ロイターの大誤報:海面が毎年4.5センチ上がる!?
ロイターが「世界の海面上昇は史上最高になり、海面が毎年4.5センチ上がる」というニュースを世界に配信した。これが本当なら大変だ。この調子で海面が上がると、2100年には3.6メートルも上がり、多くの都市が水没するだろう。
海面上昇幅が過去最大に、水温と酸性度も記録更新=世界気象機関 https://t.co/Er8WZiAtY7
— ロイター (@ReutersJapan) May 19, 2022
ところがNHKは「30年間に10センチ余り」と報道している。
世界の海面水位 約30年間に10cm余上昇 近年その速度増す #nhk_news https://t.co/eR1Q8PMnJN
— NHKニュース (@nhk_news) May 18, 2022
計算が合わないので、情報源のWMO(世界気象機関)のウェブサイトで確認すると「最近で毎年4.5mm」。これだと30年で135ミリだから、NHKの数字が正しい。
https://twitter.com/WMO/status/1526872728321593345
こんな誤報が出たのは、アル・ゴアが2006年に映画「不都合な真実」で予言した「近い将来に20フィート(6メートル)海面が上がる」という数字をジャーナリストが(デスクや校閲まで)信じているからだろう。
The sky-is-falling pitch got worse when scientist James Hansen was joined by politician Al Gore. Sea levels could rise 20 feet, claimed his 2006 documentary An Inconvenient Truth a prediction that brought rebuke from those sympathetic to the climate cause. https://t.co/qW8ccUfp5f pic.twitter.com/BbsVXiNnHt
— Institute for Energy Research (@IERenergy) July 11, 2018
ゴアはこの映画の翌年に、ノーベル平和賞を受賞した。この数字はその後いわなくなったが、正式に撤回もしていない。おかげで世界には、まだ「海面が2.5メートル上がって都市が水没する」と信じている人がいる。
Melting Antarctic ice will raise sea level by 2.5 metres – even if Paris climate goals are met, study finds https://t.co/3TgSpxWnq0
— The Guardian (@guardian) September 23, 2020
4.5ミリの海面上昇というのは、1日の干潮と満潮の差1.5メートルに比べると、誤差みたいなものだ。
僕の住んでいるオーストラリア大陸は年平均で70mm(7cm)も北へ移動しています。海面上昇は年平均で4.5mm(0.45cm)。海面上昇よりも大陸移動の方がもっと大事な問題かも。
「5000万年後に、オーストラリアは日本とぶつかる? じゃ、何をすればいいんですか?」https://t.co/7njWKNRsNn https://t.co/8jSYwtFhl6
— ノギタ教授 (@Prof_Nogita) May 19, 2022
海面が6メートル上がるなら大問題だが、100年で45センチ上がっても、堤防を嵩上げする程度だ。そのコストは「カーボンニュートラル」の莫大な対策費とは比較にならない。
これがゴアの不都合な真実である。彼は今さら引っ込みがつかないだろうが、環境左派のみなさんはそろそろ知識をアップデートしてはどうだろうか。
【追記】英語版では”Sea level has risen 4.5 cm (1.8 inches) in the last decade“となっているので、日本語版の誤訳かもしれない。

関連記事
-
以前も書いたが、北極のシロクマが増えていることは、最新の報告書でも再確認された(報告書、記事)。 今回の報告書では新しい知見もあった。 少なくとも2004年以降、ハドソン湾西部のホッキョクグマの数には統計的に有意な傾向が
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 今年6月2日に発表された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(案)」から読み取れる諸問題について述べる。 全155頁の大部の資料で、さまざまなことが書かれてい
-
米国ブレークスルー研究所の報告書「太陽帝国の罪(Sins of a solar empire)」に衝撃的な数字が出ている。カリフォルニアで設置される太陽光パネルは、石炭火力が発電の主力の中国で製造しているので、10年使わ
-
海は人間にとって身近でありながら、他方最も未知な存在とも言える。その海は未知が故に多くの可能性を秘めており、食料庫として利用しているのみならず、たくさんのエネルギー資源が存在している。
-
はじめに 地球温暖化に高い関心が持たれています。図1はBerkeley Earthのデータで作成したものです。パリ協定は、世界の平均気温上昇を2℃未満に抑え1.5℃を目指す目標ですが、2030年代には1.5℃を超えること
-
エネルギー・環境問題を観察すると「正しい情報が政策決定者に伝わっていない」という感想を抱く場面が多い。あらゆる問題で「政治主導」という言葉が使われ、実際に日本の行政機構が政治の意向を尊重する方向に変りつつある。しかし、それは適切に行われているのだろうか。
-
気候研究者 木本 協司 1960-1980年の気象状況 寒冷で異常気象が頻発した小氷河期(1300-1917)以降は太陽活動が活発化し温暖化しましたが、1950年頃からは再び低温化傾向が始まりました。人工衛星による北極海
-
きのう放送した言論アリーナでは、杉山大志さんと有馬純さんとともに地球温暖化を経済問題として考えた。今後、地球温暖化が起こることは確実で、その一部が人為的な原因によるものであることも確実だが、そのリスクははっきりしない。I
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間