にGX(グリーントランスフォーメーション)に向けた研究開発や様々な施策
-
日本でもメガソーラーや風力発電の立地に対する反対運動が増えているが、米国でも事情は同様だ。ロバート・ブライスは、再エネ却下データベース(Renewable Rejection Database)にその事例をまとめて、無料
-
前回、改正省エネ法やカーボンクレジット市場開設、東京都のとんでもない条例改正案などによって企業が炭素クレジットによるカーボンオフセットを強制される地盤ができつつあり、2023年がグリーンウォッシュ元年になるかもしれないこ
-
岸田政権はGXの目標達成のために、原子炉のリプレース・新設を打ち出した。そのリプレース・新設を担うことになるのが〝革新軽水炉〟である。 革新の要は、安全性と経済性である。日本でいえば、現行のABWR(改良型沸騰水型軽水炉
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間