「再エネ100%」表示は環境表示ガイドラインに反する
前回、「再エネ100%で製造」という(非化石証書などの)表示が景品表示法で禁じられている優良誤認にあたるのではないかと指摘しました。景表法はいわばハードローであり、狭義の違反要件については専門家の判断が必要ですが、少なくとも法の精神には抵触しています。
一方で、ソフトローと言えるのが環境省発行の「環境報告ガイドライン」です。法律ではないので罰則等はありませんが、国が事業者向けに発行しているガイドラインですので当然順守しなければなりません。特にCSR・サステナビリティ部門や広報・広告部門の担当者は知らなかったでは済まされないのですが、昨今の脱炭素にかかわる表示の多くがガイドラインを順守していないように見受けられます。
最新版である「環境表示ガイドライン(平成25年3月版)」より以下抜粋します。
「表示」とは
景品表示法が規定する「事業者が製品やサービスを購入してもらうために、その内容や取引条件等について、消費者に知らせる広告や表示全般」「環境表示」とは
説明文やシンボルマーク、図表などを通じた製品又はサービスの環境主張
「環境ラベル」及び「宣言」が含まれる「環境表示ガイドライン」の適用範囲は
景品表示法の対象となる環境表示に加え、商品又は役務の取引に直接的な関係のない環境表示(事業活動、イメージ広告、企業姿勢等)も適用範囲に含む(環境表示ガイドラインP7)
環境表示は、製品やサービスが環境に配慮していることを示す環境ラベル等を用いた情報提供であり、いかなる情報も事業者等から提供されない限り、消費者は知ることができません。このため、事業者等は、製品やサービスの環境性能について確かな信頼性を確保した上で積極的に提供することが求められます。”
(環境表示ガイドラインP8)
「環境表示」は、製品に関する広告だけでなく、事業活動や企業イメージ、企業姿勢などを訴求する場合にも適用されます。日本政府による2050年カーボンニュートラル、2030年46%削減が打ち出されて以降、各社が訴求する脱炭素関連の表示や広告には一般消費者や顧客企業が誤認するような表現が目立つようになりました。今まさに、このガイドラインが策定された背景や目的を産業界全体が思い出さなければならないと感じます。
適切な環境表示の条件として、次に示す項目を満たすことが必要です。
- 根拠に基づく正確な情報であること
- 消費者に誤解を与えないものであること
- 環境表示の内容について検証できること
- あいまい又は抽象的でないこと
(環境表示ガイドラインP8)
前回も指摘した通り、「再エネ100%」という(非化石証書などの)表示を見て製品を選んだ購入者が、実際にはCO2を排出していたり強制労働やジェノサイドに加担させられていると知らなかった場合(この表示から知り得るはずがない)、購入時点で誤解を与えていたことになります。
h) 最終製品に関して真実であるだけでなく、一つの環境影響を減少させる過程で、他の環境影響を増大させる可能性があることを認識できるように、製品のライフサイクルにおける、関連する側面のすべてを考慮したものでなければならない。
備考:これは必ずしもライフサイクルアセスメントを実施するものであるという意味ではない。
最終製品のみに適用される環境主張ではなく、製品やサービスのライフサイクルを総合的かつ定量的に評価し、環境負荷の改善程度や優位性を判断した表示であることが必要です。この場合、一つの環境影響を減少させる過程で、他の環境影響を増大させる(トレードオフ)可能性があるため、ライフサイクル全体でトレードオフのないことを確認することが望ましく、特定のライフサイクルの段階で、環境負荷が低減できたことだけを誇張して主張することは不適切です。
(環境表示ガイドラインP15)
k) 表現上は真実である主張であっても、関係する事実を省略することによって、購入者が誤解するか又は誤解しやすいものであれば、これを行ってはならない
関連する事実の除外により誤解を招く表示としては、例えば、製品の一部分は環境負荷低減効果を有しているが、製品の他の部分が環境負荷をもっているような製品について、環境負荷低減効果を主張する際、他の部分がもたらす環境負荷を十分に説明していない場合に、問題となることが多くあります。例えば、特殊触媒をコーティングした自動車のラジエターが有害オゾンを無害化するといった広告は、車両の排気ガスに伴うNOx 等による大気汚染や CO2 の排出の影響を差し引いていない、車両全体としての効果を示しているものではないといった理由で、不適切であるといえます。
(環境表示ガイドラインP16)
「再エネ100%」表示は、自社の製造時しか言及しておらず、とても製品ライフサイクル全体を定量的に評価したものとは言えません。しかも、その自社の製造時ですら真実とは言えないため不適切な環境表示となります。
筆者は、時代遅れの古い規制を持ち出して重箱の隅を突っつこうという意図は全くありません。内容が古い点はあるにせよ、この「環境表示ガイドライン」は現在でも廃止されておらず生きています。消費者の誤解や誤認を招きかねない脱炭素表示が蔓延している今こそ、すべての企業がこのガイドラインを順守しなければならないと感じています。
(次回につづく)
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