プーチンが高笑いした米国のエネルギー自滅
プーチンにウクライナ侵攻の力を与えたのは、高止まりする石油価格だった。
理由は2つ。まず、ロシアは巨大な産油国であり、経済も財政も石油の輸出に頼っている。石油価格が高いことで、戦争をする経済的余裕が生まれた。
のみならず、石油価格が高ければ、欧米はロシアへの経済制裁に二の足を踏む。ロシアの石油供給が停まれば、いっそうの原油価格高騰が起きて、インフレが昂進し、それは欧米の政権にとって命とりになるからだ。
だが石油価格の高騰を招いたのは、「脱炭素」ばかりを優先する愚かな米国の政策だった。バイデン政権が、どれほど米国の石油(およびガス)産業を痛めつけてきたが、ヘリテージ財団が10項目をまとめているので紹介しよう。
- Build Back Better 法案は、アラスカと外縁大陸棚における石油・ガス開発のためのエネルギー資源へのアクセスを制限する一方で、保証金要件、ロイヤリティ率、手数料を引き上げるものだ。
- 環境保護庁による、既存および将来の、石油生産・自動車およびトラックからのメタン排出、粒子状物質、オゾンに関するより厳しい規則(環境上の利益がほとんどない割にコストが高くなる)、および2022年以降もエタノール使用義務化の実施を継続する計画。
- 内務省は、アラスカ、連邦所有地、外縁大陸棚での石油掘削権のリースについて、分析による麻痺状態(=考えすぎによる思考停止状態)にあり、これは複数年の禁止に相当する。内務省はバイデン政権下で連邦所有地での石油・ガス掘削権のリースを一度も行っておらず、裁判所からの強要によりメキシコ湾で一度だけ行っただけである。さらに、連邦所有地での従来型エネルギーの探査と生産を厳しく制限する計画を発表した。
- 証券取引委員会は、上場企業による気候変動に関する追加的な情報開示の規制案を発表した。
- 労働省は、連邦年金投資計画に対し、従業員へのリターンよりも気候や「環境、社会、ガバナンス」の要素を優先させるよう求める規制案を提示した。
- 運輸省の燃費規制強化、インフラ法案による州の二酸化炭素削減義務化
- 連邦政府の規制・許認可プロセスを通じた「影の炭素税」としての、炭素およびその他の温室効果ガスの社会的コスト。
- 環境品質審議会が、連邦環境審査許可プロセスの合理化と改善のための改革を削除したことにより、エネルギーインフラの建設が困難になること。
- 石油やその他の化石燃料プロジェクトのために、他国への技術支援や納税者が補助する国際金融の利用を禁止する計画。
- 民間銀行に圧力をかけ、石油企業への融資を差し控えさせるという、政権のメンバーによる非公式な行動。
ヘリテージ財団は、「バイデン政権は、アメリカの石油産業を廃業させるつもりであることを明確にしてきた」とまとめている。
さていまウクライナでの戦争を受けて、欧米のロシア依存を減らすために、米国はどれだけ石油・ガスの増産に踏み切れるだろうか。これまでやってきたことを覆すのは、誤りを認めることだから、政権が交代しない限り難しいのかもしれない。
■
関連記事
-
欧州の環境団体が7月に発表したリポート「ヨーロッパの黒い雲:Europe’s Dark Cloud」が波紋を広げている。石炭発電の利用で、欧州で年2万2900人の死者が増えているという。
-
産業革命以降の産業・経済の急速な発展とともに、18世紀初めには約6億人だった世界の人口は、現在72億人まで増加している。この間の化石燃料を中心としたエネルギーの大量消費は、人類に生活の利便さ、快適さ、ゆとりをもたらしたが、同時に、大気汚染、温暖化等の地球規模での環境問題を引き起こし、今やまさに全世界で取り組むべき大きな問題となっている。
-
現在の日本のエネルギー政策では、エネルギー基本計画(2014年4月)により「原発依存度は、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる」こととなり、電力事業者は今後、原発の新増設が難しくなりました。原発の再稼動反対と廃止を訴える人も増えました。このままでは2030年以降にベースロード電源の設備容量が僅少になり、電力の供給が不安定になることが懸念されます。
-
ロシアへのエネルギー依存を脱却すべく、欧州が世界中からエネルギーを買い漁っている。この影響で世界のエネルギー価格は暴騰した。これに耐えかねて、開発途上国では石炭の増産と石炭火力発電の利用計画が次々と発表されている。 ニュ
-
(前回:再生可能エネルギーの出力制御はなぜ必要か③) 結局、火力発電を活かすことが最も合理的 再エネの出力制御対策パッケージをもう一度見てみよう。 需要側、供給側、系統側それぞれの対策があるが、多くの項目が電力需給のバラ
-
アゴラ研究所では、NHNジャパン、ニコニコ生放送を運営するドワンゴとともに第一線の専門家、政策担当者を集めてシンポジウム「エネルギー政策・新政権への提言」を2日間かけて行います。
-
経済産業省は再生可能エネルギーの振興策を積極的に行っています。7月1日から再エネの固定価格買取制度(FIT)を導入。また一連のエネルギーを導入するための規制緩和を実施しています。
-
気候科学の第一人者であるMITのリチャード・リンゼン博士は、地球温暖化対策については “何もしない “べきで、何かするならば、自然災害に対する”強靭性 “の強化に焦点を当て
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間