米国21州で金融機関を標的とする反ESG運動、さて日本は?
ESG投資について、経産省のサイトでは、『機関投資家を中心に、企業経営の持続可能性を評価するという概念が普及し、気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや企業の新たな収益創出の機会を評価するベンチマークとして、SDGsと合わせて注目されている。日本においても、国連責任投資原則に日本の年金積立金管理運用独立行政法人が2015年に署名したことを受け、ESG投資が広がっている』と説明する。
世界経済フォーラムや国連が主導する「SDGs」や「ESG」に対して、我が国では経済誌やテレビ番組などで特集が組まれてきた。SDGsのピンバッチを付けている企業トップを見ることも多い。国を挙げて取り組んでいるような印象さえ受ける。
「我が国でもESG投資が広がっている」と書かれているが、最近の米国のニュースを見ると、両国の間で事情はかなり違っているようだ。
8月16日、米国21州の検事総長が証券取引委員会(SEC)に対し、ESGの開示に関する規則案に反対する書簡を送った。SECが最近発表した炭素の開示を義務付ける規則と類似していることを指摘し、「深い問題がある」とした。
8月23日、フロリダ州のデサンティス知事が、同州のファンドマネージャーに対して、ESGの投資を一掃するよう要請した。
8月24日、テキサス州は、化石燃料に関わるエネルギー企業をボイコットしているとされる金融企業10社と350近いファンドのリストを公表した。前年6月に可決された州上院法案13号は、多くの州政府機関に対して、ESGを主導する企業やファンドからの融資の引き上げを義務付けている。
州上院法案13号の法案可決後、ダン・パトリック副知事が声明を発表した。
石油・ガス産業はテキサス経済の礎の一つであり、勤勉なテキサス市民に何百万もの雇用を提供している。本日、上院法案13を可決したことで、テキサス州上院は、石油・ガス産業労働者とこれらの雇用創出企業の双方を支持することを明確にした。もしウォール街がテキサスと繁栄する石油・ガス産業に背を向けるなら、テキサスはウォール街と取引しないであろう。この重要な法案を可決したバードウェル上院議員に祝意を表する。
このリストで閲覧できる上場企業10社は、ブラックロック、BNPパリバス、クレジット・スイスグループ、UBS グループなどである。
ブラックロックの広報担当者は、テキサス州の決定を受けて、8月24日にメディア向け声明で、「これは事実に基づいていない。同州のエネルギー企業に投資している顧客の資金は1000億ドル以上である」と反論した。
350の上場ファンドには、ESGのパイオニアであるパルナサスの提供するファンドのほか、UBS、バンガードなどの著名なファンドが含まれている。
冒頭に掲げた経産省のお題目とは、随分違った動きが米国では起きている。テキサス州会計監査官が、リストを公表した理由を説明した。
ESG運動は、一部の金融会社が、もはや株主や顧客の最善の利益のために意思決定を行うのではなく、秘密に包まれた社会的・政治的課題を推進するためにその資金力を利用するという、不透明で倒錯したシステムを生み出している。
一方、法律の抜け穴を指摘し、州法の成功の可能性について懐疑的だという専門家もいる。
8月24日、テキサス州の動きを受けて、ウェストバージニア(WV)州財務長官は、米国のエネルギー産業を破壊しようとするESG過激派に対して、テキサス州が決定的な行動を取ったことを称賛した。
その財務長官は、前年11月、「米国では、金融機関によって、伝統的なエネルギー産業が経済的にボイコットされようとしている」という旨の書簡を銀行業界に送った。WVと他14州が連携、その書簡に署名をした。
その14州とは、アラバマ、アリゾナ、アーカンソー、アイダホ、ケンタッキー、ルイジアナ、ミズーリ、ネブラスカ、ノースダコタ、サウスカロライナ、サウスダコタ、テキサス、ユタ、ワイオミングである。
一般的に米国の保守層は、気候変動やグリーン・ニューディールを社会主義の一環として警戒している。米国建国の精神である自由が奪われるとのこと。これに対して、リベラル左派は、議会や裁判所で自分たちの要求が通らないようであれば、なりふり構わないところがある。
我が国の国内でも取り組むべき重要課題は多いが、NOMURAなどによれば、ESG投資の対象は、第一に気候変動、その次に生物多様性が控えているという。
その気候変動について、昨年9月、米国の著名なPew Research Centerが調査を行った。「気候変動に関連する国際的な行動が米国経済に利益をもたらす」と答えた人は、保守派が12%、リベラル派は53%、また、「気候変動対策が米国経済に悪影響を及ぼす」と回答した人は、保守派の65%、リベラル派では12%だった。
米国では、気候変動に懐疑的な議論を主張する政治家、科学者やメディアが存在し、権威や世論に挑戦、公式の場でバランスの取れた議論を展開してきた。日本の保守政党が、気候変動に対する公聴会を開いて、その真偽を質すというニュースを聞いた事がない。米国は、気候一辺倒ではないのだ。
我が国では、世界経済フォーラムや国連が主導したからという理由でESGやSDGsに取り組んでいるような気がする。米国21州の動きを参考としながら、闇雲に進んでいくことの危うさをいま一度検証すべき時ではなかろうか。
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