電気代が高い理由は3つ:みんな「亡国のエコ」のせい

peeterv/iStock
電気代が高騰している。この理由は3つある。
反原発、再エネ推進、脱炭素だ。
【理由1】原子力の停止
原子力発電を運転すれば電気代は下がる。図1と表1は、原子力比率(=供給される全電力に占める原子力発電の割合)と家庭用電気料金の関係を示したもの。原子力比率の高い九州、関西は電気料金が低い。
反原発活動で知られる菅直人元首相は、首相退任後に原子力規制委員会ができたときに「すぐに原子力を動かせない仕組みを作った」と放言した。それから10年もたったが、いまだに、日本は多くの原子力を動かせないでいる。

図1
原子力比率は2021年度のもの。
データ出所は以下リンク(関西電力、四国電力、九州電力)。家庭用電気料金は日経新聞調べの標準家庭の規制料金(2023年6月)。

表1
原子力比率は2021年度のもの。
データ出所は以下リンク(関西電力、四国電力、九州電力)。家庭用電気料金は日経新聞調べの標準家庭の規制料金(2023年6月)。
【理由2】再エネの大量導入
太陽光発電などの再生可能エネルギーの大量導入によって電気代は上がった。図2は再生可能エネルギー賦課金の推移。2021年度を見ると、賦課金総額は2.7兆円だから一人あたり年間2万円、3人家族なら6万円になる。月額873円とあるのは年間約1万円でこれが平均的な家庭の直接の負担額。残り5万円は企業の負担になっていて、その分、物価が上がったり給料が減ったりしている。

図2 再生可能エネルギー賦課金の推移。政府資料
【理由3】天然ガスの高騰
欧州の脱炭素政策は大失敗した。脱炭素のためとして石炭利用を止め、天然ガス開発を止めた。ドイツは同時に脱原発までした。
欧州は風力発電を増やしたがこれでは足りず、天然ガスを筆頭にロシアのエネルギー頼みとなった。この足下をみたプーチンは欧州の経済制裁などたかが知れていると見てウクライナに侵攻した。欧州がエネルギーで脆弱性を作りだしたことが戦争を招く大きな要因になったのだ。
欧州は(プーチンの予想には反して)ロシアからのエネルギー購入を止めたが、代わりに世界中からエネルギーを買い漁って、天然ガス、石油、石炭の何れの価格も暴騰した。
過去数年、脱炭素のためとして、世界的に化石燃料の採掘事業が停滞していたことも、価格暴騰に大いに拍車をかけた。
この煽りで日本の主要な発電燃料である液化天然ガス(LNG)価格も高くなった。欧州(TTF)、東アジア(JKM)のスポット価格に比べればそれでも安いが、これは長期契約を結んでいたおかげで、じつは電力会社のファインプレーだ(図3)。

図3 データ出所はJOGMEC
以上のように、いまの電気代高騰は、反原発、再エネ推進、脱炭素といった、「エコな」政策のせいだ。これを変えない限り、また同じことが起きるのは必定だ。
最近、原子力政策には変化がみられる。しかし政府は相変わらず脱炭素、再エネ最優先に邁進している。電気代はどこまで上がるのだろうか。
■
『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。

関連記事
-
電気が足りません。 電力緊急事態 理由その1 寒波による電力需要増大 理由は二つ。 まず寒波で電力需要が伸びていること。この寒さですし、日本海側は雪が積もり、太陽光の多くが何日間も(何週間も)“戦力外”です。 こうしたk
-
先日、日本の原子力関連産業が集合する原産会議の年次大会が催され、そのうちの一つのセッションで次のようなスピーチをしてきた。官民の原子力コミュニティの住人が、原子力の必要性の陰に隠れて、福島事故がもたらした原因を真剣に究明せず、対策もおざなりのまま行動パターンがまるで変化せず、では原子力技術に対する信頼回復は望むべくもない、という内容だ。
-
福島第一原発事故を受けて、日本のエネルギー政策は混乱を続けている。そして、原発が争点になりそうな衆議院の解散総選挙が迫る。読者の皆さまに役立てるため、現状と主要政党のエネルギー政策を整理する。
-
1月29日、米国のシンクタンク National Centre for Energy Anlytics のマーク・ミルズ所長と元国際エネルギー機関(IEA)石油産業・市場課長のニール・アトキンソンの連名で「エネルギー妄想
-
3.11から7年が経過したが、我が国の原子力は相変わらずかつてない苦境に陥っており、とくに核燃料サイクルやバックエンド分野(再処理、プルトニウム利用、廃棄物処分など)では様々な困難に直面している。とりわけプルトニウム問題
-
事故確率やコスト、そしてCO2削減による気候変動対策まで、今や原発推進の理由は全て無理筋である。無理が通れば道理が引っ込むというものだ。以下にその具体的証拠を挙げる。
-
台風19号の被害は、14日までに全国で死者46人だという。気象庁が今回とほぼ同じ規模で同じコースだとして警戒を呼びかけていた1958年の狩野川台風の死者・行方不明は1269人。それに比べると台風の被害は劇的に減った。 こ
-
昨年12月にドバイで開催されたCOP28であるが、筆者も産業界のミッションの一員として現地に入り、国際交渉の様子をフォローしながら、会場内で行われた多くのイベントに出席・登壇しつつ、様々な国の産業界の方々と意見交換する機
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間