COP27はバイデンの降伏だったと報じる米国の社説
米国はメディアも民主党と共和党で真っ二つだ。民主党はCNNを信頼してFOXニュースなどを否定するが、共和党は真逆で、CNNは最も信用できないメディアだとする。日本の報道はだいたいCNNなど民主党系メディアの垂れ流しが多い。
民主党は気候危機でグリーンディール(米国で脱炭素のことをこう言う)が必要だとするが、共和党は気候危機説を信じないし、グリーンディールは「愚か」であると否定している。
その共和党によく信頼されている新聞にウォール・ストリート・ジャーナルがある。

バイデン大統領
公式Twitterより
今回エジプトで開催されたCOP27について、日本では「途上国支援の基金が合意された、画期的だ」、などとする報道が多いが、これは米国民主党寄りのメディアと全く同じだ。
ウォール・ストリート・ジャーナルの社説は論調が全く違う。以下にポイントを紹介しよう。
「バイデン、気候変動への賠償に署名」(2022年11月20日付ウォール・ストリート・ジャーナル社説)
- アメリカ人を苦しめるための気候政策の利用は、ますます悪化している。エジプトで開催された国連の気候変動会議は、貧しい国々に賠償金を支払うための新しい基金について合意し、この週末に終了した。
- 米国の気候変動特使であるジョン・ケリー氏は、今月初め、この基金というアイデアを却下した。「米国や他の多くの国々が、補償や責任に結びつく何らかの法的構造を受け付けないことは、よく知られた事実です。それはありえないことだ」。しかし、木曜日にヨーロッパは協定を提案することで米国を見捨て、ケリー氏も慌てて同調した。
- 中国のCO2排出量は、ヨーロッパとアメリカを合わせた量の3分の2以上である。中国の発電量の60%は石炭火力で占められており、2025年までに承認予定の新規石炭火力発電所は、米国の既存発電所の全数を上回る。中国は、エネルギー安全保障のためにさらなる石炭火力が必要であり、欧米とは異なり、気候変動による自殺はしないと言っている。
- 米国バイデン政権とヨーロッパは、CO2レベルの上昇と今年のパキスタンのモンスーン洪水のような自然災害との間にははっきりした因果関係は無いにもかかわらず、自分たちの排出が損害を与えるということを原則として認めてしまっている。
- これらはすべて、資本主義による経済成長がもたらした人類への恩恵を無視したものだ。米国の納税者は、米国が最初に工業化し、その後投資と貿易によって何十億人もの人々を貧困から救ったことを理由に、支払いを要求されているのだ。
- 下院の共和党はこの基金に資金を割り当てないだろうが、バイデン政権は米国が出資している国際開発銀行を利用することができる。今後、また民主党が議会を支配したら、インフレ抑制法の気候変動対策費がパリの公約を達成するために必要だと主張したように、米国には賠償金を支払う義務があると主張するだろう。
- バイデン政権の降伏は、気候変動という宗教が、豊かであることの罪に対する「進歩的な懺悔」であることを改めて示している。
筆者がCOP27会期中と会期後に書いた記事と論調がほぼ同じだ。
COP27での「基金」への合意は、共和党にとっては絶対に受け入れられないとんでもない話だった。その共和党が下院で多数を占める米国が、この基金にお金を出すことはありえない。日本はいったいどうするのか?
■
『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。

関連記事
-
以前紹介したスティーブン・クーニン著の「Unsettled」の待望の邦訳が出た。筆者が解説を書いたので、その一部を抜粋して紹介しよう。 スティーブン・クーニンは輝かしい経歴の持ち主で、間違いなく米国を代表する科学者の1人
-
「原発、国民的合意を作れるか? — 学生シンポジウムから見たエネルギーの可能性」を GEPR編集部は提供します。日本エネルギー会議が主催した大学生によるシンポジウムの報告です。
-
福島第一原子力発電所の事故処理、特にその技術的課題に世間の耳目が集まる一方、その地域に住む人々の暮らしについては見過ごされがちである。しかし私には、事故を起こした原子力発電所とともに生きた経験がある。
-
先日、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)、エネルギー研究機関ネットワーク(ERIN)、フィリピンエネルギー省共催の東アジアエネルギーフォーラムに参加する機会を得た。近年、欧米のエネルギー関連セミナーでは温暖
-
東日本大震災と原発事故災害に伴う放射能汚染の問題は、真に国際的な問題の一つである。各国政府や国際機関に放射線をめぐる規制措置を勧告する民間団体である国際放射線防護委員会(ICRP)は、今回の原発事故の推移に重大な関心を持って見守り、時機を見て必要な勧告を行ってきた。本稿ではこの間の経緯を振り返りつつ、特に2012年2月25-26日に福島県伊達市で行われた第2回ICRPダイアログセミナーの概要と結論・勧告の方向性について紹介したい。
-
台風19号の被害は、14日までに全国で死者46人だという。気象庁が今回とほぼ同じ規模で同じコースだとして警戒を呼びかけていた1958年の狩野川台風の死者・行方不明は1269人。それに比べると台風の被害は劇的に減った。 こ
-
国境調整炭素税を提唱したフォンデアライエン次期欧州委員長 先般、次期欧州委員長に選出されたフォンデアライエン氏は今後5年間の政策パッケージ案において6つの柱(欧州グリーンディール、人々のために機能する経済、デジタル時代へ
-
前回の投稿においてG20エネルギー移行大臣会合の合意失敗について取り上げたが、その直後、7月28日にチェンナイで開催されたG20環境・気候・持続可能大臣会合においても共同声明を採択できす、議長サマリーを発出して終了した。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間