G7気候・エネルギー・環境大臣会合について
4月15-16日、札幌において開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合は共同声明を採択して閉幕した。
欧州諸国はパリ協定、グラスゴー気候合意を経てますます環境原理主義的傾向を強めている。ウクライナ戦争によってエネルギー安全保障が危機に瀕して少しはバランスを取り戻すかと思ったが、むしろ脱ロシア化石燃料のみではなく脱化石燃料にますます突っ走っている。米国もケリー気候特使は欧州にきわめて近い。
エネルギー資源、土地条件、近隣国との連系線等の面でハンディをかかえる日本がお花畑的な再エネ万能論や数値目標に乗っかれば経済やエネルギー安全保障に悪影響が出る。共同声明を読むと日本は非常によく頑張ったことがよくわかる。
第一は石炭火力や電力脱炭素化の取り扱いだ。欧州諸国は2030年までに排出削減対策を講じていない石炭火力を段階的に廃止することを強く主張していた。昨年のG7エルマウサミットでは特定の年限を定めずに石炭火力の段階的廃止が盛り込まれていたが、これを更に前に進めようというものだ。
最終的には昨年同様、石炭火力の段階的廃止に年限を設けることはなかった。安価で安定的なエネルギー供給は不可欠であり、天然ガス価格の動向や原発再稼働の進捗が不透明な中でエネルギー安全保障リスクの相対的に低い石炭火力を放棄する合理的理由はない。
また石炭火力であってもアンモニアとの混焼等によりカーボンフットプリントを下げることができる。ウクライナ戦争によって石炭依存を高めたドイツが居丈高に他国に石炭フェーズアウトを迫るなど、「おまいう?」と言いたくなってくる。
天然ガス投資の重要性が盛り込まれたことは重要だ。昨年来、日本はガスの需給ひっ迫が途上国に経済的苦境をもたらしている等の理由でLNG受け入れターミナルのみならず天然ガス全体の投資の重要性を指摘してきた。欧州諸国は自らの天然ガス調達のためにLNG受け入れターミナルを建設しながら、ガス全体の投資の重要性について否定的であったが、これを抑え込んだ形だ。
新聞は「石炭のみならず天然ガスについても段階的廃止」という点を強調しているが、共同声明においては「遅くとも2050年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」というものであり、G7諸国が2050年カーボンニュートラルを目指していることを言い換えたに過ぎない。天然ガス投資の重要性が認識されたことこそ見出しにすべきであった。
道路部門の脱炭素化については米国がZEVの比率を2030年までに50%にするとの数値目標を主張したが、G7全体で2035年までに道路部門のCO2排出を半減するという技術中立的な文言で決着した。これは主要国の自動車工業会の参加するOICA(International Organization of Motor Vehicle Manufacturers)の主張と整合的である。特定技術についてだけ数値目標を設けることは合理的ではない。
原子力に関し、「原子力エネルギーの使用を選択した国々は」という形で主語を限定しつつ、エネルギー安全保障、脱炭素化、ベースロード電源、系統の柔軟性の源泉としての原子力の重要性についてしっかり書き込み、既存炉の最大限の活用、革新的原子炉の開発、建設の重要性が指摘された。
加えて水素においてはグリーン水素、ブルー水素といったカテゴリー分けではなく、炭素集約度に基づく取引可能性や国際標準・認証の必要性が指摘され、日本が強みを有する環境性能の優れた製品、技術による「削減貢献量」の重要性、エネルギー転換期のトランジション・ファイナンスの重要性が指摘されたことも特筆したい。
再エネについてはG7全体で洋上風力150GW、太陽光1TWという数値目標が盛り込まれたが、クリーンエネルギーのサプライチェーンにおける人権、労働基準遵守の確保、(特定国・地域への)過度の依存の問題点、再エネやEVに不可欠な重要鉱物の脆弱なサプライチェーン、独占、サプライヤーの多様性欠如による経済上、安全保障上のリスクについても指摘された。
「安い再エネ」はウイグルの強制労働を使い、生産工程で石炭火力を使う中国製パネルに支えられるとことがあったが、上記の課題に取り組めば再エネのコストアップ要因になる。再エネ拡大を図るうえで大きな課題となろう。
温暖化目標の面では昨年のエルマウサミット以上に非現実的な数字が並ぶことになった。「2025年全球ピークアウト」や新興国を念頭に「1.5℃目標と整合性を保つべく、2030年目標を見直し、2050年カーボンニュートラルをコミットすることを求める」等が盛り込まれたが、中国が2030年ピークアウト、インドが2030年以降も排出増を見込んでいる中で、インド主催のG20にこうした文言が盛り込まれる可能性は皆無だ。
温暖化防止に対する先進国の優先順位が新興国、途上国でシェアされていないことは明らかであり、しかも先進国は彼らの行動変容を促す有効なレバレッジを有していない。新聞報道では「2035年60%減という数値目標を書き込んだ」とあるが、原文を読むとそうした数字を含むIPCC報告書の指摘の緊急性をハイライトするというものであり、G7の2035年目標をプレジャッジするものではない。
朝日、毎日、東京新聞にはエネルギー温暖化問題でまともな記事などはなから期待していないが、最近の日経新聞の報道はいただけない。
今回、日経新聞は数値目標に関する議論を特筆大書し、「EVの導入目標や石炭火力の廃止時期など日本は共同声明の随所で数値目標の設定を拒み続けた。議長国ながら米欧が求める意欲的な脱炭素目標に抵抗する場面も目立った」と批判しているが、筆者はエネルギーの現実を踏まえた合理的な着地点を見出したこと、無意味な数値目標を盛り込まなかったことを評価したい。
環境原理主義者は空虚な数値目標に拘泥するが、これは京都議定書時代のマインドセットと全く変わらない。気候変動エディターなるものが登場して以来、最近の日経新聞にはそうした愚かな思い込みに基づく記事が多いのは困ったものである。
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