IPCC報告の論点㉟:欧州の旱魃は自然変動の範囲内
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。
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Nes/iStock
欧州で旱魃が起きたことは、近年の「気候危機」説の盛り上がりに大いに火を付けた。
しかし、欧州の近年の旱魃は、自然変動の範囲内だ、とするイオニータらの論文が出たので紹介する。(論文、解説記事)
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図1 2018年の欧州における旱魃。指数PDSIの意味については本文参照。
2013年のIPCC 第5次報告書では、旱魃が増加したという確信度は低いとされていた。
だがわずか8年後の第6次報告書では、「旱魃が増加したという確信度は中程度である」となった。そして「人間の影響がほとんどの地域の気象学的な旱魃に影響を与えたという確信度は低いが、いくつかの特定の事象の深刻さに貢献したという確信度は中程度である」「人為的な気候変動が、最近の農業および生態学的な旱魃の確率または強度の増加傾向に寄与したという確信度は中程度である」などとなっている。
しかし、イオニータ論文によれば、旱魃の指数PDSIは、過去1000年にわたって大きく変動してきた。そして現在の変動範囲は、歴史的な変動の範囲内に収まっている(図2)。
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図2 中央ヨーロッパ(図1の黒線の中、ドイツなど)における地域平均のPDSI指数。青線は31年の移動平均。
PDSIとは、パルマ―旱魃強度指数と呼ばれるもの。降水量と気温の観測データから計算される。マイナスになるほど旱魃になりやすいことを示す。
この研究は、複数の独立した観測データ、古気候データ(=地層中の花粉などの分析)、歴史的文献等の分析に基づくものだ。
過去約100年の1901年から2012年の間に、ヨーロッパで最も旱魃が激しかった年は1921年と1976年であった。
過去1000年で見ると、1102年、1503年、1865年、1921年の旱魃が最も激しかった。
またその間、中央ヨーロッパでは1400~1480年と、1770~1840年の2回にわたり頻繁に旱魃が起きた。
この中央ヨーロッパでの2つの大旱魃は、太陽活動が弱く黒点数が極小だったスポイラー極小期とダルトン極小期に一致しているという。
論文では、近年の旱魃は、長期的な観点から見れば、自然変動の範囲内であり、過去千年間で前例がないわけではない、と結論している。
イオニータらは、近年の人為的気候変動の影響が無いとしている訳では無い。しかし、仮に今後CO2排出量を可能な限り少なくしても、自然変動によって、欧州はかなりの乾燥に直面しうるだろう、としている。
■
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
【関連記事】
・IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
・IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
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・IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
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・IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
・IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
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・IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
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・IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
・IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
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・IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた
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・IPCC報告の論点㉘:やはりモデル予測は熱すぎた
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・IPCC報告の論点㉝:CO2に温室効果があるのは本当です
・IPCC報告の論点㉞:海氷は本当に減っているのか
■
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