米国15州、脱炭素を標榜する金融機関との取引停止を示唆

2021年12月08日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

Tenedos/iStock

バイデン政権は、米国内の金融機関に化石燃料産業への投資を減らすよう圧力をかけてきた。そして多くの金融機関がこれに応じてポートフォリオを変えつつある。

これに対して、11月22日、15の州の財務長官らが叛旗を翻した。

すなわち、連名で大手金融機関に書簡を送り、「石炭・石油・天然ガス産業への融資を打ち切った金融機関とは、州の資金の預け入れなどの取引関係を解消する」と脅した。

National Review誌が報じている(”Fifteen States Respond to ‘Woke Capitalism’, Threaten to Cut Off Banks That Refuse to Service to Coal, Oil Industries “)。

すなわち、

15州の財務担当者の連合は月曜日、米国の銀行業界に書簡を送り、石炭、石油、天然ガス産業への融資を断つ企業方針を採用した銀行に対して「集団行動」を取る予定であることを警告した。. . . この書簡では、「州の収入の大部分を減少させることを目的とした政策を採用した」金融機関に対して、「州の資金を保有、維持、管理することに大きな利益相反がある」と警告した。

この書簡に署名した州は、ウェストバージニア州、アリゾナ州、アーカンソー州、アイダホ州、ルイジアナ州、ミズーリ州、ネブラスカ州、ノースダコタ州、サウスカロライナ州、サウスダコタ州、ユタ州、ワイオミング州、アラバマ州、テキサス州、ケンタッキー州である。いずれも化石燃料産業が経済にとって重要な州だ。

書簡の受取人には、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴ、シティグループ、ゴールドマン・サックスなどの大手が含まれている。

各州の口座と年金基金を合わせると、問題となる金額は1兆ドルとはいかないまでも、数千億ドルに達すると見られる。

翻って日本はどうか。

日本でも、金融機関は化石燃料産業への投資から撤退するという方針を発表している。だがその一方で、化石燃料を利用する産業(ほとんどの産業がそうだが)は多くの自治体の経済の根幹になっている。ならば、自治体の資金をそれら金融機関が預かることは、利益相反となる。

構図は全く同じだ。日本でも、自治体から金融機関に書簡が送られる日が近いのだろうか。

クリックするとリンクに飛びます。

「脱炭素」は嘘だらけ

 

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 原子力基本法が6月20日、国会で改正された。そこに「我が国の安全保障に資する」と目的が追加された。21日の記者会見で、藤村修官房長官は「原子力の軍事目的の利用意図はない」と明言した。これについて2つの新聞の異なる立場の論説がある。 産経新聞は「原子力基本法 「安全保障」明記は当然だ」、毎日新聞は「原子力基本法 「安全保障目的」は不要」。両論を参照して判断いただきたい。
  • 今回の大停電では、マスコミの劣化が激しい。ワイドショーは「泊原発で外部電源が喪失した!」と騒いでいるが、これは単なる停電のことだ。泊が運転していれば、もともと外部電源は必要ない。泊は緊急停止すると断定している記事もあるが
  • GEPRフェロー 諸葛宗男 はじめに 日本は約47トンのプルトニウム(Pu)を保有している。後述するIAEAの有意量一覧表に拠れば潜在的には約6000発の原爆製造が可能とされている。我が国は「使用目的のないプルトニウムは
  • 筆者はかねがね、エネルギー・環境などの政策に関しては、科学的・技術的・論理的思考の重要さと有用性を強調してきたが、一方で、科学・技術が万能だとは思っておらず、科学や技術が人間にもたらす「結果」に関しては、楽観視していない
  • 1. COP28開催 COP28がUAEのドバイで始まった。今年の会議で、化石燃料の未来に加えて大きな問題となっているのは「損害と損傷」であるが、10月21日の予備会合では成果もなく終わっている。 COPでは、毎回多くの
  • 2021年8月経済産業省は、太陽光、風力、原子力、石炭、液化天然ガスなど電源の2030年における発電コストの精査結果を公表した。この発電コストは、LCOE(Levelized cost of electricity、均等
  • 国の予算の使い方が、今批判を集めている。国の活動には、民間と違って、競争、市場による制約がないため、予算の無駄が生まれやすい傾向があることは確かだ。
  • 「それで寿命は何秒縮む」すばる舎1400円+税 私は、2011年の東京電力福島第1原発事故の後で、災害以降、6年近く福島県内だけでなく西は京都、東は岩手まで出向き、小学1年生から80歳前後のお年寄まで、放射線のリスクを説

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑