IPCC報告の論点㉟:欧州の旱魃は自然変動の範囲内
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。
欧州で旱魃が起きたことは、近年の「気候危機」説の盛り上がりに大いに火を付けた。
しかし、欧州の近年の旱魃は、自然変動の範囲内だ、とするイオニータらの論文が出たので紹介する。(論文、解説記事)
2013年のIPCC 第5次報告書では、旱魃が増加したという確信度は低いとされていた。
だがわずか8年後の第6次報告書では、「旱魃が増加したという確信度は中程度である」となった。そして「人間の影響がほとんどの地域の気象学的な旱魃に影響を与えたという確信度は低いが、いくつかの特定の事象の深刻さに貢献したという確信度は中程度である」「人為的な気候変動が、最近の農業および生態学的な旱魃の確率または強度の増加傾向に寄与したという確信度は中程度である」などとなっている。
しかし、イオニータ論文によれば、旱魃の指数PDSIは、過去1000年にわたって大きく変動してきた。そして現在の変動範囲は、歴史的な変動の範囲内に収まっている(図2)。
PDSIとは、パルマ―旱魃強度指数と呼ばれるもの。降水量と気温の観測データから計算される。マイナスになるほど旱魃になりやすいことを示す。
この研究は、複数の独立した観測データ、古気候データ(=地層中の花粉などの分析)、歴史的文献等の分析に基づくものだ。
過去約100年の1901年から2012年の間に、ヨーロッパで最も旱魃が激しかった年は1921年と1976年であった。
過去1000年で見ると、1102年、1503年、1865年、1921年の旱魃が最も激しかった。
またその間、中央ヨーロッパでは1400~1480年と、1770~1840年の2回にわたり頻繁に旱魃が起きた。
この中央ヨーロッパでの2つの大旱魃は、太陽活動が弱く黒点数が極小だったスポイラー極小期とダルトン極小期に一致しているという。
論文では、近年の旱魃は、長期的な観点から見れば、自然変動の範囲内であり、過去千年間で前例がないわけではない、と結論している。
イオニータらは、近年の人為的気候変動の影響が無いとしている訳では無い。しかし、仮に今後CO2排出量を可能な限り少なくしても、自然変動によって、欧州はかなりの乾燥に直面しうるだろう、としている。
■
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
【関連記事】
・IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
・IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
・IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
・IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
・IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
・IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
・IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
・IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
・IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
・IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
・IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
・IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
・IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
・IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
・IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
・IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
・IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
・IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
・IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
・IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
・IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
・IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉖:CO2だけで気温が決まっていた筈が無い
・IPCC報告の論点㉗:温暖化は海洋の振動で起きているのか
・IPCC報告の論点㉘:やはりモデル予測は熱すぎた
・IPCC報告の論点㉙:縄文時代の北極海に氷はあったのか
・IPCC報告の論点㉚:脱炭素で本当にCO2は一定になるのか
・IPCC報告の論点㉛:太陽活動変化が地球の気温に影響した
・IPCC報告の論点㉜:都市熱を取除くと地球温暖化は半分になる
・IPCC報告の論点㉝:CO2に温室効果があるのは本当です
・IPCC報告の論点㉞:海氷は本当に減っているのか
■
関連記事
-
合理性が判断基準 「あらゆる生態学的で環境的なプロジェクトは社会経済的プロジェクトでもある。……それゆえ万事は、社会経済的で環境的なプロジェクトの目的にかかっている」(ハーヴェイ、2014=2017:328)。「再エネ」
-
化石賞というのはCOP期間中、国際環境NGOが温暖化防止に後ろ向きな主張、行動をした国をCOP期間中、毎日選定し、不名誉な意味で「表彰」するイベントである。 「化石賞」の授賞式は、毎日夜6時頃、会場の一角で行われる。会場
-
松田公太氏の記事は、猪瀬直樹氏などが岸田首相に売り込んだ「モデルチェンジ日本」の提言だが、基本的な事実誤認があるので、簡単に指摘しておく。 自動車メーカーは斜陽産業 この提言は「日本の自動車メーカーはテスラに追いつけ」と
-
こちらの記事で、日本政府が企業・自治体・国民を巻き込んだ「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」を展開しており、仮にこれがほとんどの企業に浸透した場合、企業が国民に執拗に「脱炭素」に向けた行動変容を促し、米国
-
経済産業省で12月12日に再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(以下単に「委員会」)が開催され、中間とりまとめ案が提示された(現在パブリックコメント中)。なお「中間とりまとめ」は役所言葉では報告書とほぼ同義と考え
-
ドイツ連邦軍の複数の退役パイロットが、中国人民解放軍で戦闘機部隊の指導に当たっているというニュースが、6月初めに流れた。シュピーゲル誌とZDF(ドイツの公営テレビ)が共同取材で得た情報だといい、これについてはNATOも中
-
丸川珠代環境相は、除染の基準が「年間1ミリシーベルト以下」となっている点について、「何の科学的根拠もなく時の環境相(=民主党の細野豪志氏)が決めた」と発言したことを批判され、撤回と謝罪をしました。しかし、この発言は大きく間違っていません。除染をめぐるタブーの存在は危険です。
-
前稿で紹介した、石橋克彦著「リニア新幹線と南海トラフ巨大地震」(集英社新書1071G)と言う本は、多くの国民にとって有用と思える内容を含んでいるので、さらに詳しく紹介したい。 筆者は、この本から、単にリニア新幹線の危険性
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間