英国人の5人に3人はネットゼロエミッションのための増税に反対
COP26において1.5℃目標、2050年カーボンニュートラルに向けて強い政治的メッセージをまとめあげた英国であるが、お膝元は必ずしも盤石ではない。
欧州を直撃しているエネルギー危機は英国にも深刻な影響を与えている。来春には英国のガス、電力価格は50%上昇するとの見方もある。卸売り価格が急騰する中で英国ではプライスキャップが適用されており、消費者に直ちに転嫁することを禁じている。現時点でプライスキャップは年間1277ポンドに設定されているが、来春にはこれを引き上げるという計画であり、これは消費者の負担を増大させることを意味する。
エネルギー産業の業界団体Energy UK のピンチベック事務局長は「昨今のエネルギー価格の上昇は経験したことがないものであり、冬季のしかもオミクロン株が広がっている中でのエネルギー価格上昇は消費者に大きな打撃である。消費者の支払うエネルギー料金のうち、エネルギー供給事業者がコントロールできるのは5分の1程度であり、大きいのはVATやグリーン課金等の政策コストである」と述べている。
Net Zero Watch が実施した世論調査によれば、70%の英国人はクリスマスにおけるエネルギーコスト上昇に強い懸念を有しており、58%の英国人はネットゼロ目標達成のためにエネルギーコストに課される高額の税金を支払うつもりがないとしている。また65%の英国人は政府のネットゼロ政策について十分意見を聞かれていないと感じている。
また回答者の60%は政府のグリーン補助金(ガスボイラーをヒートポンプに代えた場合5000ポンド補助、電気自動車を購入する場合、35%まで補助等)を使うつもりはないとしている。
地質調査によれば英国のボウランド盆地には1300兆立方フィートのシェールガスが埋蔵されており、うち25兆立方フィート、現在の価格で1兆ポンド相当ののシェールガスが採掘可能であるとされているが、英国政府は環境保護を理由にシェールガス開発をモラトリアムとしている。米国のバイデン政権が連邦所有地におけるシェールオイル・ガス生産を禁止しているのと同様である。
英国政府はCOP26において化石燃料に関する公的融資停止に関する共同声明採択を主導したが、欧州のエネルギー危機の原因の一つが化石燃料上流投資の不足によって需要超過になっていることを考えれば政府の施策がエネルギー価格高騰に拍車をかけているという指摘は決して的外れではない。
冬場の英国を悩ませるエネルギー危機の状況如何によっては、パリ協定が誕生したフランスをイエローベスト運動が席巻したのと同様、COP26のお膝元である英国においてグリーン政策に対する国民の支持がゆらぐことになるだろう。
関連記事
-
1. はじめに 2015年12月のCOP21で採択され、2016年11月4日に発効したパリ協定から約8年が経過した。我が国でも、2020年10月菅首相(当時)が、唐突に、2050年の脱炭素、カーボンニュートラルを発表し、
-
人工衛星からの観測によると、2021年の3月に世界の気温は劇的に低下した。 報告したのは、アラバマ大学ハンツビル校(UAH)のグループ。元NASAで、人工衛星による気温観測の権威であるロイ・スペンサーが紹介記事を書いてい
-
事故確率やコスト、そしてCO2削減による気候変動対策まで、今や原発推進の理由は全て無理筋である。無理が通れば道理が引っ込むというものだ。以下にその具体的証拠を挙げる。
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 5月26日、参議院本会議で「2050年までの脱炭素社会の実現」を明記した改正地球温暖化対策推進法(以下「脱炭素社会法」と略記)が、全会一致で可決、成立した。全会一致と言うことは
-
昨年発足した原子力規制委員会(以下、規制委員会)の活動がおかしい。脱原発政策を、その本来の権限を越えて押し進めようとしている。数多くある問題の中で、「活断層問題」を取り上げたい。
-
2023年4月15日(土曜日)、ドイツで最後まで稼働していた3機の原発が停止される。 ドイツのレムケ環境大臣(ドイツ緑の党)はこの期にご丁寧にも福島県双葉町の「東日本大震災・原子力災害伝承館」を訪れ、「福島の人々の苦しみ
-
原子力発電は「トイレの無いマンション」と言われている。核分裂で発生する放射性廃棄物の処分場所が決まっていないためだ。時間が経てば発生する放射線量が減衰するが、土壌と同じ放射線量まで減衰するには10万年という年月がかかる。
-
筆者はかねがね、エネルギー・環境などの政策に関しては、科学的・技術的・論理的思考の重要さと有用性を強調してきたが、一方で、科学・技術が万能だとは思っておらず、科学や技術が人間にもたらす「結果」に関しては、楽観視していない
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間