サンゴに問題は無く、サンゴの科学に問題が有るという指摘

2023年08月18日 06:40
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

飛行機から見えるグレートバリアリーフ
Luisa Trescher Photos/iStock

オーストラリア海洋科学研究所が発表した、グレートバリアリーフのサンゴの被覆面積に関する最新の統計は、グレートバリアリーフの滅亡が間近に迫っているという、60年にわたる欠陥だらけの予測に終止符を打つものだ

ピーター・リッド氏が、オーストラリアン誌の取材に応えている。

ここで被覆面積と言っている意味であるが、サンゴ礁といっても全体がサンゴに覆われているわけではなく、砂地や岩の場所もあれば、サンゴが死んでしまっている場所もある。そこで海底全体がどのていどサンゴで覆われているかを観測してサンゴ礁の健全性の指標とする。観測方法については野北教授が分かり易く解説している

以前に本コラムに書いたとおり、オーストラリアの東海上に連なる世界最大のサンゴ礁であるグレートバリアリーフにおけるサンゴの被覆面積は、「地球温暖化で滅亡する」という予言とは全く異なり、増加を続け、2022年には過去最大になった。

2023年にも調査が行われ、グレートバリアリーフ全体でのサンゴ被覆面積は、記録的な高水準を記録した昨年とほとんど差は無かった(統計的に有意な差は無かった)。

この結果、大型サイクロンに見舞われサンゴ礁の被覆面積が低水準を記録した2012年に比べると、じつに2倍となった。

2022年の記録的な被覆面積は、「サンゴ礁の危機」を煽ってきた科学機関にとって恥ずべきものだった。なぜなら、「サンゴ礁は2016年、2017年、2020年、2022年の4度にわたる前代未聞の高温白化現象によって壊滅的な打撃を受けたばかりだ」、と彼らは宣言していたからだ。

リッド氏は舌鋒鋭く続ける:

今年、オーストラリア海洋科学研究所AIMSは、記録的な2023年のサンゴの被度を「回復の一時停止」と表現することで、良いニュースを悪いニュースにすり替えるという悪しき伝統を受け継いだ。

メディアは悪いニュースが大好きだが、その悪いニュースがサンゴ礁ではなく、サンゴ礁の科学機関に関するものであることに、人々はいつ気づくのだろうか?良いニュースを悪いニュースにすり替えようとする彼らの哀れな試みは、この科学機関の知的破綻の決定的な証拠である。

真実は何かといえば、私たち国民は、何十年もの間、詐欺に遭ってきたということだ。かつては信頼されていた科学機関も、今や信用できない存在となってしまった。そろそろ真剣に精査すべき時だ。

イデオロギー的になっていないか?

集団思考に陥っていないか?

サンゴ礁が破滅するという宣伝文句による、資金調達の必要性に突き動かされていないか?

異論を唱える者をどう扱っているのか、追放しているのか、歓迎しているのか?

明らかに失敗している科学的な品質管理のシステムはどうなっているのか?

なぜ60年間もこのような間違いを犯してきたのか?

明らかに、多くのオーストラリア人がサンゴ礁科学者の信憑性を疑っている。オーストラリア環境財団(Australian Environment Foundation)の世論調査によると、何十年もの間、サンゴ礁の「破滅の科学」がメディアで容赦なく取り上げられたにもかかわらず、サンゴ礁が現在悪い状態にあると考える人はわずか51%に過ぎなかった。

グレートバリアリーフは、私たち国民の科学機関を精査するのに適した場所だ。一部の科学機関が信頼に値しないことを示すこれ以上の例はない。私たちはサンゴ礁科学を監査しなければならない。マスコミが怒ることは避けられないが、それでもサンゴ礁のサンゴの被覆面積が極めて高いという事実を世間に知らしめるためには、科学機関を監査する必要がある。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • COP28が11月30日からアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催される。そこで注目される政治的な国際合意の一つとして、化石燃料の使用(ならびに開発)をいつまでに禁止、ないしはどこまで制限するか(あるいはできないか)と
  • 岸田首相肝いりのGX実行会議(10月26日)で政府は「官民合わせて10年間で150兆円の投資でグリーン成長を目指す」とした。 政府は2009年の民主党政権の時からグリーン成長と言っていた。当時の目玉は太陽光発電の大量導入
  • 先日、「国際貿易投資ガバナンスの今後」と題するラウンドテーブルに出席する機会があった。出席者の中には元欧州委員会貿易担当委員や、元USTR代表、WTO事務局次長、ジュネーブのWTO担当大使、マルチ貿易交渉関連のシンクタンク等が含まれ、WTOドーハラウンド関係者、いわば「通商交渉部族」が大半である。
  • 米国中間選挙がいよいよ来月に迫ってきた。メディアで流れる観測は民主党が下院で過半数を奪還する一方、上院では共和党が過半数を維持するというものだが、世論調査なるものがなかなか当てにならないことは2016年の大統領選で実証済
  • 経済産業省で12月12日に再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(以下単に「委員会」)が開催され、中間とりまとめ案が提示された(現在パブリックコメント中)。なお「中間とりまとめ」は役所言葉では報告書とほぼ同義と考え
  • G7伊勢志摩サミットに合わせて、日本の石炭推進の状況を世に知らしめるべく、「コールジャパン」キャンペーンを私たちは始動することにした。日出る国日本を「コール」な国から真に「クール」な国へと変えることが、コールジャパンの目的だ。
  • 前回、前々回の記事で、企業の脱炭素の取り組みが、法令(の精神)や自社の行動指針など本来順守すべき様々な事項に反すると指摘しました。サプライヤーへの脱炭素要請が優越的地位の濫用にあたり、中国製太陽光パネルの利用が強制労働へ
  • 原発再稼働をめぐり政府内で官邸・経済産業省と原子力規制委員会が綱引きを続けている。その間も、原発停止による燃料費の増加支出によって膨大な国富が海外に流出し、北海道は刻々と電力逼迫に追い込まれている。民主党政権は、電力会社をスケープゴートにすることで、発送電分離を通じた「電力全面自由化」に血道を上げるが、これは需要家利益にそぐわない。いまなすべきエネルギー政策の王道――それは「原子力事業の国家管理化」である。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑