中国製メガソーラーは製造時のCO2回収に10年かかる

Michael Piepgras/iStock
以前、カリフォルニアで設置される太陽光パネルは、石炭火力が発電の主力の中国で製造しているので、10年使わないとCO2削減にならない、という記事を書いた。
今回は、中国で製造した太陽光パネルが日本に設置されるとどうなるか、計算した結果を紹介しよう。(詳しい計算は、別途研究ノートにまとめたので参照されたい。)

表1 メガワットあたりのCO2収支計算
以下、太陽光発電容量1メガワットあたりで全て計算する。
- まず住宅用の場合、製造時に2190トンのCO2が発生する。これを使用することで、年間531トンのCO2が削減できる。すると4.1年で製造時のCO2が回収できることになる。なおここで削減できる電力のCO2排出係数は2020年の値である0.441kg-CO2/kWhを用いた。
- 次にメガソーラーの場合、製造時に3070トンのCO2が発生する。これを使用することで、年間662トンのCO2が削減できる。他方でメガソーラーは森林破壊をすることがある。ここでは1メガワットで2ヘクタールの森林が破壊されると考える。森林は1ヘクタール当たり302トンのCO2を蓄えており、毎年8.8トンのCO2を吸収するもの。製造時のCO2と森林破壊の両者を考慮すると、建設時のCO2を回収するのに5.7年かかる計算になる。
- 以上で電力排出係数として2020年の値を用いてきた。だが2030年の電源構成ではどうなるか。政府の計画値である250kg-CO2/kWhを用いて計算すると、CO2の回収にかかる年数は、住宅用で7.3年、メガソーラーでは10.1年になる。
つまり、中国製のソーラーパネルを使用すると(いまの世界のソーラーパネルのほとんどは中国製だ)、太陽光発電の建設時までのCO2排出量は多く、太陽光発電によってCO2を削減して取り返すためには、住宅用で7年、メガソーラーでは10年もかかるという計算結果になった。
以上の計算は概算であり、詰めるべきところは沢山ある。だがはっきり言えることは、パネル製造や森林破壊などによって建設時までに発生するCO2排出量をきちんと予測し、明示すべきだ、ということだ。
- 住宅用であれば、設置する事業者がその責を負うべきである。
- メガソーラーであれば、個々の発電所について、事業者が義務を負うべきである。
その上で、事業の妥当性を検討すべきだ。
もちろん、政府の太陽光発電支援策についても、建設時のCO2排出量を考慮して、今一度見直すべきである。
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