脱炭素化でガソリンは値上がりするか
ガソリン価格が1リットル170円を上回り、政府は価格をおさえるために石油元売りに補助金を出すことを決めました。他方で政府は、脱炭素化で化石燃料の消費を減らす方針です。これはいったいどうなってるんでしょうか。
レギュラーガソリンの小売価格の全国平均は24日時点で1リットル当たり170.2円に
政府は、価格を抑えるため、石油元売り会社に補助金を出す異例の対策を、初めて発動する方針を明らかにしました。27日以降に適用されますhttps://t.co/ZYIQ6kt7UQ
— NHKニュース (@nhk_news) January 25, 2022
Q1. 脱炭素化って何ですか?
これは炭素を減らすことではなく、CO2(二酸化炭素)を減らすことです。具体的には、燃やすとCO2の出る化石燃料の消費を減らし、CO2が出ないようにすることです。
Q2. 化石燃料って何ですか?
遺跡を発掘して出てくる化石と同じように、地球に昔くらしていた生物が分解されて地下に沈み、圧縮されたり熱で温められたりして、燃えやすい成分に変化したのが化石燃料です。そのうち石油は微生物が圧縮されて液体になったものです。これを精製してガソリンや重油や灯油などをつくるので、ガソリンも化石燃料です。
Q3. 化石燃料の排出を減らすにはどうすればいいんですか?
いろんな方法がありますが、いちばん簡単なのは、化石燃料に税金をかける炭素税(カーボンプライス)です。たとえばガソリンに100%の炭素税をかければ、値段は2倍になるので、ドライバーのみなさんがガソリンを使わなくなってCO2の排出が減るわけです。タバコをなくすためにタバコ税を上げるのと同じです。
しかし増税は政治的に人気がないので、日本政府は石炭火力やガソリン車の禁止などの裁量的規制でCO2を減らそうとしています。これはコストがかからないようにみえますが、日本から製造業が逃げ出して雇用が失われ、国民はもっと大きなコストを負担することになります。
Q4. 炭素税はどれぐらいかかるんですか?
2050年にCO2の排出を実質ゼロにするという政府の目標を実現するには、ガソリンが170円になる程度では足りません。IEA(国際エネルギー機関)は、化石燃料への投資をゼロにして、その消費を90%減らさないといけないと試算しています。
ガソリンの消費を90%減らすには1リットル300円以上にし、ガソリンエンジンの自家用車は廃止するしかありません。電気代は2倍以上になります。再エネ100%にすると、電気代は4倍になります。
Q5. それなのに170円になったら補助金を出すのはどうしてですか?
世界的に資源価格が上がっているので、石油元売りの赤字を補填して卸値を下げる一時しのぎですが、資源価格が上がるのは一時的な現象ではありません。その原因は国連の「化石燃料への投資をゼロにする」という方針ですから、これが変わらない限り資源インフレは続きます。
ガソリンは原油を精製してつくるので、石油精製工場が減ると、ガソリンの供給が減って値段が上がるのです。脱炭素化とかカーボンプライスとか、わかりにくいことばを使っているから、岸田首相にも脱炭素化で家計負担が激増することが実感としてわからないのでしょう。
Q6. ガソリンが値上がりしたら、生活は苦しくなりますね?
でもそれが脱炭素化です。CO2を急激に減らすと、家計負担とのトレードオフ(あちら立てればこちらが立たず)がおこるのです。岸田さんは気候変動対策で「環境と経済成長の好循環」が起こるといっていますが、どういう好循環が起こるのか、具体的に示したことがありません。
Q7. もうかる企業もありますね?
電気自動車は脱炭素化でもうかる数少ない産業ですが、去年のテスラの販売台数は93万台。全世界で1000万台売るトヨタの1割にもなりません。自動車は衰退産業なので、今より大きくなることはありえない。
水素やアンモニアでもうかるのは、その設備をつくる会社だけで、それを使って発電する会社は、1キロワット時あたり約100円の水素を燃やして、20円以下の天然ガスと同じ電力をつくるので、大幅な赤字になります。政府がその損を埋める巨額の補助金を出さない限り、ビジネスとしては成り立たない。
Q8. 経済は成長するんでしょうか?
IEAは、2050年にCO2を「ネットゼロ」にするには、毎年4兆ドルのコストがかかると試算しています。これは世界のGDP(国内総生産)の5%ですが、リターンは気温が1.5℃下がるだけ。つまり脱炭素化で成長率は5%下がるのです。これが30年続くと、GDPは80%下がります。
政府が考えるべきなのは、そのコスト負担をどう公平にするかということです。「グリーン成長」などという幻想をふりまくから、脱炭素化で成長できると錯覚した企業が化石燃料投資をやめ、インフレが起こっているのです。
Q9. では政府も日経新聞も「脱炭素化で成長する」というのはなぜでしょうか?
経産省や環境省にとっては、脱炭素化にばらまく補助金を獲得でき、日経新聞にとっては脱炭素化の広告を取れるからでしょう。それにあおられて脱炭素化に投資した企業が莫大な赤字を出しても、それを救済する数十兆円の財源はありません。
民主党政権のやった再生可能エネルギーの固定価格買い取り(FIT)は大失敗だったので、岸田政権は二度とやらないでしょう。ガソリンが170円になったぐらいでビビる政権が、ガソリン価格が何倍にもなる炭素税をかけることはありえない。
Q10. 脱炭素化は必要ないんでしょうか?
気候変動対策は必要ですが、日本がCO2排出をゼロにしても、地球の平均気温は0.01℃も下がりません。排出量を急激に減らそうとすると莫大なコストがかかりますが、今回のガソリン騒動でわかったように、それは政治的に不可能なのです。
「グリーン成長」などという幻想を振りまくのをやめ、脱炭素化のメリットだけではなくコストを正直に明らかにし、どれぐらいコストを負担してもいいかという費用対効果を国民が判断すべきだと思います。

関連記事
-
経済産業省は1月14日、資源・エネルギー関係予算案を公表した。2015年度(平成27年度)当初予算案は15年度7965億円と前年度当初予算比で8.8%の大幅減となる。しかし14年度補正予算案は3284億円と、13年度の965億円から大幅増とし、総額では増加となる。安倍政権のアベノミクスによる積極的な財政運営を背景に、総額での予算拡大は認められる方向だ。
-
財務情報であれば、業種も規模も異なる企業を同じ土俵で並べて投資対象として比較することができます。一方で、企業のESG対応についても公平に評価することができるのでしょうか。たとえば、同じ業種の2社があり財務状況や成長性では
-
菅首相の16日の訪米における主要議題は中国の人権・領土問題になり、日本は厳しい対応を迫られると見られる。バイデン政権はCO2も重視しているが、前回述べた様に、数値目標の空約束はすべきでない。それよりも、日米は共有すべき重
-
シェブロン、米石油ヘスを8兆円で買収 大型投資相次ぐ 石油メジャーの米シェブロンは23日、シェールオイルや海底油田の開発を手掛ける米ヘスを530億ドル(約8兆円)で買収すると発表した。 (中略) 再生可能エネルギーだけで
-
美しい山並み、勢い良く稲が伸びる水田、そしてこの地に産まれ育ち、故郷を愛してやまない人々との出会いを、この夏、福島の地を訪れ、実現できたことは大きな喜びです。東日本大震災後、何度も日本を訪れる機会がありましたが、そのほとんどが東京で、福島を訪れるのは、2011年9月の初訪問以来です。
-
今年11月にパリで開かれるCOP21(第21回国連気候変動枠組条約締結国会議)では、各国が気候変動についての対策とCO2の削減目標を出すことになっている。日本もそれに向けて、5月までにはエネルギーミックスを決めることになっているが、あいかわらず「原子力を何%にするか」という問題に論議が集中している。
-
福島第一原子力発電所の処理水を海洋放出することについて、マスコミがリスクを過大に宣伝して反対を煽っているが、冷静に考えてみれば、この海洋放出は実質無害であることが分かる。 例えば、中国産の海産物を例にとってみてみよう。
-
小泉元首相を見学後に脱原発に踏み切らせたことで注目されているフィンランドの高レベル核廃棄物の最終処分地であるONKALO(オンカロ)。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間