米国ランド研究所がロシアとのディールを提言

LeMusique/iStock
アゴラ編集部の記事で紹介されていたように、米国で共和党支持者を中心にウクライナでの戦争への支援に懐疑的な見方が広がっている。
これに関して、あまり日本で報道されていない2つの情報を紹介しよう。
まず、世論調査大手のピュー研究所の報告書である。ここでも、共和党支持者のウクライナ離れは加速していることが示されている。
図を見ると、米国戦車の供与が決まった後の1月23日の調査では、共和党支持者のうち40%もの人々が、ウクライナ支援は過剰Too muchであるとしている。民主党支持者ではこの割合は15%に下がる。
そしてロシアとの「ディールが必要だ」と言っているのは次期大統領選に出馬表明をしたトランプ氏だけではない。
防衛問題に関する米国最高峰のシンクタンクであるランド研究所がこの1月に発表した報告書「長い戦争を避ける(Avoiding a Long War)」がある。
全体に注意深い書き回しになっているが、筆者なりにメッセージを簡潔にまとめると以下のようになる。
- この戦争では、ロシアとウクライナの何れも決定的な勝利は収めることは出来そうもない。ゼレンスキー大統領はロシアを完全にウクライナから追い出すと言っているが、これも不可能だ。
- 戦争がエスカレーションし、ロシア対NATOの戦争になること、あるいは、核戦争が始まることが米国にとって最大のリスクである。
- いまのウクライナにとっては失地回復が最重要だが、米国の国益はこれとは異なるのだ。戦争が長引くことで米国・NATOの国力が削がれ、武器弾薬が不足し、中国などの敵対的な勢力への対応が弱体化することも重大なリスクになる。
- ウクライナの領土の一部がロシアの支配下に置かれつづけるのは止むを得ない。ウクライナでの戦争については、早めに交渉による解決を図るべきである。
「交渉」の内容としては、米国のなすべきこととして、ウクライナに対する今後の支援計画の明確化、ウクライナの安全保障に対するコミットメント、同国の中立性に関する保証、ロシアに対する制裁緩和の条件設定、の4点を挙げて論じている。
もちろん、力による現状変更を認めてはいけないといった国際法的、道徳的な問題はあり、これも重要ではある。しかし国益を守ることを冷静に考えれば、このようなディールが最善の判断になるのではないか。
このような分析は、中国と間近で対峙する日本にとって、もちろん他人事ではない。
■
『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。

関連記事
-
世界的なエネルギー危機を受けて、これまでCO2排出が多いとして攻撃されてきた石炭の復活が起きている。 ここ数日だけでも、続々とニュースが入ってくる。 インドは、2030年末までに石炭火力発電設備を約4分の1拡大する計画だ
-
2月の百貨店の売上高が11ヶ月振りにプラスになり、前年同期比1.1%増の4457億円になった。春節で来日した中国人を中心に外国人観光客の購入額が初めて150億円を超えたと報道されている。「爆買い」と呼ばれる中国人観光客の購入がなければ、売上高はプラスになっていなかったかもしれない。
-
鈴木達治郎 猿田佐世 [編] 岩波ブックレット 岩波書店/520円(本体) 「なぜ日本は使いもしないプルトニウムをため続けるのか」。 米国のエネルギー政策、原子力関係者に話を聞くと、この質問を筆者らは頻繁に受けるという。
-
前回、改正省エネ法やカーボンクレジット市場開設、東京都のとんでもない条例改正案などによって企業が炭素クレジットによるカーボンオフセットを強制される地盤ができつつあり、2023年がグリーンウォッシュ元年になるかもしれないこ
-
パリ気候協定への2035年の数値目標の提出期限は2月10日だったのだが、ほとんどの国が間に合っていない。期限に間に合った先進国は、米国、スイス、英国、ニュージーランドの4か国だけ。ただしこの米国は、バイデン政権が約束した
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 新しい政権が発足したが、エネルギー・環境関連では、相変わらず脱炭素・水素・アンモニア・メタネーション等、これまで筆者が散々こき下ろしてきた政策を推進する話題で持ちきりである。そ
-
これはもう戦争なのか 中華人民共和国政府は、東電福島第一原発から海に放流されたALPS処理水を汚染水と称し、日本産の生鮮海産物のみならず水産加工品の禁輸に踏み切った。それに加えて、24日の放流開始後から福島県や東北圏内の
-
権威ある医学誌The Lancet Planetary Healthに、気候変動による死亡率の調査結果が出た。大規模な国際研究チームが世界各地で2000~2019年の地球の平均気温と超過死亡の関連を調査した結果は、次の通
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間