ロシアからガス供給を止められても何の問題もないポーランドのしたたかさ
ロシアの国営ガス会社、ガスプロムがポーランドとブルガリアへの天然ガスの供給をルーブルで払う条件をのまない限り、停止すると通知してきた。
これはウクライナ戦争でウクライナを支援する両国に対してロシアが脅迫(Blackmail)して来た、ロシアへのガス供給の依存度が高い両国は今年の冬には凍死者が出る。無謀にもロシアを怒らせたつけは大きいとの解説をする人も我が国では出てきた。
しかし本当にそうなのか?

Leestat/iStock
6年前からロシアへのガス依存をなくすための計画を進めてきたポーランド
ポーランドのガスのロシアへの依存度は高く、47%と言われている。現在の契約は年間10.5bcmであるが、実はこの契約は今年末(2022年12月31日)で終了することになっており、ウクライナ側はその延長をしないことを昨年から外部に明言している。
しかし6年前から大対策を研究、実行してきていた。その成果として今年10月にノルウェーからの新たなガスの供給が始まり、その量は10.0bcmでロシアからのガスを十分に代替可能である。
また将来の需要増を見越して、LNG受け入れ基地の建設を進めていて、2025年に完成予定とのことである。

ノルウェーからデンマーク経由でポーランドまでの新しいパイプライン
出典:NS Energy HP
ウクライナ危機を予測してのガス備蓄の積み増し
ポーランドのナイムスキー・戦略エネルギーインフラ担当大臣は、ウクライナ戦争の可能性を考えて、年始の34%だった天然ガスの備蓄を76%と積み増したとのこと。備蓄の最大量3.5cbmからするとロシアからの輸入量のざっと2.5ヶ月分にあたるが、これから夏に向かうから暖房需要がなくなるので秋口まではこの備蓄分で十分な計算になる。
迅速な決断が危機を救うことになるだろう。なお備蓄は昨日現在で更に88%まで積み上がっているようだ。
ポーランド政府の国民へのメッセージと国民の支持
ガスプロムがガスの供給停止の可能性を表明した時、マテウシュ・モラヴィエツキ首相を初め、ポーランド政府は、
- 天変地異でもない限り、ポーランドのガスは安全である。
- ただしウクライナ戦争の為にガス価格は上げざるを得なくなるが、危機を乗り越えるために協力して欲しい
との明確なメッセージを出した。ポーランドの新聞によると国民の評判も良いようである。
今回の天然ガスについてのポーランド政府の迅速で周到な対応は我が国にも良い前例を与えたのではないか。
【参考】ポーランドのエネルギー構造
ポーランドは自国産の石炭(瀝青炭と褐炭)への依存度が高く、多くのヨーロッパの環境団体から常に非難を浴びているが、安易な脱石炭はせずに、COPの会議を積極的にポーランドに誘致して、環境原理主義者(Environmental Fundamentalist)と堂々と議論する姿勢も好感が持てる。

ポーランドの2020年の発電電力量
出典:The Energy Market Agency

関連記事
-
GEPR編集部より。このサイトでは、メディアのエネルギー・放射能報道について、これまで紹介をしてきました。今回は、エネルギーフォーラム9月号に掲載された、科学ジャーナリストの中村政雄氏のまとめと解説を紹介します。転載を許諾いただきました中村政雄様、エネルギーフォーラム様に感謝を申し上げます。
-
この度の選挙において希望の党や立憲民主党は公約に「原発ゼロ」に類する主張を掲げる方針が示されている。以前エネルギーミックスの観点から「責任ある脱原発」のあり方について議論したが、今回は核不拡散という観点から脱原発に関する
-
2050年にCO2ゼロという昨年末の所信表明演説での宣言に続いて、この4月の米国主催の気候サミットで、菅首相は「日本は2030年までにCO2を46%削減する」ことを目指す、と宣言した。 これでEU、米国・カナダ、日本とい
-
1.ネットゼロ/カーボンニュートラル 東京工業大学先導原子力研究所助教の澤田哲生氏が、ネットゼロ/カーボンニュートラルの意味について説明している。 ゼロカーボンはいばらの道:新たなる難題 引用すると、 ネットゼロ/カーボ
-
前回、防災白書が地球温暖化の悪影響を誇大に書いている、と指摘した。今回はその続き。 白書の令和2年度版には、「激甚化・頻発化する豪雨災害」という特集が組まれている。これはメディアにもウケたようで、「激甚化・頻発化」という
-
1. はじめに 2015年12月のCOP21で採択され、2016年11月4日に発効したパリ協定から約8年が経過した。我が国でも、2020年10月菅首相(当時)が、唐突に、2050年の脱炭素、カーボンニュートラルを発表し、
-
第6次エネルギー基本計画の策定が大詰めに差し掛かっている。 策定にあたっての一つの重要な争点は電源ごとの発電単価にある。2011年以降3回目のコスト検証委員会が、7月12日その中間報告を公表した。 同日の朝日新聞は、「発
-
EU農業政策に対する不満 3月20日、ポーランドのシュチェチンで農民デモに遭遇した。主要道路には巨大なトラクターが何百台も整然と停まっており、その列は延々と町の中心広場に繋がっていた。 広場では、農民らは三々五々、集会を
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間