世界の開発途上国は石炭増産へ:日本は支援すべきだ

2022年05月14日 06:50
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

cozyta/iStock

ロシアへのエネルギー依存を脱却すべく、欧州が世界中からエネルギーを買い漁っている。この影響で世界のエネルギー価格は暴騰した。これに耐えかねて、開発途上国では石炭の増産と石炭火力発電の利用計画が次々と発表されている。

ニュースは次々と飛び込んでくるが、以下にいくつかまとめておこう。

1. 欧州は、ボツワナから年間100万トンの石炭の調達を検討している

ボツワナには欧州への石炭供給の引き合いが殺到しており、欧米諸国からの需要は年間100万トンを超えると推定していると、モクグウェティ・マシジ大統領が10日、明らかにした。

2. インド政府は、電力危機への対応のため、石炭火力発電所に対し、フル稼働を命じた

インドでは、電力不足に見舞われて、停電や電力供給制限が頻発している。電力不足の原因は、電力需要の増大と、石炭生産の不足、そして輸入石炭の価格高騰である。

世界的に石炭価格が高騰し、供給が逼迫しているため、輸入燃料を使用している発電所は逆ザヤによる損失を抑えるために稼働率を下げており、状況が悪化している。

アジアのベンチマークであるニューキャッスル石炭先物価格は、今年に入ってから145%以上も上昇している。

インド電力省によると、輸入石炭を使用するように設計されたインドの1760万キロワットの発電能力のうち、現在稼働しているのはわずか1000万キロワットだという。ほとんどの発電所は、燃料費の上昇を転嫁できないような契約を買い手と交わしているという。

そこでインド政府は、輸入石炭による発電所にフル稼働を命じる代わりに、石炭価格の高騰による発電所への費用負担を軽減するための措置をとるとされている。

3. さらにインドは、100以上の炭鉱を再稼働する

インドは、電力危機により、これまで財政的に維持できないとされてきた100以上の炭鉱を再開する予定であると、政府が6日に発表した。

インドは、再開された鉱山から今後2~3年で7500万トンから1億トンの石炭の追加生産を見込んでいる。

4. さらにインドは、炭鉱の環境規制も緩和した

石炭の生産量を増やすために、炭鉱拡張にあたっての環境規制を緩和した。具体的には環境影響評価の免除や、住民との協議義務の緩和などである。

5. ベトナムは、国内の石炭生産の拡大を目指している

ベトナム国営石炭採掘会社ビナコミンは、世界価格が急騰する中で、化石燃料の需要増に対応するため、国内生産を強化すると、産業貿易省が11日に発表した。

東南アジアの製造業大国である同国は、今年初め、石炭供給の逼迫による夏場の電力不足を警戒していた。

6. そして中国は、年間3億トンの石炭生産能力を増強すると発表した。ちなみに日本の石炭消費は年間1.8億トンだから、その倍近くということになる。

このように、エネルギー価格の高騰の最中にあって、開発途上国はみなエネルギー安定供給に必死になっている。石炭を増産し、あるいは石炭火力発電を増強するのは当然だ。

ところがいま、先進国の政府や金融機関は、脱炭素のためとして、化石燃料事業には投融資をしなくなっている。

その一方で、先進国自身、就中、欧州が化石燃料の調達に奔走しているのは、完全に偽善だとの批判がある。まったくその通りだ。

米国上院のエネルギー資源委員会のジョー・マンチン委員長(民主党)や有力メンバーであるジョン・バラッソ議員(共和党)は、現在の世界のエネルギー危機を救いロシアに対抗するために、米国はエネルギーを増産するべきだと述べている

日本も、世界中の開発途上国の経済開発に資するため、石炭資源開発を支援すべきだ。それは日本への安定供給にもつながるだろう。

そして、日本の持つ最高水準の石炭火力発電技術によって、大気汚染などが極めて少ない形での電力供給を世界で実現してゆくべきだ。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • やや古くなったが、2008年に刊行された『地球と一緒に頭を冷やせ! ~ 温暖化問題を問いなおす』(ビョルン・ロンボルグ著 ソフトバンククリエイティブ)という本から、温暖化問題を考えたい。日本語訳は意図的に文章を口語に崩しているようで読みづらい面がある。しかし本の内容はとても興味深く、今日的意味を持つものだ。
  • 石油がまもなく枯渇するという「ピークオイル」をとなえたアメリカの地質学者ハバートは、1956年に人類のエネルギー消費を「長い夜に燃やす1本のマッチ」にたとえた。人類が化石燃料を使い始めたのは産業革命以降の200年ぐらいで
  • 筆者は先月、「COP26はパリ協定の「終わりの始まり」」と題する本サイトに寄稿をしたが、COP26の会議・イベントが進められている中、視点を変えたPart2を論じてみたい。 今回のCOPは、国連の公式発表によれば、交渉官
  • 第6次エネルギー基本計画の策定が大詰めに差し掛かっている。 策定にあたっての一つの重要な争点は電源ごとの発電単価にある。2011年以降3回目のコスト検証委員会が、7月12日その中間報告を公表した。 同日の朝日新聞は、「発
  • 去る10月22日に経済産業省は、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(FIT法)に関して、同法に基づく価格決定ルールの運用変更案を定めた省令、告示のパブリックコメントを開始した。この改正内容のう
  • 六ケ所村の再処理工場を見学したとき印象的だったのは、IAEAの査察官が24時間体制でプルトニウムの貯蔵量を監視していたことだ。プルトニウムは数kgあれば、原爆を1個つくることができるからだ。
  • NRCは同時多発テロの8年後に航空機落下対策を決めた 米国は2001年9月11日の同時多発テロ直後、米国電力研究所(EPRI)がコンピュータを使って解析し、航空機が突入しても安全は確保されると評価した。これで仮に、同時多
  • 本年9月の総選挙の結果、メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU)は全709議席のうち、246議席を獲得して第1党の座を確保し、中道左派の社会民主党(SPD)が153議席で第2党になったものの、これまで大連立を

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑