脱炭素社会とはどういう社会、そしてESGは?

gremlin/iStock
WEF(世界経済フォーラム)や国連が主導し、我が国などでも目標としている「2050年脱炭素社会」は、一体どういう世界になるのだろうか?
脱炭素社会を表すキーワードとして、カーボンニュートラルやゼロ・エミッションなどがある。その号令の下、化石燃料の使用を減らす、使用しないなどが謳われ、バンカー筋も石炭や石油事業に対する設備投資を止めると宣ったり、それらの設備を座礁資産などと呼んだりしている。一方、太陽光や風力などの再生可能エネルギーには多額の投資を行っている。
将来訪れようとする脱炭素社会とは
歴史を技術とともに少し遡ってみよう。100年余り前、250を超える最先端の炭化水素処理技術や精製技術が発見された。その影響は現在まで及んでおり、地球上に住む80億の人々のために役立っていることがわかる。
現在石油から6,000以上もの製品がつくられ生活を豊かにしている。また、乳幼児死亡率を下げ、平均寿命を約40年から80歳以上に延ばし、飛行機、列車、船、自動車で世界のどこへでも移動できるようにし、天候による死亡をほぼゼロにしてきた。これらは1900年以前の社会には存在しなかったものである。
それから100年遡った1800年代には、脱炭素社会が存在しており、いまのような化石燃料製品が豊富にある時代とは異なっており、人々の生活も豊かではなく健康も保証されていなかった。
脱炭素社会の再来となると、化石燃料(石炭や石油など)の使用を極端に制限することになるため、その程度は社会環境によるが、200年以上前の世界が再来することになり、病気や栄養失調、天候による死者が何十億人発生する可能性も考えられる。
脱炭素化に向かうことは、人類の9%、国際貧困線以下で暮らす約7億人から、裕福で健康な国が当たり前に享受している製品と生活水準を奪う、あるいは遅らせることにもなる。つまり、化石燃料の生産と使用を止めれば、過去数世紀の間になされた進歩の多くを覆すことになる。
ESG推進者が理解していないこと
WEFや国連は、ESG(環境・社会・ガバナンス)の導入に邁進している。ESGを推進しようとする銀行や投資家たちが十分理解していないのは、化石燃料、とりわけ石炭や原油の主な用途は発電ではなく、経済や生活の存続と繁栄に必要なあらゆるものの原料となる誘導体や燃料の製造であるという現実である。
エネルギーだけを取ってみても、ここ数年、欧州をはじめとしてエネルギー危機が起きており、一旦、石炭火力を止めていた欧州各国も、そうしたプラントを再開して急場を凌いでいる。また、天然ガスをロシア以外の国から調達するために、新興国の経済に必要なエネルギー源まで奪おうとしており、なりふり構わぬ姿勢を世界に晒している。それでも頑なに、「これは緊急事態なので脱炭素の動きは継続させる」と主張する厚かましさだ。
間欠的で連続性のない風力や太陽光に依存している限り、「エネルギーは風の吹くまま、お天道様のご機嫌次第」、今回のようなエネルギー危機が、必ずや再来するであろう。
さらに、太陽光や風力は、電気を間欠的に発電するだけであり、石炭や原油を原料とする製品を作ることはできない。それでいて、ソーラーパネルや風力発電機の部品の大半は原油から作られる石油派生品で作られているため、自然エネルギーは原油なしでは成り立たないのである。
欧州のエネルギーの現実から、政治家、政策立案者、投資家、メディアなどは、脱炭素化が意味する影響の大きさを理解しなければならない。
無知が及ぼす影響
石炭や原油の利用や産業からの撤退が望ましいという無知が蔓延すると、取り返しのつかない損害を与えるだけでなく、それらを原料として作られる多くの製品の供給不足と価格高騰を消費者に与えることになる。
この運動を推進する銀行や投資家は、化石燃料から撤退することが温室効果ガス排出を削減できるとして、ウォール街ではESGを歓迎している。バイデン大統領と国連の両方が経済とエネルギー・インフラを再構築するための手段として、ESGについて投資界との共謀を支持しているとのこと。
化石燃料すべてから撤退するなら、その前に今日の社会と経済を維持するために、それに代わるものを探しておく必要があるのは論を待たない。
ESGこそ止めるべきとき
ESGの進展に伴い、銀行や投資家が、現代社会にとって不可欠な石炭や石油製品の特性を知らないことが露呈された。石炭や原油の使用を止めようとする努力は気候変動ではなく、当たり前に享受している製品と生活水準を奪う、あるいは遅らせることにもなるため、文明に対する最大の脅威である。
彼らは、自分たちの目的のために「進歩的な」経済やライフスタイルを再構築しようとしているが、これは極めて危険なものであり。一般の消費者は、このようなことを頼んだ覚えもなければ、それを許したこともない。従って、有用な化石燃料の利用を止めてしまうことは不道徳、無責任なことである。
ESGは大銀行と大手投資会社の癒着を進めるものでもあり、発展途上国の人々に、大きな欠乏とインフレとを与え、継続的で絶望的な貧困に晒すことにもなる。今こそ化石燃料の利用を禁じるのではなく、ESGを禁止する時が来ている。

関連記事
-
前稿で紹介した、石橋克彦著「リニア新幹線と南海トラフ巨大地震」(集英社新書1071G)と言う本は、多くの国民にとって有用と思える内容を含んでいるので、さらに詳しく紹介したい。 筆者は、この本から、単にリニア新幹線の危険性
-
あまり報道されていないが、CO2をゼロにするとか石炭火力を止めるとか交渉していたCOP26の期間中に中国は石炭を大増産して、石炭産出量が過去最大に達していた。中国政府が誇らしげに書いている(原文は中国語、邦訳は筆者)。
-
世界エネルギー機関(IEA)は毎年中国の石炭需要予測を発表している。その今年版が下図だ。中国の石炭消費は今後ほぼ横ばいで推移するとしている。 ところでこの予測、IEAは毎年出しているが、毎年「今後の伸びは鈍化する」と言い
-
石油がまもなく枯渇するという「ピークオイル」をとなえたアメリカの地質学者ハバートは、1956年に人類のエネルギー消費を「長い夜に燃やす1本のマッチ」にたとえた。人類が化石燃料を使い始めたのは産業革命以降の200年ぐらいで
-
アゴラチャンネルで池田信夫のVlog、「脱炭素で成長できるのか」を公開しました。 ☆★☆★ You Tube「アゴラチャンネル」のチャンネル登録をお願いします。 チャンネル登録すると、最新のアゴラチャンネルの投稿をいち早
-
福島第一原発事故による放射線被害はなく、被災者は帰宅を始めている。史上最大級の地震に直撃された事故が大惨事にならなかったのは幸いだが、この結果を喜んでいない人々がいる。事故の直後に「何万人も死ぬ」とか「3000万人が避難しろ」などと騒いだマスコミだ。
-
アメリカ議会では、民主党のオカシオ=コルテス下院議員などが発表した「グリーン・ニューディール」(GND)決議案が大きな論議を呼んでいる。2020年の大統領選挙の候補者に名乗りを上げた複数の議員が署名している。これはまだド
-
米国出張中にハンス・ロスリングの「ファクトフルネス」を手にとってみた。大変読みやすく、かつ面白い本である。 冒頭に以下の13の質問が出てくる。 世界の低所得国において初等教育を終えた女児の割合は?(20% B.40% C
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間