「ネットゼロ」には毎年3.5兆ドルのコストが必要だ
マッキンゼーは、2050年にCO2排出をネットゼロにするというCOP26の目標を実際に実現するための投資についてのレポートを発表した。
必要な投資は2050年までに累計275兆ドルで、毎年9.2兆ドルだ。そこから今までに実施された投資を引いても、3.5兆ドル(400兆円)が必要になる。これは毎年4兆ドルというIEAの予測と(計算方法は違うが)おおむね同じだ。
3.5兆ドルというのは大きすぎて実感がわかないが、全世界のGDPの約4%に相当する。これを均等に負担したとすると、日本では20兆円である。
電気料金は25%上がる
電力、鉄鋼、セメントなどの部門では、化石燃料の資産が座礁して価値を失う。その代わりに再エネで電力を供給すると、電気料金は25%上がる。
再エネや電気自動車などの新しい投資で、全世界の雇用が1.85億人増えるが、化石燃料部門で2億人の雇用が失われる。
ネットゼロは毎年GDP3%の赤字
問題はこの投資によってどんなリターンがあるかだが、それについては「今回の調査の限界」として、気候変動の物理的リスクは勘案していないと明記している。要するに費用対効果の費用だけを計算して、効果を計算していないのだ。
これについては、このレポートの元にしたNGFSのシナリオで、次のような試算を出している。
それによれば2050年には温暖化で世界のGDPの約3%が失われるが、それをネットゼロで約1%減らすことができる。つまりネットゼロのメリットは1%である。
国民は脱炭素化のコストをいくら負担するのか
マッキンゼーもNGFS(中央銀行のグループ)もネットゼロを推進する立場から計算しているので、以上の数字はもっとも好意的な評価だと思われるが、それでも投資コストは世界のGDPの4%で、そのメリットは1%である。つまりネットゼロの投資はGDP3%の赤字なのだ。
これは実額でいうと、全世界で毎年2.8兆ドルの純損失を出し続けることになる。それを日本が均等に負担すると想定すると毎年15兆円、国民ひとり当たり120万円である。この損失を負担する合理的な方法は炭素税だが、これは複雑なので「地球環境のための消費税」として一律に課税すると7%の増税になる。
「地球の未来のためには消費税7%ぐらい負担しよう」と思う人もいるだろうが、世論調査で国民が年間に負担してもいいと思う気候変動対策のコストは年間100ドル。必要なコストの1%にも満たない。
地球温暖化を防ぐためにいくら負担するか、というのは民主的な意思決定の問題である。もちろん以上の計算は大ざっぱな概算だが、「脱炭素化で経済成長」などという幻想を捨て、日本国民は地球の未来のためにどれだけ負担するか、国会で議論してもいいのではないか。
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