良い石炭火力もある:教条主義的善悪二元論に囚われるな
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westcowboy/iStock
化石賞
日本はCOP26でも岸田首相が早々に化石賞を受賞して、日本の温暖化ガス排出量削減対策に批判が浴びせられた。とりわけ石炭火力発電に対して。しかし、日本の石炭火力技術は世界の最先端にある。この技術を世界の先進国のみならず、途上国に輸出すれば、世界の二酸化炭素排出量の削減に大いに貢献できるのである。
石炭火力は良い選択
最新式の石炭火力発電では、石炭を粉塵から気化させてあたかも天然ガスのように燃焼させて直接ガスタービンを回して発電する方式を採用している。ガスタービンと同時に回収した熱を利用して蒸気タービンも回せるので非常に効率が良い。
石炭ガス化複合発電(IGCC)と称し、日本が世界をリードする技術である。福島県広野の石炭火力や大崎クールジェンプロジェクトなどがそれである。
ゼロカーボン石炭火力発電
その結果、既存の通常方式である固形石炭を直に燃やして、冷却水を温めて蒸気を発生させるボイラー方式に比べて、排出する二酸化炭素を20%ほども削減できる。ゼロカーボンではないがクリーンコール発電と言っても良い。また、二酸化炭素の回収貯留(CCS)や再利用(CCUS)と組み合わせれば、事実上のゼロカーボン石炭火力発電が実現できる。
石炭火力は今や悪の象徴のようなレッテル貼りが横行しているが、こうしてみると結構良い〝使える〟発電方式なのである。
善悪二元論vs.科学的リアリズム
ここにも善悪二元論の行き過ぎたプロパガンダが影を落としている。それは人類の持続可能な未来を考える上で、非科学的のみならず経済的にも非合理な道を選択することになる。
現在、世界の総発電量の約4割を石炭火力が担っている。そもそも脱石炭宣言をしている国の数は、そんなに多くないのである。この地球上から石炭火力をなくすことなどできそうにもない。
中国は、今年9月にCOP26を意識して、今後新たな石炭発電プロジェクトを海外で行わないと習主席が国連総会で表明したが、今後の行方を見守る必要があろう。そもそも世界最大の石炭火力大国である中国は自国の石炭火力の今後については明確な方針は何も打ち出していない。2060年にゼロカーボンを目指すと言っているだけである。
一方、ASEANやインドの石炭火力の需要は、2040年までにほぼ倍増する見込みである。
主要な石炭火力発電国に日本の現行技術を導入すれば、現状で11億トン以上の二酸化炭素排出量を減らすことができる。この意義は大きい。IGCCに置き換えればさらなる削減が見込める。
教条主義的な善悪二元論―それは化石賞に象徴されるが―に陥るのか、あるいは科学的なリアリズムを選択するのか。
二酸化炭素の排出量をそんなに減らしたいのなら、後者を選択すべきである。そもそもこの地上から石炭火力発電を殲滅などできないのであるから。
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