言論が封殺されるドイツへの憂慮:ワクチンをめぐる医者の話

2023年07月09日 06:50
アバター画像
作家・独ライプツィヒ在住

Grafissimo/iStock

「2年10ヶ月の懲役刑」というのが、ノートライン=ヴェストファーレン州のボッフム州立裁判所が7月1日に下した判決だった。被告は、医師であるハインリヒ・ハービク氏、67歳。裁判長ペトラ・ブライヴィッシュ=レッピング氏によれば、「被告の行動には許される理由はなく」、それどころか氏には、「法に対する敵意」がみられるとのこと。あたかも暴力団である。

では、ハービク医師は、いったいどんな「反社」の罪を犯したのか?

氏は、コロナワクチンを接種していない大勢の人(確認済みは207人と言われる)に、偽の接種証明を出した。それを聞き知った一人の女医が通報したため、昨年1月、氏の医院と自宅に警察の捜索が入った。そして、医療カルテ6000枚、コンピュータ、ワクチンなどが没収され、後日5月14日の氏の逮捕に至った(氏の妻も共犯として起訴されているが自由の身)。

以来すでに1年以上、ハービク氏は拘束されており、仮釈放が許されない理由は、逃亡の恐れがあるからとのこと。しかも、この日、判決を言い渡した裁判長は、行政に対し、懲役刑を即座に執行するように求めたため、ハービク氏の拘束は今後も切れ目なしに続く。ただし、これまでのように未決勾留者としてではなく、受刑人として。

では、氏はなぜこのような罪を犯したのか? その背景については、ドイツの事情を説明しなければならない。

ドイツで新型コロナの脅威が荒れ狂い始めたのが20年の初め。中国の話だと思っていた疫病がヨーロッパに上陸し、まもなくイタリアで大量の死者が出始めたのを見たドイツ人は、正真正銘のパニックに陥った。その後、マスクの争奪戦やら、ロックダウンやらで大騒動になったことは言うまでもない。

当時、これを収束させる希望の星とされたのがワクチンで、同年の12月、英国で世界初のワクチン接種が行われたとき、世界中がそれを祝福した。それ以後、今度は凄まじいワクチン争奪戦が始まった。

ただ、実は当初から、ワクチンの安全性に対して懐疑的な意見を持っている人たちが少なからずいた。彼らが警戒していたのは単なる一時的な副反応などではなく、体内に何らかの半永久的な変化が刻まれ、それが何年も経ってから悪影響を及ぼす可能性なども含まれていた。そして、そういう疑いを持った人は、当然のことながら医師や看護師など医療関係者に多く、中には強い恐怖を覚えている人もいた。

しかし、ドイツ政府はワクチン調達が軌道に乗ると、軍隊、警察、消防、医療関係者などに強く接種を奨励した。医療、および介護関係者に対する接種の義務化はもっと後のことだが、すでにその前に接種の圧力は抗えないほど強くなっていた。それが嫌で、泣く泣く退職する人たちも出た。

一方、一般人の接種も、義務にこそならなかったが、やはりさまざまな圧力がかけられた。接種をせずにコロナに罹患したら、病欠ではなく、欠勤にされたのもその一つだ。

特に21年の後半(州によって若干異なる)からは、決められた回数(最初は2回だったのが3回に変わった)の接種を済ませていない人間は、スーパーマーケットとドラッグストアと薬局以外には入れなくなった。レストランやブティックはもちろん、美容院からも靴屋からもホームセンターからもスポーツジムからも、事前に検査場で24時間有効の陰性証明を取ってこない限り、全て締め出された。

教会でさえ「ワクチンは隣人愛」だとして、ワクチン接種者と陰性証明の所持者しかミサに参加させなかった。また、コロナ関連の抗議集会やデモは、“感染を広める”という理由で禁止された。そこで人々は「散歩」と言って行進したが、それもたいてい警察の力で強権的に解散させられた。要するに、この頃は、ワクチン接種の有無により、基本的人権が制限されたのである。

この規則は22年の2月に解除となり、以後はワクチンの有無が問われることはなくなったが、しかし、医療機関だけは例外で、その1ヶ月後の3月16日にワクチン接種が義務化された(これがようやく解除されたのは、23年から)。

そんな事情にもかかわらず、今回の裁判で裁判長は、「ワクチンを接種したくなかったら、不法行為に走らず、堂々と司法に訴えるべき」と主張した。しかし、それではたしてワクチン接種を回避できただろうか?

万能だと思われていたワクチンに、実はそれほどの効力がないことは今や周知の事実だ。さらに、ワクチンが重篤な障害を引き起こしたり、超過死亡の原因になっている疑いも次第に共有されている。ドイツでは被害の訴えは200件を超えた。

しかしながら、ワクチンの効用に異を唱えればフェイクニュース扱いで、YouTubeから締め出される状況は今なお続いている。つまり、裁判長の言うように法に訴えたとしても、そう簡単に接種を免除されたとは思えない。それどころか運が悪ければ、身柄の拘束さえあり得た。

バーデン=ヴュルテンベルク州では22年6月、政府のコロナ対策に抗議し、あちこちの町で「散歩」を主導したミヒャエル・バルヴェクという弁護士(48歳)が、寄付金をめぐる資金洗浄の容疑を理由に逮捕された。氏は、保健相自らが、多くのコロナ対策は間違いであったと認めた後も拘束が解かれず、ようやく釈放されたのは今年の4月だ。

さて、ハービク氏の裁判に話を戻せば、いったいこれをどう解釈すべきか。

そもそも未決勾留の期間は最高6ヶ月なのに、氏は一年以上も拘束され、最初の2ヶ月は妻の面接も許されなかった。傍聴人の話では、公判の時の警備はテロリストやマフィア級の厳重さで、しかも氏は手錠と足枷をつけて現れたという。ひょっとして、これは見せしめ裁判なのだろうか? あるいは、同じようなことをした医師に対する恐嚇なのか?

さらに不可解なのは、最初の公判の時、傍聴に来た人の身分証明が司法官によってコピーされ、ハービク氏の患者だったとわかった人には、後日、抗体があるかどうか調べるための血液採取が行われたという話。違法行為(傷害)の疑いがある。

またドイツでは、かなりの凶悪犯でも仮釈放し、GPS付きの足輪で監視しているケースも多いが、ハービク氏の場合はそうならない。何が何でも、今しばらくは氏の口を封じておきたいという強い力が働いているように感じる。

さらに私が驚いたのは、主要メディアがこの件を一切取り上げないこと。私が見つけられたのは、ドイツでは独立系のオンライン・メディアが2社と、YouTuberが1人、そして、オーストリアのやはり小さなオンライン・メディア1社だけだった。なぜか、いずれも右派とされるところばかりだ。

なお、クリスチャン・モーザーという若い弁護士が、この件を執拗に追っており、前述のメディア2社でも、法律的な見地からの詳細な解説を試みていた。興味深かったのは、医師が、法律と医師としての良心との板挟みになった場合、ドイツではわざわざ、医師が法律ではなく、自分の良心に従って行動することを認めているという話。これは、ナチ政権の下で、医師が政府の命令に従い、知的障害者などを安楽死させたことへの反省からきている。

しかし、そうだとすれば、なぜ、これがハービク氏に適応されないのか。氏が良心に基づいて法律を破り、周りの人々をワクチンの健康被害から守ったという解釈は間違いなのか。

ちなみに、この判決が出た2日後の7月3日、公営第2テレビの夜のニュースでは、ワクチンのせいで視力を失った男性が、ファイザー・ワクチンの製造元である独バイオンテック社に慰謝料を求めて起こした裁判の様子を伝えていた。眼球の脳梗塞のような病気らしいが、驚いたのは、実は、私の知り合いのご主人もワクチン接種後、まさにこの病気に冒されて、今も治療中だからだ。

しかし、第2テレビの法律家は、「ワクチン接種で起こりうる危険については、事前に十分説明がなされているので、基本的に訴えは成立しない」、「ワクチンが社会全体に与えるプラスとマイナスを考慮すれば、このワクチンはプラスが勝っている」というような解説をしていた。ワクチンに関しては、政府とメディアは足並みが揃っている。

ドイツではこの頃、司法と行政のニアミスを感じることも多くなった。ドイツはいったいどこへ行くのだろう。

This page as PDF

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑