EUタクソノミーのその後:ドイツの欺瞞

MarioGuti/iStock
最大の争点
EUタクソノミーの最大の争点は、原子力発電を善とするか悪とするかの判定にある。
善すなわちグリーンと認定されれば、ESG投資を呼び込むことが可能になる。悪となれば民間投資は原子力には向かわない。その最終判定に圧力をかけているのがドイツ始めEU加盟5カ国(スペイン、オーストリアなど)の反原発連盟にあることは、すでに本論のシリーズで解説した。
欧州委員会の裁定―原子力は準グリーン
2021年末が一つの瀬戸際であった。
欧州委員会(EC)は2022年1月1日にその裁定を発表した。ECはタクソノミーにおいてその技術がグリーンとみなされるかどうかを規定する『委任法令(Delegated Act:DA)』において、一定条件下で原子力と天然ガスの利用をグリーン認定する方向で検討を開始したと発表した。一定条件下でグリーン、つまり〝準グリーン〟との裁定である。ECはEUの執行機関であるので、ECの発布するDAは法律であるから、EU諸国にはその遵守が求められる。
原子力の場合、この一定条件とは、原子力発電は低炭素であり気候変動の緩和に効果があるものの、核のごみつまり放射性廃棄物の管理ないしは処分において問題ありとされており、適格性に問題ありとされている。
放射性破棄物の処分場はスエーデン、フィンランド、フランスなどでは計画が進んでいるが、ドイツなどは全く先が見えないという問題がある。もっともドイツで先を見えなくしたのは、グリーン勢力であるのだが。
ドイツの欺瞞
この中途半端な準グリーンというDA裁定にはウラがある。
ドイツは5カ国連盟をバックし、原子力を準グリーンカテゴリに入れる条件として天然ガス火力も準グリーン認定せよというバーターを強く押し出してきた。つまり、原子力発電と天然ガス火力発電を〝抱き合わせにする〟商法だ。これはドイツにとって大きなメリットがある。
この抱き合わせ商売の結果、ドイツは今後も原子力発電および火力発電を使い続けられる道を開いたのである。お為ごかしと言うほかない。ズル賢いドイツ人の欺瞞に満ちたやり方である。
ドイツの世論〜ウクライナが鍵
最近の世論調査によれば、ドイツの原発継続vs原発廃止の世論調査結果は、双方ほぼ43%で拮抗している。今後ドイツの若者や右派中心に原発継続派が伸びる可能性がある。
なぜなら、ドイツはEU諸国の中でも最も多量のCO2を大気中に垂れ流し続けてきた。その主要因は、自国で大量に採掘される褐炭を利用した火力発電である。褐炭は石炭の一種だが、褐色なのでそう呼ばれる。品質は石炭に劣る。
前のメルケル政権は、原子力も石炭・褐炭もやめると宣言した。原子力はともかくも、石炭や褐炭を止める分は天然ガスに置き換えざるを得ない。石炭と褐炭による発電は、全体の23.4%にも達している。天然ガスは現状で16%である。これが近々40%にもなる。
とするどこから天然ガスを調達するのか?
それは言わずと知れたロシアしかない。ロシアは今ウクライナ侵攻を狙っている。天然ガスパイプラインはウクライナを経由してヨーロッパに届く。
これらの事情が、国家セキュリティの観点からドイツの世論に重くのしかかることは間違ないだろう。

関連記事
-
私はNHKに偏見をもっていないつもりだが、けさ放送の「あさイチ」、「知りたい!ニッポンの原発」は、原発再稼動というセンシティブな問題について、明らかにバランスを欠いた番組だった。スタジオの7人の中で再稼動に賛成したのは、
-
3人のキャスターの飾らない人柄と親しみやすいテーマを取り上げることで人気の、NHK「あさイチ」が原子力発電を特集した。出演者としてお招きいただいたにもかかわらず、私の力不足で議論を深めることにあまり貢献することができなか
-
原発再稼働をめぐり政府内で官邸・経済産業省と原子力規制委員会が綱引きを続けている。その間も、原発停止による燃料費の増加支出によって膨大な国富が海外に流出し、北海道は刻々と電力逼迫に追い込まれている。民主党政権は、電力会社をスケープゴートにすることで、発送電分離を通じた「電力全面自由化」に血道を上げるが、これは需要家利益にそぐわない。いまなすべきエネルギー政策の王道――それは「原子力事業の国家管理化」である。
-
バイデン政権は温暖化防止を政権の重要政策と位置づけ、発足直後には主要国40ヵ国の首脳による気候サミットを開催し、参加国に2050年カーボンニュートラルへのコミットや、それと整合的な形での2030年目標の引き上げを迫ってき
-
グレートバリアリーフのサンゴ被覆面積が増えつつあることは以前書いたが、最新のデータでは、更にサンゴの被覆は拡大して観測史上最大を更新した(報告書、紹介記事): 観測方法については野北教授の分かり易い説明がある。 「この素
-
1.第5次エネルギー基本計画の議論がスタート 8月9日総合資源エネルギー調査会基本政策部会においてエネルギー基本計画の見直しの議論が始まった。「エネルギー基本計画」とはエネルギー政策基本法に基づいて策定される、文字どおり
-
東京都の太陽光パネルの新築住宅への義務付け条例案が6月24日までの期限で一般からの意見募集(パブコメ)を受け付けている(東京都による意見募集ホームページはこちら)。 懸念はいくつもあるが、最近気が付いた重大なことがある。
-
小泉環境相が悩んでいる。COP25で「日本が石炭火力を増やすのはおかしい」と批判され、政府内でも「石炭を減らせないか」と根回ししたが、相手にされなかったようだ。 彼の目標は正しい。石炭は大気汚染でもCO2排出でも最悪の燃
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間