中国が圧倒的一位の科学技術ランキング
オーストラリア戦略政策研究所(Australian Strategic Policy Institute, ASPI)の報告「重要技術競争をリードするのは誰か(Who is leading the critical technology race?)」が衝撃の調査結果を発表した。(英語報告全文)
それによると、中国は、重要な最新技術分野の大半において圧倒的に進んでおり、世界最先端の科学技術大国となるための基盤を構築している。
下の表は、ASPIが追跡している44の重要技術の一覧だ。このうち37の技術で中国が最先端になっている。残り7つは米国で、日本はゼロだ。
重要技術には、防衛、宇宙、ロボット、エネルギー、環境、バイオテクノロジー、人工知能(AI)、先端材料、量子技術などが含まれている。
先端材料と製造 | 最先端国 |
1.ナノスケールの材料と製造 | 中国 |
2.コーティング | 中国 |
3.スマートマテリアル | 中国 |
4.先端複合材料 | 中国 |
5.新規メタマテリアル | 中国 |
6.ハイスペックな機械加工プロセス | 中国 |
7.先端爆薬・エネルギー材料 | 中国 |
8.重要鉱物の採掘と加工 | 中国 |
9.先端磁石と超伝導体 | 中国 |
10.高度な保護 | 中国 |
11.連続フロー化学合成 | 中国 |
12.アディティブ・マニュファクチャリング(3Dプリンティングを含む) | 中国 |
人工知能、コンピューティング、コミュニケーション |
|
13.高度な高周波通信(5G、6Gを含む。) | 中国 |
14.高度な光通信 | 中国 |
15.人工知能(AI)アルゴリズムとハードウェアアクセラレータ | 中国 |
16.分散型台帳 | 中国 |
17.高度なデータ分析 | 中国 |
18.機械学習(ニューラルネットワーク、ディープラーニングを含む) | 中国 |
19.保護的なサイバーセキュリティ技術 | 中国 |
20.ハイパフォーマンス・コンピューティング | 米国 |
21.高度な集積回路設計・製作 | 米国 |
22.自然言語処理(音声・テキスト認識・解析を含む。) | 米国 |
エネルギー・環境 | |
23.電力用水素・アンモニア | 中国 |
24.スーパーキャパシタ | 中国 |
25.電池 | 中国 |
26.太陽光発電 | 中国 |
27.放射性廃棄物の管理およびリサイクル | 中国 |
28.指向性エネルギー技術 | 中国 |
29.バイオ燃料 | 中国 |
30.原子力エネルギー | 中国 |
量子技術 | |
31.量子コンピューティング | 米国 |
32.ポスト量子暗号 | 中国 |
33.量子通信(量子鍵配布を含む) | 中国 |
34.量子センサー | 中国 |
バイオテクノロジー、遺伝子技術、ワクチン | |
35.合成生物学 | 中国 |
36.バイオ製造 | 中国 |
37.ワクチン・医療対応 | 米国 |
センシング、タイミング、ナビゲーション | |
38.光センサー | 中国 |
防衛・宇宙・ロボティクス・輸送 | |
39.先進航空機エンジン(極超音速を含む) | 中国 |
40.ドローン、群れ・協働ロボット | 中国 |
41.小型人工衛星 | 米国 |
42.自律システム運用技術 | 中国 |
43.高度なロボティクス | 中国 |
44.宇宙ロケットシステム | 米国 |
このランキングは、公開されている論文データベースに基づいている。
単純に論文の本数を数えるのではなく、インパクトのある重要な研究に重みづけをしている。
「中国の研究は論文の数は多いが質が低い」と以前は言われてきたが、もうそのような認識は時代遅れということのようだ。
公開の論文しか評価対象になっていないので、日本のように、企業での研究が盛んであってあまり論文として公開されていない技術が多い国は不利になっている。ただしその一方で、米国や中国などでは軍事研究が盛んであるが、それも多くは論文で公開されてはいない。
また、論文が書けるからといって、実際にモノの製造に直結するとは限らない。旧ソ連は科学技術水準は高く、軍事技術も優れていて世界中に輸出していた。けれども社会主義システムが非効率なせいで、乗用車や家電製品などの民生技術はひどく水準が低かった。
中国も習近平政権の下で毛沢東的な共産主義の色合いが強くなっているから、ソ連と同じ失敗をすることになるかもしれない。他方で、これだけ科学技術人材が厚いとなると、政府が舵取りを間違えなければ、やがて製造技術においても中国が他を圧倒するようになるかもしれない。
それにしてもこの表には日本はゼロであるし、これ以外にも、さまざまなランキングがこのASPI報告にあるが、日本の存在感は殆ど無い。
日本は明らかに科学技術の振興に失敗してきたようだ。これは何とかしなければならない。
その中にあって、対中半導体輸出規制で話題になった半導体製造技術などに代表されるように、化学製品や計測機器などの精密な製造業にはまだ日本は強みを有していて、世界諸国に輸出もしている。こういった強みを失わないことが国の戦略としてはますます大切になるのではないか。
■
『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。
関連記事
-
ウォール・ストリート・ジャーナルやフォーブズなど、米国保守系のメディアで、バイデンの脱炭素政策への批判が噴出している。 脱炭素を理由に国内の石油・ガス・石炭産業を痛めつけ、国際的なエネルギー価格を高騰させたことで、エネル
-
いまや科学者たちは、自分たちの研究が社会運動家のお気に召すよう、圧力を受けている。 Rasmussen氏が調査した(論文、紹介記事)。 方法はシンプルだ。1990年から2020年の間に全米科学財団(NSF)の研究賞を受賞
-
「世界で遅れる日本のバイオ燃料 コメが救世主となるか」と言う記事が出た。筆者はここでため息をつく。やれやれ、またかよ。バイオ燃料がカーボンニュートラルではないことは、とうの昔に明らかにされているのに。 この記事ではバイオ
-
アゴラ研究所の運営するエネルギー・環境問題のバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
昨年10月のアゴラ記事で、2024年6月11日に米下院司法委員会が公表した気候カルテルに関する調査報告書のサマリーを紹介しました。 米下院司法委が大手金融機関と左翼活動家の気候カルテルを暴く サマリーでは具体性がなくES
-
12月4日~14日、例年同様、ドバイで開催される気候変動枠組み条約締約国会合(COP28)に出席する。COP6に初参加して以来、中抜け期間はあるが、通算、17回目のCOPである。その事前の見立てを考えてみたい。 グローバ
-
福島第一原発の「廃炉資金」積み立てを東京電力に義務づける、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法の改正案が2月7日、閣議決定された。これは原発の圧力容器の中に残っているデブリと呼ばれる溶けた核燃料を2020年代に取り出すことを
-
ジャーナリスト 明林 更奈 風車が与える国防上の脅威 今日本では、全国各地で風力発電のための風車建設が増加している。しかしこれらが、日本の安全保障に影響を及ぼす懸念が浮上しており、防衛省がその対応に苦慮し始めているという
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間