中国の石炭火力は日本の20倍分で更に6倍分建設中

Evgeny Gromov/iStock
中国で石炭建設ラッシュが続いている(図1)。独立研究機関のGlobal Energy Monitor(GEM)が報告している。

図1 GEMより
同報告では、石炭火力発電の、認可取得(Permitted) 、事業開始(New project started)、建設開始(Construction) 、運転開始(Commissioned)など、今後建設される予定の(「パイプライン」に入っていると言う)各段階のデータを収集している。
2022年に中国で建設が開始された石炭発電設備容量は、世界の他の地域をすべて合わせたものの6倍となっていることが分かる。

図2 GEMより
更に、同ホームページのデータを使って日中比較をしてみた(図3)。2023年1月時点の日中の石炭火力発電設備容量と、パイプラインに入っている今後数年で建設される予定の中国の石炭火力発電設備容量を比較している。

図3 筆者作成。データはGEMによる。
現時点で中国は日本の20倍の設備量を有している。今後数年の中国の建設量は日本の6倍だ(なお日本は今後の純増は予定されていないので、今後数年の建設量は中国のみ記してある)。
いま日本は温暖化対策のためとして、石炭火力発電の割合を減らそうとしているが、中国でこれだけ爆増しているときに、いったいどれだけの意味があるのだろうか。
もちろん、設備容量が増えることは、必ずしもCO2排出量増大とイコールではない。設備利用率(稼働率のこと)が低ければCO2排出は少なくなるからだ。しかし、いったん設備が出来てしまえば、普通は、それを稼働することが経済的になる。これだけの設備容量が追加されるとなると、やはり長期に渡って大量にCO2を排出し続ける可能性が高いのではなかろうか。
この建設ラッシュが起きたのは、世界的なエネルギー危機が主な原因だ。多くの石炭火力発電所は、ほんの数か月で建設の認可を取得したという。中国は、温暖化対策の看板は下げていないが、やはりエネルギーの安定・安価な供給が最優先なのだ。
では温暖化対策はどうなっているのか。同報告では、以下の指摘もしている。
広東省、江蘇省、安徽省の新規の石炭発電所は「サポート」発電という名目で建設されている。これはベースロードとしての「バルク」発電とは異なり、「系統安定性のサポート」または「断続的な自然エネルギーのサポート」のいずれかを意味する。
このようになっている理由は、国家エネルギー局が2022年2月に発表した方針で、バルク発電を目的とした石炭発電所の新設は認めないとしたためである。
本来、「サポート電源」への指定は、発電容量が不足したときだけ稼働すればよいので、稼働率の低さを意味するはずだ。しかし、これらのプロジェクトの環境影響評価では、年間4500~5500時間の稼働が見込まれている。1年は8760時間だから、つまり設備利用率は5割を超えていて、これは中国のベースロード石炭発電所の平均を上回っており、「サポート電源」という名目に合致していない。
■
『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。

関連記事
-
資本主義永続としての「脱成長」のロジック 『資本論』のドイツ語版からの翻訳とフランス語版からの翻訳のどちらでも、第1巻の末尾で「資本主義的所有の最後の鐘が鳴る。今度は収奪者が収奪される」(マルクス、1872-1875=1
-
ウクライナ戦争は世界のエネルギー情勢に甚大な影響を与えている。中でもロシア産の天然ガスに大きく依存していた欧州の悩みは深い。欧州委員会が3月に発表したRePowerEUにおいては2030年までにロシア産化石燃料への依存か
-
「脱炭素社会の未来像 カギを握る”水素エネルギー”」と題されたシンポジウムが開かれた。この様子をNHKが放送したので、議論の様子の概略をつかむことができた。実際は2時間以上開かれたようだが、放送で
-
猛暑になるたびに「地球温暖化のせいだ」とよく報道される。 だがこれも、豪雨や台風が温暖化のせいだという話と同様、フェイクニュースだ。 猛暑の原因は、第1に自然変動、第2に都市熱である。地球温暖化による暑さは、感じることも
-
1.第5次エネルギー基本計画の議論がスタート 8月9日総合資源エネルギー調査会基本政策部会においてエネルギー基本計画の見直しの議論が始まった。「エネルギー基本計画」とはエネルギー政策基本法に基づいて策定される、文字どおり
-
きのう「福島県沖の魚介類の放射性セシウム濃度が2年連続で基準値超えゼロだった」という福島県の発表があった。これ自体はローカルニュースにしかならなかったのだが、驚いたのはYahoo!ニュースのコメント欄だ。1000以上のコ
-
猪瀬直樹氏が政府の「グリーン成長戦略」にコメントしている。これは彼が『昭和16年夏の敗戦』で書いたのと同じ「日本人の意思決定の無意識の自己欺瞞」だという。 「原発なしでカーボンゼロは不可能だ」という彼の論旨は私も指摘した
-
今年9月に国会で可決された「安全保障関連法制」を憲法違反と喧伝する人々がいた。それよりも福島原発事故後は憲法違反や法律違反の疑いのある政策が、日本でまかり通っている。この状況を放置すれば、日本の法治主義、立憲主義が壊れることになる。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間