日本が圧倒的に世界1位のSDGsランキング
日本のSDGs(持続可能な開発目標)の進み具合は、世界19位にランクダウン――。国連と連携する国際的な研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」は2日、世界各国のSDGsの達成状況をまとめた報告書を発表した。日本は年々、少しずつ順位を下げている。
報告書は「持続可能な開発リポート 2022」。データのある163カ国のSDGs達成度を比べた国別ランキングでは、フィンランドが2年連続で1位だった。トップ3は北欧諸国で、上位18位までは旧東欧の国を含む欧州勢が占めた。
この手のSDGsランキングを受けて「日本はSDGs後進国!」「SDGsの認知度が低い!」「ジェンダーフリーが進んでいない!」「石炭火力発電を廃止せよ!」などと訴える言説が後を絶ちません。記事の見出しも煽っているように見えます。しかしながら、こうしたランキングは評価基準によっていくらでも結果が変わるものです。
そこで、世界中の誰もが検証可能で、日本が圧倒的に世界1位であるSDGsランキングをご紹介します。Googleトレンドで、「SDGs」の検索結果を調べる方法です。図1は、キーワードを「SDGs」、対象を「すべての国」、期間を「過去5年間」で検索した結果です。
「人気度の動向」の折れ線グラフは、検索数が最も多い週を100とした相対値を示しています。2017年6月からの5年間では、「SDGs」の検索が全世界で右肩上がりに上昇していることが分かります。また対象の国や地域を指定することが可能ですが、ここでは「すべての国」を選択しており、「地域別のインタレスト」として国別のランキングが表示されます。こちらは検索数が多い国を100とした国別の順位となります。
図1より、過去5年間で最も「SDGs」というキーワードを検索した国は日本です。しかも、2位ジンバブエの3倍以上となっています。ちなみに、折れ線グラフが急降下している底の部分は日本の正月、ゴールデンウィーク、お盆などにあたります。おそらく日本の企業人や学生が平日に検索しているのではないかと想像することができます。1位という結果だけでなく日本の影響の大きさが伺えます。
さらに、Googleトレンドでは対象期間を指定することができます。試しに、一年ずつ遡って各期間における国別の順位を確認してみます。
図2~図4の通り、2019年6月以降を1年ごとに区切ってみるとすべて日本が1位でした。また図5より、2018年6月~2019年6月の1年間では日本が2位でした。さらに一年遡ります。
図6および図7より、2017年6月~2018年6月の一年間では日本が8位でした。ここまでのGoogleトレンドの結果を整理すると、2017年頃から日本で「SDGs」の検索数が増えはじめ、2018年に世界2位、2019年に僅差で世界1位となり、2020年以降は圧倒的な検索量で世界一を継続している、ということになります。
では、再び図1に戻ります。過去5年間の検索上位国を見てみると、1位日本、2位ジンバブエ、3位ウガンダ、4位インドネシア、5位ガーナとなっています。6位以下は図8の通りです。
8位に台湾、9位に韓国が出てきますが、いずれも検索数の比率では日本の1/10以下となっています。ページを送るとさらに下位の国・地域を見られますが、先進国はほとんど出てきません。Googleで「SDGs」を検索する国の上位は途上国ばかりです。国別の人口に比例しているとも言えず、途上国が多い理由は不明です。
Googleトレンドは広告や製品開発などのマーケティングでもよく利用されます。世界中、特に欧米先進国でSDGsが流行っていて日本は遅れているはずなのに、この結果をどう解釈すればよいのでしょうか。ひょっとしたら他国では「SDGs」ではなく別の表現で検索しているのかもしれないので、いくつかの検索キーワードで同様の調査を行ってみました。ところが、結果は似たような傾向ばかりでした。一例として、図9に「Sustainable Development Goals」の結果を示します。
地域別のインタレストは1位マラウイ、2位シエラレオネ、3位ボツワナでした。日本を探すと62位、先進国で上位は35位オーストラリア、36位ノルウェー、40位イギリスあたりです。また、図9の「人気度の動向」の折れ線グラフは過去5年間横ばいに見えます。日本の影響がなくなると全体の検索量が増えないようです。
ここで、「SDGs」と「Sustainable Development Goals」を比較してみました(図10)。
検索の絶対数は分かりませんが、近年は「SDGs」が5倍から8倍ほどになっています。前述の通り「SDGs」の検索量は日本が突出しているのでSDGsのグラフ(赤)から日本の影響を排除することができれば世界での流行が分かりそうです。さらに、各国の一人当たりでも比較したいところですが、今回はここまでにします。北欧諸国は人口が少ない、という反論があるかもしれませんが、評価基準についてはどのランキングにも言えることなので天に唾するようなものです。
「『SDGs』の検索が世界一の日本はすごい!」と言いたいのではありません。企業のCSR・サステナビリティ部門の担当者や学校の先生といった真面目な人ほど、「日本はSDGs後進国!」と唱える言説に流されてしまうことを筆者は危惧しています。
Googleでの「SDGs」の検索数でみれば日本は世界一で、ランキングとしては大半を途上国が占め、国連関連の報告書では常に上位となる先進国の検索数は極めて少ない、というのも一面の事実です。
■
関連記事
-
インドは1991年に市場開放が行われて以降、ずっと右肩上がりとはいかないものの、基本的に経済成長が続いている。特にITやアウトソーシング産業など第三次産業が経済成長を牽引しているという、やや特殊な姿を見せている。
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 前回の論点㉒に続いて「政策決定者向け要約」を読む。 冒頭
-
東日本大震災から間もなく1年が経過しようとしています。少しずつ、日本は震災、福島第一原発事故の状況から立ち直っています。
-
前々回、前回と、企業のカーボンニュートラル宣言がESGのG(ガバナンス)、S(社会性)に反することを指摘しました。今回は世代間の問題について考えます。 2030年CO2半減目標は将来世代への足枷になる 自助努力で100%
-
前回、非鉄金属産業の苦境について書いたが、今回は肥料産業について。 欧州ではエネルギー価格の暴騰で、窒素肥料の生産が7割も激減して3割になった。 過去、世界中で作物の生産性は上がり続けてきた。これはひとえに技術進歩のお陰
-
野田佳彦首相は5月30日に開催された「原子力発電所に関する四大臣会合」 に出席し、関西電力大飯原子力発電所3、4号機の再稼働について「総理大臣である私の責任で判断する」 と語りました。事実上、同原発の再稼動を容認するものです。
-
北朝鮮の国防委員会は2013年1月24日、国連安全保障理事会の制裁決議に反発して、米国を核兵器によって攻撃することを想定した「高い水準の核実験」を実施すると明言した。第三回目となる核実験。一体、高い水準とは何を意味するのだろうか。小型化、高濃縮ウラン、同時多数実験をキーワードに解読する。
-
ドイツで高騰しているのはガスだけではなく、電気もどんどん新記録を更新中だ。 2020年、ドイツの卸電力価格の平均値は、1MW時が30.47ユーロで、前年比で7ユーロも下がっていた。ただ、これは、コロナによる電力需要の急落
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間