政府は脱炭素など本気でめざしていない

2022年03月15日 06:50

kuppa_rock/iStock

ウクライナ戦争以前から始まっていた世界的な脱炭素の流れで原油高になっているのに、CO2排出量の2030年46%削減を掲げている政府が補助金を出して価格抑制に走るというのは理解に苦しみます。

ガソリン価格、172円維持 岸田首相「資源外交を積極展開」(2022年3月13日付時事通信)

岸田文雄首相は13日の自民党大会で、ウクライナ危機などの影響による原油価格の高騰に関し、「当面、ガソリン価格を172円に維持する」と表明した。石油元売り会社への補助金の上限額を1リットル当たり5円から25円に増額する措置などで実現を目指す。

価格抑えない給油所、現地調査へ 補助金効果上げ狙う(2022年2月10日付日経新聞)

萩生田光一経済産業相は10日の閣議後の記者会見で、政府のガソリン価格抑制策の効果が出ていない給油所を来週から現地調査すると明らかにした。石油元売りへの補助金で卸値が抑制されたのに店頭価格に反映しない理由を聞く。1月末の抑制策開始後も店頭価格の上昇が止まっておらず、効果を高めることをめざす。

化石燃料の価格が上がって消費量が抑えられれば炭素税と同じ効果になりますが、この程度(とても大変な状況ですが、まだ始まったばかり、という意味です)の価格上昇で補助金を出して右往左往しているということこそが、政府が本気で脱炭素なんてめざしていないということの表れです。

もしも本気で政府が脱炭素をめざすのであれば、補助金(=これも国民の血税です)を出して価格を抑制するのではなく、必要なコストを説明した上で国民に納得してもらわなければなりません。さらに言えば、今後も原油や電力等の価格が高騰することを国民へ説明するとともに、原発再稼働や石炭火力発電の利用拡大といったエネルギーコスト上昇の回避策もきちんと示して政策の選択肢を与えるべきです。

過去10年間の電気料金は家庭向けで約22%、産業向けで約25%も上昇しています。要因は、東日本大震災における福島第一原発事故を受けて原子力発電所を停止し、代わりにLNG火力発電を増やしたためです。

電気料金の高騰は国民(特に生活が苦しい弱者)を苦しめますし、日本の真夏・真冬の猛暑厳冬は生死にかかわる重大問題です。

産業界(特に中小企業)にとっても、利益を圧迫し国際競争力や雇用に影響します。企業経営で考えると、購入電力のコストアップに加えて、生産や事業活動に直接寄与しない太陽光発電の設置やカーボンオフセットなどによってさらに高コスト体質になってしまいます。価格転嫁ができればよいのですが、化石燃料そのものであるガソリンがこんな状況では、B2B、B2Cを問わずあらゆる製品・サービスの価格上昇を認めてくれる顧客はほとんどいないはずです。

政府はこうした説明を先送りするばかりですので、国会議員の皆さんにはぜひ参院選の論点にしていただき国民的な議論を深めてほしいものです。

SDGsの不都合な真実-「脱炭素」が世界を救うの大嘘-』(宝島社)

This page as PDF

関連記事

  • 電力業界では良くも悪くも何かと話題に上ることが多い「発電側基本料金」だが、電力ガス取引等監視委員会の制度設計専門会合を中心に詳細な制度設計が進められている。 また、FIT電源に対する調整措置についても、2019年の12/
  • 1.コロナ人工説への弾圧と変節 コロナウイルスが武漢研究所で人工的に作られ、それが流出したという説が俄かに有力になってきた。 かつては、コロナ人工説は「科学の否定」であり「陰謀論」だという意見がCNNなどのリベラル系が優
  • 国際エネルギー機関IEAが発表した脱炭素シナリオ(Net Zero Scenario, NZE)。これを推進するとどのような災厄が起きるか。 ルパート・ダーウオールらが「IEAネットゼロシナリオ、ESG、及び新規石油・ガ
  • 政府は、7月から9月までの3カ月間という長期にわたり、企業や家庭に大幅な節電を求める電力需要対策を決定しました。大飯原子力発電所3、4号機の再稼働が認められないがゆえに過酷な状況に追い込まれる関西電力では、2010年夏のピーク時に比べて15%もの節電を強いられることになります。電力使用制限令の発令は回避されたものの、関西地域の企業活動や市民生活、消費に大きなマイナス要因です。ただでさえ弱っている関西経済をさらに痛めつけることになりかねません。
  • けさの日経新聞の1面に「米、日本にプルトニウム削減要求 」という記事が出ている。内容は7月に期限が切れる日米原子力協定の「自動延長」に際して、アメリカが余剰プルトニウムを消費するよう求めてきたという話で、これ自体はニュー
  • 先のブログ記事では12月8日時点の案についてコメントをしたが、それは13日の案で次のように修正されている。
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 IPCCの報告では、20世紀に起きた地球規模での気温上昇
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 地球温暖化というと「猛暑で熱中症が増える」ということばか

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑