COP26の評価と課題①

2021年11月21日 07:00
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東京大学大学院教授

GraPro/iStock

G20では野心的合意に失敗

COP26直前の10月31日に「COP26議長国英国の狙いと見通し」という記事を書いた。

その後、COP26の2週目に参加し、今、日本に戻ってCOP26直前の自分の見通しと現実を比較してみると、当たっているところと外れているところがある。

議長国英国がG7で打ち出した1.5℃目標、2050年カーボンニュートラル、石炭火力からの脱却がG20サミットでは受け入れられないだろうという読みは当たった。

10月31日のG20首脳声明を見ると、温度目標については「世界の平均気温の上昇を、工業化以前よりも 2℃より十分に下回るものに抑え、工業化以前よりも 1.5℃高い水準までのものに制限するための努力を追求するというパリ協定の目標に引き続きコミットする。我々は、1.5℃の気候変動の影響は、2℃の場合よりもはるかに低いことを認識する。1.5℃に抑えることを射程に入れ続けるためには・・全ての国による 意味のある効果的な行動及びコミットメントが必要」、2050年カーボンニュートラルについては「G20 メンバーが・・・最新の科学的発展及び各国の事情に沿って、この 10年にさらなる行動をとり、必要に応じて2030年の国が決定する貢献(NDC)を策定し、実施し、更新し、強化し、 ・・・・・・今世紀半ばまでに、または今世紀半ば頃に(by or around mid-century)人為的な排出量と吸収源による除去量の均衡を達成することと整合的である、明確かつ予測可能な道筋を定めた長期戦略を策定することにコミットする」とされた。

「by mid-century」はG7諸国、「around mid-century」はそれ以外という書き分けがなされているところがミソである。いずれも1.5℃目標や2050年カーボンニュートラルを明確に打ち出したG7サミットの首脳声明よりも明らかに後退した内容である。

石炭火力については「低炭素な電力システムに向けた移行を可能にするため、持続可能なバイオエネルギーを含むゼロ炭素又は低炭素排出及び再生可能な技術の展開及び普及に関して協力する。また、これは、排出削減対策が講じられていない新たな石炭火力発電所への投資をフェーズアウトさせていくことにコミットする国々が、可能な限り早くそれを達成することを可能にする」とされている。

これはG20諸国全体が石炭火力発電所への新規投資をフェーズアウトすることを意味するものではなく、2030年代の電力システムの脱炭素化の最大限推進や、石炭火力からの脱却を打ち出したG7サミット首脳声明よりも後退したものになっている。だからこそG20サミット後、ジョンソン首相もバイデン大統領もG20の結果に失望を隠さなかったのである。

COP26では1.5℃が前面に

筆者の読みが外れたのはCOP26の帰趨である。G20で侃々諤々の議論の末、まとまった文言が最大限であり、それ以上踏み込むことはないであろうと思っていたのだが、G20の結界は破られた。

COP26で採択されたグラスゴー気候協定(Glasgow Climate Pact)においては、

  1. 1.5℃に抑制するよう努力することを決意する
  2. 1.5℃に温度上昇を抑制するためには2030年に全球排出量を2010年比45%削減、今世紀半ば頃にネットゼロにすることが必
  3. そのため2020年代を「勝負の10年」とし、この期間に野心レベルをスケールアップするための作業計画をCOP27で採択する、
  4. 締約国に対し、必要に応じ、パリ協定の温度目標に整合的な形で2022年末までに自国の目標(NDC:Nationally Determined Contribution)を見直し、強化することを求める

等が盛り込まれた。これはG20のラインを明らかに超えている。予想されたように中国、インド、サウジ等はG20のラインを念頭に1.5℃を特出しすることに否定的な反応であった。

しかしG20とCOPでは異なる力学が働く。G20はG7と新興国のせめぎ合いの場であるが、COPにおいては主要経済国のみならず、温暖化の被害を受けやすい脆弱な島嶼国、低開発国の発言力が大きく、議場内外での環境NGOの影響力もある。中国、インド等の新興国は1.5℃目標による経済成長への影響を、資源国は化石燃料輸出への影響を懸念するが、島嶼国、低開発国は温度目標のハードルがあがることにより適応やロス&ダメージに関する支援拡大を期待できる。

議長案に対するストックテークプレナリーの場では1.5℃を強く支持するコメントに議場から大きな拍手がわく等、巨大な同調圧力が形成されていった。英国はそうした議場内世論をテコに1.5℃目標を前面に押し出すことに成功したのである。

石炭火力フェーズダウン

また合意文書には「削減対策のとられていない石炭火力のフェーズダウン、非効率な化石燃料補助金のフェーズアウトの加速に努める」との文言も盛り込まれた。G20においては9月の国連総会で中国が海外における新規の石炭火力建設を行わないと表明したため、G7と同様、海外の石炭火力新設への公的融資の停止というメッセージが盛り込まれていたが、今回の合意内容は国内の石炭火力にも及ぶものだ。

当初案は「石炭のフェーズアウト」と電力以外も包含するものであったが、1.5℃目標と同様、中国、インド、サウジ、南ア等から強い反対があり、「削減対策のとられていない石炭火力のフェーズアウト」という表現に改められた。

しかし最終段階に至ってもインド、中国、南ア等はそれでも納得せず、インドは「貧しい人に対する安価で安定的な電力は国の最優先課題である」と主張し、「フェーズアウト」を「フェーズダウン」とし、「各国の国情に沿った貧しく脆弱な人々への支援を行い、公正な移行への支援の必要性を認識しつつ」という配慮事項も追加された。

これに対してEU、島嶼国等は一斉に反発したが、全体の合意パッケージを通すという観点で不承不承これを受け入れた。シャルマ議長が苦渋の表情でインド提案を受け入れ涙を流し、会場から拍手がおきるという一幕もあった。トーンダウンしたとはいえ、特定のエネルギー源を狙い撃ちする表現はパリ協定及びその関連決定では初めてのことである。

(②につづく)

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