日本メディアも米国並みにマトモな温暖化報道をして欲しい
この連載でもたびたび引用してきたが、米国共和党は、気候危機など存在しないことを知っている。
共和党支持者が信頼しているメディアはウオールストリートジャーナルWSJ、ブライトバートBreitbart、フォックスニュースFox Newsの3つだ。
最近のいくつかの記事を紹介しながら、その論調を確認してみよう。筆者にとっては、きわめてまっとうなことばかりである。
化石燃料燃焼によってCO2が増え、それによっていくらか地球温暖化していることには、みな同意していて、否定するものはいない。
しかしハリケーンなどの災害の激甚化など起きていないし、シロクマの絶滅も起きてなどいない。米国では、特に共和党支持者に向けては、観測や統計のファクツを科学者もメディアもきちんと伝えているから、みなよく分かっているのだ。不吉なシミュレーション予測はたくさんあるが、過去の再現すらうまくできていないもので、将来も当たりそうにない。
Bjorn Lomborg Climate Report: Hurricanes ‘Unprecedentedly Weak’ in 2022
ビョルン・ロンボルグ気候報告書。2022年のハリケーンは「前代未聞の弱さ」。
Thomas D. Williams, Ph.D.
Breitbart News Network – 30 Jan 2023
その一方で、民主党系のメディアであるCNNやGAFAなどは執拗に気候危機説を煽っていて、ファクトチェックと称して正しい情報を禁止し、逆に誤情報を拡散している。それに対する抗議文書をWSJは掲載した。
Partisan ‘Fact Checkers’ Spread Climate-Change Misinformation
I posted sound statistics on polar-bear populations, and Agence France-Presse called them ‘misleading.’気候変動に関する誤った情報を拡散する党派的な「ファクトチェッカー」たち
私はホッキョクグマの個体数に関する健全な統計を掲載したが、AFPはそれを『誤解を招く』と言っている。
共和党寄りのメディアでは、エネルギー政策においても、太陽光や風力などのグリーンなエネルギーにはコストや安定性の点で限界があるので、原子力や化石燃料に頼るべきだとする正論を展開する。
そして、中国を利する形でCO2の削減を最優先にするのは間違っており、中国・ロシアとの新冷戦に勝つことこそが米国にとっての最重な国益だとする。
S.O.S for the U.S. Electric Grid
PJM Interconnection sounds the latest alarm that fossil-fuel plants are shutting down without adequate replacement power. The political class yawns.米国の電力網S.O.S. PJM送電会社は、化石燃料による発電所が適切な代替電力なしに停止していることに警鐘を鳴らしている。これを放置する政治は怠慢である。
By The Editorial Board Follow
Feb. 26, 2023 4:47 pm ET
The Ukraine War Lesson Europe Refuses to Learn
The Continent is taking national security seriously but closes its eyes to the risks of ‘green’ energy.ヨーロッパが学ぼうとしないウクライナ戦争の教訓
欧州は国家安全保障に取り組んでいるものの、「グリーン」エネルギーのリスクに目をつぶったままだ。Joseph C. Sternberg hedcutBy Joseph C. SternbergFollow
Feb. 23, 2023 1:06 pm ET
CHINA Published February 20, 2023 2:00am EST
CCP-backed tech companies are poised to cash in on Biden’s climate bill, national security experts warn
Ford has ‘serious questions to answer,’ Sen. Joe Manchin’s office tells Fox News DigitalThomas CatenacciBy Thomas Catenacci | Fox News
中国共産党が支援するハイテク企業はバイデンの気候変動法案で儲ける構え。国家安全保障専門家が警告する。フォード社には「答えるべき重大な疑問がある」とジョー・マンチン上院議員の事務所がFox News Digitalに伝えた。
DIGITAL ORIGINALS Published February 21, 2023 2:00am EST
Does China’s purported green energy push signal a coming conflict with the US?
Climate talks between the US and China are meant to appease westerners, not actually enact change, policy analyst says中国のグリーンエネルギー推進は、米国との対立を示唆するものなのか?
米中気候変動協議は欧米人をなだめるためのものにすぎず、実際に中国に変化をもたらすものではない、と政策アナリストが指摘
米国は昨年11月の中間選挙で下院は共和党が過半数になった。上院では民主党が多数だが、ことエネルギー・環境政策に関しては民主党でもマンチン議員などの一部の有力議員が造反して共和党に同調して投票することが増えている。とくにいま注目なのは、ESG投資への反対運動が強くなったことだ。上下両院で反ESG決議が採択されている。
【社説】反ESG決議採択がさらけ出したこと
バイデン大統領は初めて拒否権を行使する意向By The Editorial Board
2023年3月3日 13:31 JST
米国共和党は、目覚めた資本主義(Woke Capitalism)の一派として、ESG投資の高まりを批判的に見ている。ESG投資は左翼リベラル的な価値観の実現を目指すものであり、本来はそのような価値に対しては中立であるべき年金基金や金融機関が、そのような政治目的のために資金運用方針を変更することは不適切だ、と考えている。
この反ESGの動きは、2024年末の大統領選挙に向けて大きな争点になるかもしれない。
反ESG投資、米保守派の新スローガンに
「ウォークの資本主義」と批判、全国キャンペーンを展開By Julie Bykowicz and Angel Au-Yeung
2023年3月3日 08:34 JST
ESGファンドの不都合な真実 手数料が高いだけ
ESGファンドは平均して資産の68%を従来型ファンドと「全く同じ」銘柄に投資By Jason Zweig
2023年2月6日 07:33 JST
日本はこれまでのところ、オール与党で気候危機説を信奉し、再エネ最優先で脱炭素、と言ってきた。だがそろそろ、ファクツを確認し気候危機説を止め、再エネ最優先の脱炭素ではなく、中国との新冷戦にどう勝つかということこそを真剣に考えて、原子力と化石燃料の利用に舵を切るべきではないか?
日本にはその担い手となるまっとうなメディアは、政治家は、もっといないのか?
下院が共和党多数になった米国議会は、すでに大きく変わっている。2024年に大統領がもし共和党になれば米国はいっそう根本から変わる。そうなれば日本もまたぞろ変わらざるを得ないが、そうなってから慌てふためくのでは情けない。
■
『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。
関連記事
-
太陽光発電の導入は強制労働への加担のおそれ 前回、サプライヤーへの脱炭素要請が自社の行動指針注1)で禁じている優越的地位の濫用にあたる可能性があることを述べました。 (前回:企業の脱炭素は自社の企業行動指針に反する①)
-
監督:太田洋昭 製作:フィルムボイス 2016年 東日本大震災、福島第一原子力発電所事故から5年間が過ぎた。表向きは停電も電力不足もないが、エネルギーをめぐるさまざまな問題は解決していない。現実のトラブルから一歩離れ、広
-
以前書いたように、再生可能エネルギー賦課金の実績を見ると、1%のCO2削減に1兆円かかっていた。 菅政権が26%から46%に数値目標を20%深堀りしたので、これは年間20兆円の追加負担を意味する。 20兆円の追加負担は現
-
小泉純一郎元総理が4/14に「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」なる団体を立ち上げて、脱原発運動を本格化させる動きを見せている。またこれに呼応した動きかわからないが、民進党内部でも有志による脱原発に向けた政策の検討が活発
-
「脱炭素社会の未来像 カギを握る”水素エネルギー”」と題されたシンポジウムが開かれた。この様子をNHKが放送したので、議論の様子の概略をつかむことができた。実際は2時間以上開かれたようだが、放送で
-
アゴラ・GEPRは、NHNJapanの運営する言論サイトBLOGOS 、またニコニコ生放送を運営するドワンゴ社と協力してシンポジウム「エネルギー政策・新政権への提言」を11月26、27日の2日に渡って行いました。
-
「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許
-
16日に行われた衆議院議員選挙で、自民党が480議席中、294議席を獲得して、民主党から政権が交代します。エネルギー政策では「脱原発」に軸足を切った民主党政権の政策から転換することを期待する向きが多いのですが、実現するのでしょうか。GEPR編集部は問題を整理するため、「政権交代、エネルギー政策は正常化するのか?自民党に残る曖昧さ」をまとめました。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間