ノーベル物理学者クラウザーの「気候危機否定」講演

2023年09月07日 06:50
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

2022年にノーベル物理学賞を受賞したジョン・F・クラウザー博士が、「気候危機」を否定したことで話題になっている

騒ぎの発端となったのは韓国で行われた短い講演だが、あまりビュー数は多くない。改めて見てみると、とても良い講演で、クラウザーの真意がよく分かる。

講演は、Quantum Korea 2023という、量子技術における学術的な大会におけるもので、氏は若い人向けにメッセージを発してほしい、との要望に応えたものだ。

講演では、厳密な実験を行うこと、それで確認されない限りは、ただの空想的な理論に過ぎない、ということが強調された。

氏がこれを言うことには重みがある。ノーベル賞受賞理由になった「量子もつれ」の研究は、これこそ「実験」の神髄、といったところだからだ。

遠く離れた場所にある2つの粒子でも、「量子もつれ」状態にあれば、一方の観測がもう一方の状態を瞬時に決めてしまう。量子力学というのは、日常的な常識で言えば信じがたいバカげたことばかりだが、この「遠隔での量子もつれ」というのは、その最たるものだ。アインシュタインがそんなことある訳ないだろうと言い続けたのは有名な話である。しかしクラウザーらはこの存在を実験で証明してしまった。いまではこの量子もつれは量子暗号などさまざまな応用技術を生んでいる。

その一方で、この講演でクラウザーは、気候危機説を否定し、気候危機に関連する科学が腐敗していると述べている。

この講演の後で行われたインタビューが、氏の考えを要約している。

気候変動に関して人々に広められている物語は、危険なまでに腐敗した科学の反映であり、世界経済と何十億もの人々の幸福を脅かしている。誤った気候科学は、大規模なショック・ジャーナリズムの似非科学へと転移している。そしてその誤った似非科学である気候変動は、あらゆる悪いことを引き起こしているとされた。本当は無関係であるにもかかわらず、スケープゴートとなったのだ。この似非科学は、同じ様に誤ったビジネス・マーケティング、政治家、ジャーナリスト、政府機関、環境保護論者によって宣伝され、拡大されてきた。

私の考えでは、本当の気候危機など存在しない。しかし、世界の膨大な人口に良い生活水準を提供するという非常に現実的な問題が存在し、それに関連するエネルギー危機は存在する。このエネルギー危機は、私に言わせれば、間違った気候科学のせいで不必要に悪化している。

クラウザーの眼から見れば、気候科学は似非科学(Pseudo-Science)なのだ。

筆者もこれに同意する。筆者は、もちろんクラウザーに比肩などできるはずもないが、大学時代は物理学に傾倒し、科学的な方法とは何かという基本についてはその時に叩き込まれて身についているつもりだ。

このコラムで縷々述べてきたように、いま「気候危機」を訴えている「科学」は、観測や統計を軽視し、シミュレーションを多用している。だがこれはあべこべだ。

地球環境ではクラウザーの重視する「実験」は難しいが、ならば「観測」や「統計」こそ重視すべきだ。しかしそこからは気候危機など全く検出されない。

気候危機説はシミュレーションにもっぱら頼っているが、実際のところそのシミュレーションは十分に観測を再現することすらできず、予言能力のあるものでは無い。

クラウザー以前にも1998年にノーベル物理学賞を受賞したラフリンなど、「気候危機」を訴える「科学」に批判的な物理学者はじつは多い。

その最大の理由は、「気候危機」の科学が、実験や観測こそが重要だという、科学の基本を逸脱し、特定の政治目的に奉仕し、人々を不幸にしていることだ。

これは物理学を愛する者であれば我慢がならない。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • (GEPR編集部より)GEPRは民間有識者などからなるスマートメーター研究会(村上憲郎代表)とともに、スマートグリッドの研究を進めている。東京電力がスマートメーターを今年度300万台、今後5年で1700万台発注のための意見を募集した。(同社ホームページ)同研究会の意見書を公開する。また一般読者の方も、これに意見がある場合に、ご一報いただきたい。連絡先は info@gepr.org この意見書についての解説記事
  • 太陽光発電を導入済みまたは検討中の企業の方々と太陽光パネルの廃棄についてお話をすると、ほとんどの方が「心配しなくてもそのうちリサイクル技術が確立される」と楽観的なことをおっしゃいます。筆者はとても心配症であり、また人類に
  • 昨今、日本でもあちこちで耳にするようになったESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉である。端的にいうならば、二酸化炭素(CO2)排
  • 経産省と国交省が進めていた洋上風力発電をめぐって、いったん決まった公募入札のルールが、1回目の入札結果が発表されてから変更される異例の事態になった。 ゲームが始まってからルールを変えた これは2020年から始まった合計4
  • 20世紀後半から、人間は莫大量の淡水を農工業で利用するようになった。そのうち少なからぬ量は海に還ることなく蒸発して大気中に放出される。それが降水となることで、観測されてきた北半球の陸地における2%程度の雨量増加を説明でき
  • アメリカでは「グリーン・ニューディール」をきっかけに、地球温暖化が次の大統領選挙の争点に浮上してきた。この問題には民主党が積極的で共和党が消極的だが、1月17日のWSJに掲載された炭素の配当についての経済学者の声明は、党
  • 来たる4月15日、ドイツの脱原発が完遂する。元々は昨年12月末日で止まるはずだったが、何が何でも原発は止めたい緑の党と、電力安定のために数年は稼働延長すべきという自民党との与党内での折り合いがつかず、ついにショルツ首相(
  • 企業で環境・CSR業務を担当している筆者は、様々な識者や専門家から「これからは若者たちがつくりあげるSDGs時代だ!」「脱炭素・カーボンニュートラルは未来を生きる次世代のためだ!」といった主張を見聞きしています。また、脱

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑