地球温暖化運動:ジェームズ・ラブロック氏が遺した言葉
英国の環境科学者で地球を1つの生命体とみなす『ガイア理論』を提唱したジェームズ・ラブロック氏が103歳で亡くなってから、間もなく2ヶ月になろうとしている。

ガイア仮説で知られる科学者・作家のジェームズ・ラブロック氏。写真は2005年。
出典:Wikipedia
CNNは次のように報じた。
ラブロック氏は科学界に多大な功績を残した。中でも地球を1つのモデルとみなし、生物と非生物が互いに作用し合って1つの生命体として欠かせない複合的な仕組みを形成していると説いた『ガイア理論』は大きな影響を与えた。
ネイチャー誌は次のように紹介した。
環境科学におけるラブロック氏のほとんど比類のない影響力は、物事を見る独自の方法に基づいている。謙虚で頑固、魅力的で先見の明があり、誇り高く寛大な彼のガイアに関する考えは、生物学の概念に変化をもたらした。
一方、KYODOは、「環境科学者J・ラブロック氏死去 地球温暖化の脅威強く訴える」というヘッドラインで訃報を報じたが、読者に間違った情報を与えてしまう記事になっている。そこで、ラブロック氏の発言を拾い集め、整理してみた。
温暖化論者から批判者へ
2006年当時、ラブロック氏は、熱心な人為的地球温暖化論者であり、恐ろしい気候シナリオを推進していた。地球が病的な熱病にかかり60億人が滅亡するとも予測していた。
2010年以降、ラブロック氏は立場を逆転させ、発言を変えていった。
かつて私は気候変動について警戒論者だった。そして現在(2012年)、人為的な地球温暖化論に対する声高な批判者となった。問題は、私たちが気候はどうなっているのかを知らないことだ。20年前、傲慢にも分かっていたと思っていたのだ。私たちは、気候変動のような複雑な状況に対応できるほどには進化していない。
また、「石炭や石油による温室効果ガスの排出を減らすためには原子力発電所を建設すべきだ」と発言して、環境活動家と対立することもあったようだ。原子力には期待されていたとのこと。
謙虚で頑固で先見の明があったラブロック氏、色々な場面で直截的な発言をしている。
NBCニュースでは、
気候はいつものように変化している。まだ、大した問題は起きていない。本当だったら、半分くらいは焼け野原になっていてもよいはずなのに。ミレニアム以降、世界はあまり暖かくなっていない。12年というのは、事の判断をするのに妥当な時間だ。CO2は間違いなく上昇している。気温も上昇するはずなのに、ほぼ一定に留まっている。気候変動は起こっているが、その影響は以前考えていたよりもずっと先の未来のことだろう。
また、BBCのインタビューで、国連やIPCCを含む地球温暖化の主張について、厳しい見方を示した。
彼らはただ推測しているだけ、しかもグループ全体で集まり互いの推測を励まし合っている。IPCCの最後の報告書は、私が8年ほど前に出版した 『ガイアの復讐』の内容と非常によく似ている。まるでコピーしたかのようだ。
ラブロック語録
- 「気候アラーム論」は科学的とは言い難く、非常に単純化した議論をしている。この気候システムは非常に複雑で慣性力があり、直ぐに温暖化が解消するわけもない。また、海洋の熱容量が大気や地表の1000倍大きいことも忘れてはならない。人類が地球温暖化に影響を与えているといっても、火山の噴火などがより大きな影響を与えるかもしれない。
- 「地球温暖化推進派」は「どんどん地球は暑くなる」と言っているが、本当のところはわからない。気候モデルは、モデルを設定してデータを入力すれば、計算結果が出てくるプロセスであり、そこに意図の介在する余地がある。火山の噴火一つでモデルの条件も変わってしまう。コンピューターモデルには信頼できない点もあるため、その予測には懐疑的になる必要がある。5年から10年以上を予測しようとする人は、阿保たれではなかろうか。自然の営みは何でもありで、想定しない事が沢山起きるのだから。
- 「環境保護主義」については愕然としている。CO2は増加しているが、彼らが考えていたほどの速度ではない。CO2の排出を減らそうと、巨額の資金が風力や太陽光などの再生可能エネルギーに浪費されている。後悔すべきことだ。その多くは醜く、絶望的かつ非現実的であり、英国の景観に緑の悪魔的変化をもたらすおそれがある。この気候変動の運動はどこか狂っている。
- 「地球を救う」と言っている人がいる。40億年前から地球はずっと住みやすく、多くの生物が生息している。海流が違った方向に動けば寒くなる。私たちの心配することではない。
- 今や、地球温暖化運動という「緑の宗教」がキリスト教を継承している。グリーン派には、宗教が使うような用語が沢山入っている。罪悪感を利用するのは、キリスト教の悪い面での古きよき残り香だ。それは問題を解決する良い方法とは言えない。
- 気候の崩壊は、私たちが人間として、すべての生命と関わり合う中で築き上げてきたシステム、それも有害なシステムの「宿痾」のようなものだ。特に、「600年にわたる植民地主義」により、ヨーロッパ文明が残酷さと暴力とともに世界中に広まった。その根は深くもっと前に遡る。
また、ラブロック氏は、「気候変動が心配ならシンガポールを見て欲しい。最悪のシナリオより気温上昇が2.5倍も高いのに、世界でもっとも住みたい都市の一つである」とも語っていた。
蛇足ですが...
現在、世界人口は80億に近づいている。その40%を中国、インド、ロシアが占めており、彼らは「反化石燃料アジェンダ」には反対の立場を取っている。それに、ブラジルやインドネシア、アフリカ諸国を合計すると、世界の半数が極端な気候変動運動には反対していることになる。
我が国も「鴻鵠」たるラブロック氏の思いを受け止め、政治的な問題は色々あるだろうが、こうした各国と連携を取りながら、新機軸を打ち出してみてはいかがだろうか。その中に我が国が誇るべき先進的火力発電技術を含めれば、当初のエネルギー政策にも合致する。

関連記事
-
米国では発送電分離による電力自由化が進展している上に、スマートメーターやデマンドレスポンスの技術が普及するなどスマートグリッド化が進展しており、それに比べると日本の電力システムは立ち遅れている、あるいは日本では電力会社がガラバゴス的な電力システムを作りあげているなどの報道をよく耳にする。しかし米国内の事情通に聞くと、必ずしもそうではないようだ。実際のところはどうなのだろうか。今回は米国在住の若手電気系エンジニアからの報告を掲載する。
-
以前、カリフォルニアで設置される太陽光パネルは、石炭火力が発電の主力の中国で製造しているので、10年使わないとCO2削減にならない、という記事を書いた。 今回は、中国で製造した太陽光パネルが日本に設置されるとどうなるか、
-
東京大学公共政策大学院教授の関啓一郎氏に、「電力・通信融合:E&Cの時代へ — 通信は電力市場へ、電力は通信融合に攻め込めもう!」というコラムを寄稿いただきました。関教授は、総務官僚として日本の情報通信の自由化や政策作成にかかわったあとに、学会に転身しました。
-
エネルギー政策をどのようにするのか、政府機関から政策提言が行われています。私たちが問題を適切に考えるために、必要な情報をGEPRは提供します。
-
提携するIEEIが9月、年末のCOP21を目指して提言書をまとめました。その冒頭部分を紹介します。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。
-
ロシア軍のウクライナ攻撃を「侵攻」という言葉で表現するのはおかしい。これは一方的な「武力による主権侵害」で、どうみても国際法上の侵略(aggression)である。侵攻という言葉は、昔の教科書問題のときできた言い換えで、
-
【要旨】日本で7月から始まる再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の太陽光発電の買取価格の1kWh=42円は国際価格に比べて割高で、バブルを誘発する可能性がある。安価な中国製品が流入して産業振興にも役立たず、制度そのものが疑問。実施する場合でも、1・内外価格差を是正する買取価格まで頻繁な切り下げの実施、2・太陽光パネル価格と発電の価格データの蓄積、3・費用負担見直しの透明性向上という制度上の工夫でバブルを避ける必要がある。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間