2023年はグリーンウォッシュ元年か

2023年10月04日 06:50

筆者は「2023年はESGや脱炭素の終わりの始まり」と考えていますが、日本政府や産業界は逆の方向に走っています。このままでは2030年や2040年の世代が振り返った際に、2023年はグリーンウォッシュ元年だったと呼ばれるかもしれません。実際にはCO2を1グラムも減らさないのに企業が「CO2削減」「実質CO2ゼロ」と称することが許される炭素クレジット利用が今年から急拡大しそうな気配だからです。

今年大幅に改正された「省エネ法」は多くの企業に関連します(令和4年度の特定事業者等は12,009者)。象徴的な改正内容が法律名の変更に表れています。以前は「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」でしたが、これが「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」(太字は筆者)へと変わりました。

非化石エネルギーへの転換の具体的な施策として、各事業者が全エネルギー使用量に占める非化石エネルギー比率を算出した上で、将来の目標を設定し毎年実績値を国に報告することが義務付けられました。非化石エネルギー比率の分子には太陽光発電や証書由来の電気が含まれます。再エネ証書や非化石証書由来の電気使用量が増えれば非化石エネルギー比率も増えるため、法律が事業者に対して証書購入を推奨していると言えます。

また、2022年よりGXリーグが始まり2023年10月に東京証券取引所がカーボン・クレジット市場を開設します。国がつくった排出量取引市場であるため多くの事業者が参加すると見込まれています(参加者は2023年9月19日現在188者)。

そしてこの9月に東京都知事からとんでもない条例改正案が都議会に提出されました。

新築住宅への太陽光発電義務付けを条例化した東京都が、今度は大幅な脱炭素を工場やオフィスなどの事業所に義務付けする条例改正案を提出してきた。

大規模事業所については大幅なCO2削減率を義務付け、中小規模事業所に対しては、達成基準を定めて脱炭素の計画の提出を求めるものだ

(中略)

排出権取引制度一つをとっても、国の排出権取引と都の排出権取引の両方をしなければならない、というのは不合理である。

(中略)

事業所は、CO2排出権、再生可能エネルギー証書などの「証書」を購入して目標を達成することになるだろう。この場合、以下の疑問が生じる。

第1、その費用負担は幾らになるのか。事業所の重荷になるのではないか。

第2、現実の高いCO2削減費用は高いのに対して、証書の値段は格安であることが多いが、これはあたかも「免罪符」のごとく、見せかけのCO2削減にすぎないからだと言う批判がある(グリーンウオッシュと呼ばれる)。これにどう対応するのか。

第3、そのような形で事業所に追加的な負担をさせること、それを東京都の事業所だけに突出して実施させることに、いったい何の意味があるのか。金銭的な負担を強要するだけで、事業所におけるエネルギー利用の実態としては何も変わらないことになる。

省エネ法の対象はエネルギー使用量が原油換算で1,500キロリットル以上の大規模事業者です。1,500キロリットル未満の事業者はほとんどがオフィスや中小零細の事業者であり、CO2削減計画の策定や排出量取引を課すなど正気の沙汰とは思えません。なぜ省エネ法が1,500キロリットル以上の事業者を対象としているのか、都知事はご存じなくても都の環境部局員であれば分かっているはずです。

もしもこの改正が通った場合にどうなるか。都内のオフィスや零細事業者は省エネ投資や再エネ導入など手間もお金もかかるCO2削減ではなく、すぐに解決できるクレジット取引へ殺到します。そしてそのクレジットの原資は都の排出量取引(つまり都内のCO2削減量)だけでなく、規模としては全国民が支払ってきた再エネ賦課金によるクレジットの方がはるかに巨大で安価です。実際には東京都のCO2排出量が全く減らないのに「CO2削減」「実質CO2ゼロ」と称して都の規制を逃れる事業者が続出します。これは致し方ありません。

このように省エネ法、カーボン・クレジット市場、自治体の条例などが重なれば、企業は自主的な選択ではなく半ば強制的に炭素クレジットを利用させられることになります。

しかしながら、2022年11月にエジプトで開催された気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で国連専門家グループから出された報告書で炭素クレジットの利用について厳しい指摘がありました。

カーボンクレジットの基準や定義が未整備。現在多くの企業が低価格の任意市場に参加している

(中略)

信頼性の高い基準設定団体に関連するクレジットを使用しなければならない

低価格の任意市場の例は森林クレジットです。将来の乱開発予定を過大に評価するなど算出根拠が不明瞭だったり、CO2削減効果を超えて大量のクレジットが発行される事例も存在するなど詐欺まがいの行為が横行しています。国連の指摘は、詐欺まがいのクレジットを利用するのではなく、非化石証書や排出量取引など国や自治体が認める制度を利用するように、ということなのだと思われます。

ところが、国際的に信頼性が高いとされるREDD+(レッドプラス)でも過大なクレジット発行の疑いが指摘されています。

ほとんどのプロジェクトが森林破壊を有意には削減していないことがわかった。残りのプロジェクトについても、削減量は報告されているよりもはるかに少なかった。

さらにとんでもないことに、国連自身のカーボンニュートラルについてもクレジット購入による欺瞞が指摘されています。

国連が実際に行っているのは、その実質的な排出量を「相殺」するために数百万ドル相当の「炭素クレジット」を購入することである。国連の排出量を “相殺 “しているとされるプロジェクトの中には、実際に環境を破壊し、あるいは人間の健康を害しているものもある。

(中略)

国連は、2018年以来、ほぼカーボンニュートラルであると主張するために、炭素クレジットを巧みに利用している。国連が実際に排出している二酸化炭素は、「150万台のガソリン車の年間排出量にほぼ等しい」にもかかわらず。

(中略)

国連世界食糧計画(WFP)は、森林を破壊し生物多様性を損なうと非難されたブラジルの水力発電所から数千の炭素クレジットを購入した。実際、ある調査によると、この水力発電所による森林破壊は、炭素クレジットの販売を可能にするとされていた環境上の利益を帳消しにしてしまうほどであった。

信頼性が高いとされるREDD+やJ-クレジットも詐欺まがいの森林クレジットも、あらゆる炭素クレジットはみかけ上のCO2排出量が相殺されるだけで本質的には変わりありません。そしてクレジットが安価になって利用者が増えるほど実際のCO2排出量は増え、手間もお金も時間もかかる再エネへの投資や需要が減ることになります。

当然ながら企業がクレジットを購入する際には費用が伴います。心の底から環境負荷の低減を願う真の(?)ESG投資家が存在するとしたら、CO2を1グラムも減らさないのに経営上のコストアップ、利益圧迫につながるクレジット購入は株主利益に反します。

そしてその炭素クレジット購入に伴うコストアップは製品・サービスに転嫁され顧客や消費者が負担することになります。最終消費者の中には、電気代が払えず真夏や真冬にエアコンを停めて耐え忍んでいる人たちがいるのに、です。これのどこが誰一人取り残さない社会なのでしょうか。2023年以降、日本の産業界がグリーンウォッシュだらけになってしまうことを大変に危惧します。

『「脱炭素」が世界を救うの大嘘』

『メガソーラーが日本を救うの大嘘』

『SDGsの不都合な真実』

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