どこまで上がる?日本のエネルギーコスト

2022年10月04日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

Daniele Mezzadri/iStock

世界的なエネルギー価格の暴騰が続いている。特に欧州は大変な状況で、イギリス政府は25兆円ドイツ政府は28兆円の光熱費高騰対策を打ち出した。

日本でも光熱費高騰対策を強化すると岸田首相の発言があった。

ところで日本の電気代総額は幾らなのか、ある会社の方に聞いてみたら、「知らない」とのこと。そんな筈がないと思ったが、電力市場自由化して以来、企業には分からないそうだ。政府内部には数字はあるらしいが、公表されていないとのこと。「憶測だが」、と前置きした上で、「高騰していることがバレてしまうから、公表したがらないのではないか」との氏の見解。

何てこった。総額も知らずに、補助金やらカーボンプライシングやらの政策を議論するなど、速度メーターも無しに車を運転しているようなものだ。政府においては、毎月エネルギーコストを公表するようにして欲しい。

ところで、政府ではないが、慶応大学産業研究所の野村浩二教授がデータの公表を始めてくれた。

図 日本のエネルギーコストの推移
データは慶応大学産業研究所野村浩二教授による

これを見ると、日本のエネルギーコストは鰻登り中であり、電力コストも例外ではない。2022年8月には、全エネルギーで4.3兆円、うち電力は2.1兆円だった。

日本企業は安定供給を重視して天然ガスや石炭を長期契約で買ってきたし、また電源を多様化してきたために、いまのところ欧州のような酷い価格高騰にはなっていない。このことはじつは電気事業者やガス事業者のファインプレーなのだが、あまり褒めてくれる人がいないのは残念だ。

しかし今後は、長期契約も切れてくるし、小売り料金改定の度に価格高騰の波が押し寄せてくると予想される。

どのような対策が必要か。それを議論するためには、エネルギーコストのリアルタイムな情報把握が欠かせない。

野村教授は、これから毎月末にこのデータを更新する予定と伺っている。要注目である。

キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。

 

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 政府のエネルギー基本計画について、アゴラ研究所の池田信夫所長がコメントを示しています。内容が、世論からの批判を怖れ、あいまいであることを批判しています。
  • この原稿はロジャー・ピールケ・ジュニア記事の許可を得た筆者による邦訳です。 欧州の天然ガスを全て代替するには、どれだけの原子力が必要なのか。計算すると、規模は大きいけれども、実行は可能だと分かる。 図は、原子力発電と天然
  • 東芝の損失は2月14日に正式に発表されるが、日経新聞などのメディアは「最大7000億円」と報じている。その原因は、東芝の子会社ウェスティングハウスが原発建設会社S&Wを買収したことだというが、当初「のれん代(買収
  • 以前にも書いたことであるが、科学・技術が大きく進歩した現代社会の中で、特に科学・技術が強く関与する政策に意見を述べることは、簡単でない。その分野の基本的な知識が要るだけでなく、最新の情報を仕入れる「知識のアップデート」も
  • 本レポートには重要な情報がグラフで示されている。太陽光・風力の設備量(kW)がその国の平均需要量(kW)の1.5倍近くまで増えても、バックアップ電源は従来通り必要であり、在来型電源は太陽光・風力に代替されることもなく、従来通りに残っていることである。
  • 環境(E)・社会(S)・企業ガバナンス(G)に配慮するというESG金融が流行っている。どこの投資ファンドでもESG投資が花ざかりだ。 もっともESG投資といっても、実態はCO2の一部に偏重しているうえ、本当に環境に優しい
  • GEPRの運営母体であるアゴラ研究所は映像コンテンツである「アゴラチャンネル」を提供しています。4月12日、国際環境経済研究所(IEEI)理事・主席研究員の竹内純子(たけうち・すみこ)さんを招き、アゴラ研究所の池田信夫所長との対談「忘れてはいませんか?温暖化問題--何も決まらない現実」を放送しました。 現状の対策を整理し、何ができるかを語り合いました。議論で確認されたのは、温暖化問題では「地球を守れ」などの感情論が先行。もちろんそれは大切ですが、冷静な対策の検証と合意の集積が必要ではないかという結論になりました。そして温暖化問題に向き合う場合には、原子力は対策での選択肢の一つとして考えざるを得ない状況です。
  • 太陽光や風力など、再生可能エネルギー(以下再エネ)を国の定めた価格で買い取る「固定価格買取制度」(FIT)が7月に始まり、政府の振興策が本格化している。福島原発事故の後で「脱原発」の手段として再エネには全国民の期待が集まる。一方で早急な振興策やFITによって国民負担が増える懸念も根強い。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑