IPCC報告の論点53:気候変動で病気は増えるのか?
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。
今回は人間の健康への気候変動の影響。
ナマの観測の統計として図示されていたのはこの図Box 7.2.1だけで、(気候に関連する)全要因、デング熱、下痢、自然災害、暑さおよび寒さ、マラリア、たんぱく不足の栄養失調の10万人あたりの死亡率が地域ごとに示してある。
そして、ここにある健康リスクの多くが気候変動によって悪化する、ということが下記の表Box.7.2.1に図示してある。マラリア、デング、下痢などの病気ごとに、「気候変動によって悪影響がある可能性が高い」と判断されたものが緑色で塗ってある。(表の詳細な説明は省略)
関連する本文を読んでも、「気候変動による気温上昇や降水量の増加によって、伝染病などにかかり易くなったり、下痢を起こしやすくなったりする」という趣旨のことが多く書いてある。例えばこのような箇所。
たしかに、暑くなったり、雨が増えたりすることで、ある病気が蔓延しやすくなる条件が揃うということはありうるだろう。
だが、図Box7.2.1をもう一度よく見てみよう。そのさい、この図は、縦軸がそれぞれ異なることに注意。
まず、全要因による死亡率は、とくにアフリカと東南アジアで激減してきた。下痢、マラリア、タンパク質不足による栄養失調もそうだ。
東南アジアのデング熱だけは顕著に増えているが、この縦軸は上限が2に過ぎず、下痢、マラリア、タンパク質不足などとは比べものにならない。
結局、起きていることはこうだ。気温がやや高くなり、降水量が変化したことで、死亡率がやや上がった疾病は存在するかもしれない。だが、経済成長に伴って、衛生状態、医療状態、栄養状態が改善したことで、気候に関連する死亡率は激減してきた。
下図は、筆者は「地球温暖化のファクトフルネス」に掲載したものだ。
それに、そもそも、気候関連の死亡数は、死亡数全体から見ると少ない(下図)。
死亡率全体が下がる中にあって、気候関連の死亡率については、それよりも速いペースで減少した。人類は、気候関連の死亡率については、他の死亡率よりも上手く対処して、減少させてきた。
地球温暖化はゆるやかに起きているが、この死亡率減少の傾向に陰りは出ていない。
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1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
【関連記事】
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・IPCC報告の論点㊻:日本の大雨は増えているか検定
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・IPCC報告の論点52:生態系のナマの観測の統計を示すべきだ
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