欧米では「脱炭素を止め石油・ガス増産」の大合唱
ウクライナの戦争を招いたのは、ロシアのガスへの依存を招いたEUの自滅的な脱炭素・反原発政策だったことを糾弾し、欧州は、域内に莫大な埋蔵量があるガスの採掘拡大を急ぐべきだ、とする大合唱が起きている。
- 「エネルギーマゾヒズムの教訓」(社説、ウォール・ストリート・ジャーナル 2022年3月2日付)
- 『「グリーン主義」はプーチンの戦争マシーンへの燃料供給を助けた』レックス・マーフィー(ナショナルポスト 2022年3月1日)
- 「欧州は「グリーン移行」でロシアの意のままになった」クリストファー・バーナード(スペクテイター・ワールド 2022年2月25日)
ドイツ政府も、これまでの極端なグリーン政策を見直すことになった。脱石炭・脱原発を再考してしばらく利用すること、これまで無かったLNG基地を建設することを検討しているという。
ちなみに「2045年CO2ゼロという目標は変えずに」これをするというが、本気で整合性を考えているとは思えない。
政策声明を見ると、この政策転換は「責任ある、将来を見据えたエネルギー政策が、我々の経済や気候だけでなく、安全保障にとっても極めて重要である」ことが理由だそうだ。
ということは、これまでの政策は、無責任で将来を見据えていなかった大失敗だった、と考えるほか無い。
- ドイツ連邦共和国首相兼ドイツ連邦議会議員オラフ・ショルツの政策声明(2022年2月27日)
- ウクライナ・ロシア危機により、ドイツは石炭撤退の再考を迫られる(ロイター通信 2022年3月2日)
- ドイツ、閉鎖した石炭火力発電所の再稼働を検討 (WAZ 2022年2月28日)
これまで、環境問題を理由として欧州では事実上禁止されていたシェールガス採掘も開始すべきだという意見も強い。欧州には十分な埋蔵量があり、米国なみに開発すれば、本来はロシアから輸入などせず、ガスは自給できるはずなのだ。
- 「ロシアのガスに依存するヨーロッパは、我々全員を苦しめることになる」クレイグ・マッキンレー(英国国会議員)(タイムズ 2022年3月2日)
- 「プーチンはエネルギー価格の面で我々を弱体化させる-英国のシェールガスを使うべき時だ」(クレイグ・マッキンレー(デイリーエクスプレス、2022年3月1日)
- 「今こそクレムリンにエネルギークラスター爆弾を投下する時だ」アンブローズ・エヴァンス・プリチャード(デイリー・テレグラフ紙 2022年3月1日)
米国では、与党の民主党に属しながら造反してバイデン政権のグリーンインフラ整備「ビルド・バック・ベター」法案を葬り去ったジョー・マンチン議員が、「ロシアからのあらゆる輸入を止め、国内の石油・ガスを大増産して自由世界に提供すべきだ」としている。
もとより共和党はバイデンを批判して石油・ガス増産を訴えているから、民主党の造反者と共に、米国議会からは、石油・ガス増産を可能にする法律が出てくると予想される。いまだに脱炭素にこだわっているバイデン政権も従わざるを得ないのではないか。
- 「ロシアからの全ての輸入を禁止することで世界に率先し、かつてなかったほどにエネルギーを増産すべきだ」マンチン(ブライトバート 3月1日)
欧米は、いまこそ結束して原子力・ガス・石油を大増産しなければならない、という訴えがある。日本もこれに伍して、原子力再稼働、石炭火力フル稼働を図り、LNGを節約することで、欧州を助けるべきではないか。
- 「西側諸国のグリーン・デリュージョンがプーチンを力づけた」マイケル・シェレンバーガー(コモンセンス・ウィズ・バリ・ワイス、2022年3月1日号)
■
関連記事
-
8月中旬、ジャカルタで第2回AZEC(アジア・ゼロ・エミッション共同体)閣僚会合が開催された。 AZECは脱炭素化を推進するアジア諸国による枠組みとして岸田首相が2022年1月の施政方針演説で提唱したものであり、日本の技
-
厚生労働省は原発事故後の食品中の放射性物質に係る基準値の設定案を定め、現在意見公募中である。原発事故後に定めたセシウム(134と137の合計値)の暫定基準値は500Bq/kgであった。これを生涯内部被曝線量を100mSv以下にすることを目的として、それぞれ食品により100Bq/kgあるいはそれ以下に下げるという基準を厳格にした案である。私は以下の理由で、これに反対する意見を提出した。
-
ドイツで薬不足が続いている。2年前の秋ごろも、子供用の熱冷ましがない、血圧降下剤がない、あれもない、これもないで大騒ぎになっていたが、状況はさらに悪化しており、現在は薬だけでなく、生理食塩水までが不足しているという。 生
-
エネルギー政策の見直し議論が進んでいます。その中の論点の一つが「発送電分離」です。日本では、各地域での電力会社が発電部門と、送電部門を一緒に運営しています。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク、GEPRはサイトを更新しました。
-
電力中央研究所の朝野賢司主任研究員の寄稿です。福島原発事故後の再生可能エネルギーの支援の追加費用総額は、年2800億円の巨額になりました。再エネの支援対策である固定価格買取制度(FIT)が始まったためです。この補助総額は10年の5倍ですが、再エネの導入量は倍増しただけです。この負担が正当なものか、検証が必要です。
-
COP26が閉幕した。最終文書は「パリ協定の2℃目標と1.5℃の努力目標を再確認する」という表現になり、それほど大きく変わらなかった。1日延長された原因は、土壇場で「石炭火力を”phase out”
-
言論アリーナ「地球温暖化を経済的に考える」を公開しました。 ほかの番組はこちらから。 今年の夏は猛暑や異常気象が起こり、地球温暖化が原因だともいわれていましたが、それは本当でしょうか。また温暖化は止められるのでしょうか。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間