再生可能エネルギーのリサイクル問題、ドイツの現状

2022年12月06日 06:50
アバター画像
技術士事務所代表

muhammet sager/iStock

東京都や川崎市で、屋上に太陽光パネル設置義務化の話が進んでいる。都民や市民への事前の十分な説明もなく行政が事業を進めている感が否めない。関係者によるリスク評価はなされたのであろうか。僅かばかりのCO2を減らすために税金が使われようとしているが、国民の間で不公平感は生まれないのであろうか。また、パネルや部品の調達先など、多くの問題が指摘されている。課題の一つがパネルの廃棄処分である。

今回は、太陽光パネルを含め、再生可能エネルギー先進国であるドイツの現状を概説する。

補助金が終わり、太陽光パネル設備が解体・廃棄される

ドイツではエネルギー転換を加速し、2030年までに転換率を電力需要の80%まで拡大、2045年までに必要な電力をすべて再生可能エネルギーで賄おうとしている。再エネの中でも太陽光発電と風力発電の貢献度が高いといわれる。

ドイツにおける太陽光発電の普及はこの20年間で急激に進んだ。国内の発電設備容量は114メガワットから59,000メガワット近くまで増加した。現在、これら設備の多くは国の補助金の対象外となっている。技術的には運転できるのだが、大規模ソーラーパークを運営する事業者にとっては、もはや採算に合わない状態である。これから、毎年多くの設備が解体されていくことになり、多くのモジュールが撤去され、新しいモジュールに置き換えられたりする。

フラウンホーファー研究機構のシリコン太陽光発電研究センターによれば、「2002年に設置したものが2022年に撤去され回収される予定だが、今後の10年間で年間50万トンもの古いモジュールが蓄積される」ということだ。

リサイクルができず、貴重な原材料が失われる

ドイツ政府は電気電子機器法によって、太陽光発電システムのリサイクル率を80%以上と定めており、これはパネルを構成素材のうち、ガラスとアルミについては達成されている。

太陽電池(セル)は、プラスチックフィルムに封入されているため、機械的・化学的な分離が難しく熱処理は可能であるが、良質の排ガスフィルターが必要だという。シリコンや銀などの有価物の回収は、原理的には可能だが、経済的な理由から実用化されていない。

風力発電のリサイクル問題

ドイツの陸上風力タービンの数は、2001年から2021年の間に11,438基から28,230基へと倍増し、現在、累積設置容量は約57,000メガワットになった。20年前に建設された風力タービンのほとんどは、国の補助金がなくなるために、経済的に運転できなくなっている。

修理や保全、その他の費用が売電収入よりも高くなり、事業者はプラントの解体を迫られている。連邦環境庁は、今後10年間で、ローターブレードの廃棄物が年間最大20,000トン、2030年には年間50,000トンに達すると予想している。

同研究機構の風力システム研究所によれば、ローターブレードは、一体型設計で製造された強化プラスチックで作られているので、原理的に複合材料を分離することは可能でも、まったく経済的ではないという。

当初、企業は、解体された風力タービンの最大80%をリサイクルできると宣伝していた。しかし、現在でも循環経済は確立されていない。実際にリサイクルされているのは、スチールなどの金属のみで、ネオジムなどの貴重なレアメタルを含む発電機の磁石でさえ、リサイクルできていない。

また、コンクリート支柱は粉砕される利用されているが、品質が良くないため、路盤材などの用途に限定される。コンクリートの基礎部分は、そのまま地面に放置されたままである。さらに、SF6など、廃棄が困難な有害物質も排出される。

膨大な廃棄物の山ができる

業界は何年も前から「100%リサイクル可能な工場を建設する」と言い続けてきた。しかし、太陽光や風力発電設備のリサイクル・プラントは実現されていない。

両設備とも、製造時に消費したエネルギーより多くのエネルギーを生み出すことはできるが、設備の寿命が来れば、残るのは、リサイクルできない巨大なゴミの山である。

我が国の太陽光パネルの廃棄物・リサイクル問題

太陽光パネルは、25~30年で劣化し廃棄される。2012年導入された固定価格買取制度(FIT)が2032年には20年の期限を迎え、廃棄パネルが急増するといわれている。環境省リサイクル推進室の推計によれば、2015年の2,351トンから2040年は80万トンになるという。

太陽光パネルは鉛、カドミウム、セレンなどの有害物質を含んでいるため、産業廃棄物として処理される。また、太陽光パネルのリサイクル事業も始まっており、架台のスチールやレールのアルミ、パネルに使用されているガラスなどは再利用されている。その他の多くは「埋め立て廃棄」であり、今後埋め立て処分場の残余容量は不足し、廃棄パネル問題が深刻化するのは必至である。

政府の補助金(原資:再エネ賦課金など)を所与のものとして運営される再生可能エネルギーの横展開、「金の切れ目が縁の切れ目」で、廃棄パネルが山積みされるという事態に陥らないよう、設置義務化という拙速な事業の見直しを含め、将来のリスクを見通した十分な検討が必要である。

This page as PDF

関連記事

  • 改正された原子炉等規制法では、既存の原発に新基準を適用する「バックフィット」が導入されたが、これは憲法の禁じる法の遡及適用になる可能性があり、運用には慎重な配慮が必要である。ところが原子力規制委員会は「田中私案」と称するメモで、すべての原発に一律にバックフィットを強制したため、全国の原発が長期にわたって停止されている。法的には、安全基準への適合は運転再開の条件ではないので、これは違法な行政指導である。混乱を避けるためには田中私案を撤回し、新たに法令にもとづいて規制手順を決める必要がある。
  • 6月22日、米国のバイデン大統領は連邦議会に対して、需要が高まる夏場の3か月間、連邦ガソリン・軽油税を免除する(税に夏休みをあたえる)ように要請した。筆者が以前、本サイトに投稿したように、これはマイナスのカーボンプライス
  • 影の実力者、仙谷由人氏が要職をつとめた民主党政権。震災後の菅政権迷走の舞台裏を赤裸々に仙谷氏自身が暴露した。福島第一原発事故後の東電処理をめぐる様々な思惑の交錯、脱原発の政治運動化に挑んだ菅元首相らとの党内攻防、大飯原発再稼働の真相など、前政権下での国民不在のエネルギー政策決定のパワーゲームが白日の下にさらされる。
  • 2014年12月4日、東商ホール(東京・千代田区)で、原子力国民会議とエネルギーと経済・環境を考える会が主催する、第2回原子力国民会議・東京大会が、約550名の参加を得て開催された。
  • 日本国内の報道やニュースクリップ等々を見ると、多くの人は気候変動対策・脱炭素は今や世界の常識と化しているような気になってしまうだろう。実際には、気候変動対策に前のめりなのは国連機関・英米とそれに追随するG7各国くらいで、
  • 日本政府は第7次エネルギー基本計画の改定作業に着手した。 2050年のCO2ゼロを目指し、2040年のCO2目標や電源構成などを議論するという。 いま日本政府は再エネ最優先を掲げているが、このまま2040年に向けて太陽光
  • 高まる国際競争力への懸念欧州各国がエネルギーコストに神経を尖らせているもう一つの理由は、シェールガス革命に沸く米国とのエネルギーコスト差、国際競争力格差の広がりである。IEAの2013年版の「世界エネルギー展望」によれば、2012年時点で欧州のガス輸入価格は米国の国内ガス価格の4倍以上、電力料金は米国の2-2.5倍になっており、このままでは欧州から米国への産業移転が生ずるのではないかとの懸念が高まっている。
  • 政府のエネルギー基本計画はこの夏にも決まるが、その骨子案が出た。基本的には現在の基本計画を踏襲しているが、その中身はエネルギー情勢懇談会の提言にそったものだ。ここでは脱炭素社会が目標として打ち出され、再生可能エネルギーが

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑