欧州の金属産業がエネルギー暴騰で存亡の危機

2022年09月14日 06:50
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

欧州の非鉄金属産業のCEO47名は、欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長、欧州議会のロベルタ・メッツォーラ議長、欧州理事会のチャールズ・ミシェル議長に宛てて、深刻化する欧州のエネルギー危機「存亡の危機」について警鐘を鳴らすための書簡を送った(関連記事書簡)。

CEOたちは、業界がすでに昨年、エネルギー暴騰によって膨大な減産を余儀なくされたことを強調した。EUのアルミニウムと亜鉛の生産能力の50%が停止した。シリコンと合金鉄の生産が大幅に削減された。銅とニッケル産業にも影響が及んだ。

herraez/iStock

同書簡には、非鉄金属産業の閉鎖・縮小の詳細なリストも掲載されている。

CEOたちは欧州理事会に対し、補助金、エネルギー価格上限設定、排出権取引制度による炭素コストの最小化など、あらゆる支援策を取るよう要求している。

同書簡によれば、非鉄金属産業(アルミニウム、銅、ニッケル、亜鉛、シリコンなど)における電力コストのシェアは元々高く、通常の電力価格条件下において、生産コスト全体の40%に上っていたとされている。

域内での生産減少のため、欧州は域外からの輸入を余儀なくされている。亜鉛は中国から輸入しているが、中国での生産は、ヨーロッパの亜鉛生産に比べ炭素集約度が2.5倍だという。これはアルミニウムの場合は2.8倍、シリコンの場合は3.8倍とされる。

手塚氏の記事「ドイツ産業の皆さん、日本へようこそ」で解説されていたように、欧州、なかんずくドイツの産業は、ロシアからのパイプラインによる安価なガスとそれを利用した安価な電力によって繁栄を享受してきた。

今回のエネルギー危機を政府の救済によって何とか乗り越えたとしても、もう安いエネルギーの時代は終わっている。欧州は構造的な高エネルギー価格体質になってしまった。

日本の非鉄金属産業は、1973年のオイルショック以来、海外に比べて高いエネルギーコストに耐えられず、空洞化してしまった。アルミニウム精錬業は日本に存在しなくなった。

今後、欧州で非鉄金属産業が存続するためには、政府の手厚い支援を続けるほかない。だが未来永劫それを続けることには無理があるだろう。また欧州の脱炭素の方針も足かせだ。

他にも、肥料産業、ガラス産業なども危機的状況が伝えられている。ドイツをはじめとした欧州のエネルギー集約産業は、壊滅してしまうのだろうか。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 10月最終週に「朝まで生テレビ」に出た(その日は直前収録だったが)。原発政策がそのテーマだったが、自分の印象では、そのほとんどの時間が東京電力の法的整理論に関する議論に費やされたような気がする。出演者の方々のほとんどが法的整理に賛成で、私一人が消極的意見を述べ、周りから集中砲火を浴びた。
  • 福島第一原子力発電所の処理水を海洋放出することについて、マスコミがリスクを過大に宣伝して反対を煽っているが、冷静に考えてみれば、この海洋放出は実質無害であることが分かる。 例えば、中国産の海産物を例にとってみてみよう。
  • 米国の商業用電力消費の動向 さる6月末に、米国のエネルギー情報局(EIA)が興味深いレポートを公表した※1)。米国で2019年から23年の4年間の商業用電力消費がどの州で拡大し、どの州で減少したかを分析したものである。ち
  • 未来の電力システムの根幹を担う「スマートメーター」。電力の使用情報を通信によって伝えてスマートグリッド(賢い電力網)を機能させ、需給調整や電力自由化に役立てるなど、さまざまな用途が期待されている。国の意向を受けて東京電力はそれを今年度300万台、今後5年で1700万台も大量発注することを計画している。世界で類例のない規模で、適切に行えれば、日本は世界に先駆けてスマートグリッドを使った電力供給システムを作り出すことができる。(東京電力ホームページ)
  • 国際エネルギー機関(IEA)は、毎年、主要国の電源別発電電力量を発表している。この2008年実績から、いくつかの主要国を抜粋してまとめたのが下の図だ。現在、日本人の多くが「できれば避けたいと思っている」であろう順に、下から、原子力、石炭、石油、天然ガス、水力、その他(風力、太陽光発電等)とした。また、“先進国”と“途上国”に分けたうえで、それぞれ原子力発電と石炭火力発電を加算し、依存度の高い順に左から並べた。
  • 高浜3・4号機の再稼動差し止めを求める仮処分申請で、きのう福井地裁は差し止めを認める命令を出したが、関西電力はただちに不服申し立てを行なう方針を表明した。昨年12月の申し立てから1度も実質審理をしないで決定を出した樋口英明裁判官は、4月の異動で名古屋家裁に左遷されたので、即時抗告を担当するのは別の裁判官である。
  • サプライヤーへの脱炭素要請は優越的地位の濫用にあたらないか? 企業の脱炭素に向けた取り組みが、自社の企業行動指針に反する可能性があります。2回に分けて述べます。 2050年脱炭素や2030年CO2半減を宣言する日本企業が
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 前回の論点㉒に続いて「政策決定者向け要約」を読む。 冒頭

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑